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リツトの女神召喚記  作者: 三宝すずめ
第二話 黄色大地
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勇者、大地へ降りる

 空中に浮かぶ崖を越えた先、一行の前には更に巨大な山が聳えていた。フォークリードを二分する一大山岳地帯であると、カゲトラは異邦者たちへ説明する。


「さあさあ、こちらですぞ!」


 説明もそこそこに、はしゃぐトラネコが一匹。故郷に戻れたことが余程嬉しかったのか、鮮やかな橙色の陣羽織を翻し、ついて来いと勇者らを手招きしている。


「お、おい、オレら浮いてないか?」

「そのようですね、ライア。村と村でも文化が異なるものと、理解をしていたつもりでしたが――島一つ変わるとこうまで変わるのですね」


 ほへぇ、と間の抜けた声を洩らしながら、二人の女性はキョロキョロと視線を這わせていた。カゲトラが早く早くと言っているが、生まれ育った地との違和がなかなか埋まらず、足は動かなかった。


 一行が立ちつくしている町の名はゾーゲン。一言で表すならば、雑多な町だ。


 最果てにして賑やぐ町には、道路の両端びっしりと商店が並んでいる。天幕しかない商店とは呼べない粗末なものから、車輪のついた屋台風のもの、レンガ作りの建物――一見しただけではおよそ何の店かよくわからないそれらがところ狭しとひしめきあっていた。


 更にはその場にいる人が一風変わっている。人というか、カゲトラのようなネコがいるかと思えば、舌をダラリと垂らしたイヌがいる。サルがいる。ゴリラがいる――しかしそのいずれも一様に二足歩行をしている。あるものは商いを、あるものは買い物を行っていた。


活気づいていることに違いはないが、統一感のない雑多な街だという感想を隣の島から来た女性たちは浮かべていた。


「ったく。カゲトラと御神刀を返しに行く話さえなければ、観光の一つもしたかったんだがな――と、リット。お前まだ落ち込んでんのか?」

「……落ち込んでなんかないよ」


 目を輝かせる女性陣とは真逆に、沈んだ声を少年は返していた。その視線は、手にした剣――流石に町中なので鞘にしまってあるが――へ落とされていた。剣に埋め込まれた宝玉は、いつもならば赤く輝こうものだが、今はくすんだ黒が混じりこんでいる。


「女神の心配するなんて、お前何様……じゃないな。その優しさこそが、お前さんの取り柄か」


 勇者が村の惨事を前に怒りの炎を燃やした姿を思い出し、ライアはふぅと長く息を吐く。


「なんでライアが疲れたような顔してるの?」

「なんでってなぁ……」


 ようやく顔を上げたリツトに安堵したいところではあったが、今度は彼女が表情を曇らせていた。燃えるような赤髪を掻きながら考える――が、考えたところで、己がこの少年を心配する理由は見えて来なかった。


「ライアは、リット殿のことが好きなんですよ!」

「キャアアァッ!?」


 驚きの余り、悲鳴が上がる。突然メリカが彼女の肩に手を置いた、至極単純な事柄なのであるが、そのタイミングと発せられた言葉が悪かった。驚きやら何やらよくわからない感情がぜになった風の神器使いは裏拳を振るい、続いて腰の物へ手を掛けていた。


「こんなところで神器を抜いては騒ぎになりますよ?」

「……お前、マジで一回ぶっ飛ばすからな」


 普段の言動からは想像もできない、少女のような悲鳴を上げてしまい、ライアは頬を紅潮させていた。それに対して、割と手加減のない攻撃が出されたにもかかわらずメリカは微笑んでみせる。


そんな二人の仲の良い? やり取りを見ていると、リツトの表情にも笑顔が戻っていた――同時に、メリカという生き物に対する謎は深まったが。


「よし、デウセレナが心配するなって言ったんだ。元気出すよ!」


 剣を背に納め、勇者は待ちくたびれた様子のトラネコの元へ歩き出す。前向きなリツトは既に心のスイッチを切り替え終えていた。悔いるためではなく、今後失敗しないよう村を出た直後の話を思い返す。




「わぁっ」


 掛け値なしの感嘆をリツトは零していた。それは召喚された地、バウンダリィより神々の棲まう地への移動の間に起こったこと――眼下には、雲海と呼ぶに相応しい景色が広がっている。


「確かに、これは凄いな」


 少年に続き、ライアも同意の声を漏らす。一歩足を踏み間違えれば、底なしの青に呑み込まれてしまう。だというのに、彼らは恐怖ではなくただただ驚きを表情に浮かべていた。


『島々を包む青。私の好きな色です』


 追走するが如く飛ぶ勇者たちに、大きな存在は独り言のような声を漏らした。それは女神のものとわかるが、今見える姿は人型のそれではない――神鳥形態。足を折り返し、マントを羽に姿を変えたデウセレナは、鳥の如き形態をもって羽ばたきながら誇らしげにそう語っていた。


「ほんと、綺麗ですね」


 空を駆けることすら他人事のように、メリカも声を上げていた。その身を包む光こそ、この飛翔を可能とする神の奇跡であるのだが、これまで村で平凡に暮らしていた娘にはその偉大さは理解し得なかった。横では地に足が着かずにうろたえるのは、カゲトラだけだ。


「で、このまま神々の地を支配するやつのとこまではいけないんだっけ?」


 目の前に大きな崖が迫る中、リツトはのほほんと疑問を繰り返していた――既にここに来るまでに説明を受けている。だが、人間大のものを幾つも携えて飛ぶ女神ならば、それすらも覆すことが出来るのではないかと少年勇者は思っていた。


『すみません、リツト。こればかりは世界の在り方にぶつかりますので』


 申し訳なさそうな声が、みなの元に響く。デイゴーとの戦いの中、デウセレナが説明しかけてやめたこと――この世界では上位の存在からより下位の存在へ力が流れるというもの。


 この世界の力の源は神にある。水も風も、世界にはあるがそれを流すのは神の力だ。より強い存在から小さきものへとその力は流れる。となれば、大きな存在である女神は、この世界からの影響を真っ先に受ける。神器から移された、デウセレナという形をもって、ようやく活躍が出来る。


「うむむ……」


 女神の説明に唸るリツト。魔法という奇跡を知る少年は、目の前で起こる現象はどれ程不可思議であっても受け入れることができる。だが、その理屈となると別だ。ハッキリ言って、別世界の常識というものはすぐには呑み込めない。


「まぁ、何だ。神同士の力はぶつかり合うから、デウセレナがこのまま神々の世界を横断すると悪い影響を受けるってことだ。それに、神の力がどれだけ大きかろうと、それを宿す神器には稼働の限界があるんだよ」

「あ、そういうことか」


 業を煮やしたライアが、説明を噛み砕いてくれたことで、リツトの難しい表情は氷解していった。きちんと理解をしたわけではないが、何となくわかった様子だ。ライアの説明はわかりやすかったのだろう、横ではメリカがうんうんと頷いていた。


「と、なると……」


 理屈が多少なりともわかったことで、リツトは独りぼやいた。女神がその存在規模を小さくして顕れているとわかれば、人知れず渋面を切ってしまう。


 デウセレナは今やジンに大きすぎる女神の力を乗り移らせている。そのため、彼女が世界に与える影響は極小に抑えられているが、同時に彼女へと降りる筈の力も抑えられている。女神でありながらも発揮できる力はごく僅かなものに限られていた。


 ジンを操ることに慣れていないリツトは、早くも先の戦いで女神に大きな傷を負わせていた。女神の力が制限されている以上、自分が頑張らねばと少年は表情を引き締める。


「……うん。早くみんなが元気になればと思って言ったんだけど、その、ごめん」


 少年は真面目に答えた女神へ言葉を返す。ただこの世界を救うために呼び出された彼自身に、大きな目的というものはない。それでも勇者になると決めたからには、人々が幸せであればいいな、と漠然とした考えがあった。


「リット殿、一っ飛びでは流石に無理だとは、さっきも女神が言っていたではないですか」

「……それが可能であったとしても、拙者は結構ですぞ。さっさと降りたい」


 メリカやカゲトラが、フォローの言葉を出してはいるが、感受性の高い少年勇者にはいまひとつ届かない。


「おい、カゲトラ。あれが?」

「そうです。拙者が生まれた国、黄色大地は中核の村――御神刀の納まる町、リオレイアです」

「へぇ、賑わってそうですね。って!?」


 メリカが続き安穏と台詞をつなぐのも束の間。デウセレナが身を大きくカシいだことで、並走する彼らにも影響が出ていたのだ。ダメージこそないものの、包まれた光の中身が揺れていた。


『リツト、みなさん――私は一度離れます!』


 凛とした声が響けば、これまで前方に向かっていた力が消失する。自由落下こそしないものの、放り出された勇者一行は予定よりも遥かに離れた大地の端へと降りることとなった。


「デウセレナっ!」


 姿が小さくなっていく女神へ、リツトは反射的に叫んでいた。


 自分たちを守るために、女神は一人飛び立っていた。彼女が向かった先には、ドス黒い闇が広がっている。それに構うことなく、女神のジンは翼を広げて飛びかかっていった。


「待って、デウセレナっ!」


 少年は再度叫ぶ。だが、それには彼の期待する答えは返ってこなかった。


『ここで私があの神の力を引き受けます。しばらくジンは、デウセレナは眠らせますが、リツト――哀しい顔をしないでください。すぐに戻ります』


 告げた女神は闇とともに消失した。ふわりと大地へと降ろされる彼らは、無力にその姿を眺めるしかなかった。


「……リツトさん」


 メリカが所在なさげに視線を這わせながら言葉を零していた。己を頼り、頼られる存在である筈の女神が闇に呑み込まれた――落ち込むには十分な理由があった。だが、その場ではリツトは彼女へ微笑んでいた。


 女神が大丈夫だと答えたのだ。それを信じるしか彼にはない。


 だが、しばらくデウセレナを眠らせる。その言葉に、リツトは不安の色を濃くしていた。




「――おい、リット!」

「え、ああ」


 物思いに耽っていたところでライアから少年は声を掛けられ、呻く。


「取りあえずは、この先に行ってから、だろ?」


 心配気な顔をした女性に、顔を覗き込まれて、リツトは苦笑いを浮かべた。頬がピクリと動いたことに気づき、少年は表情を繕い直す。


 女神と離れたことで、目的地――リオレイアからは離れた最端の町へと降り立っていた。


「うん。そうだね」


 何はともあれ、この場で立ち止まっていては仕方ない。女神がジンの力を眠らせると言ったのだ。ならばそれまではこの足で進もう――リツトは仲間たちに笑顔を向けて、一歩を踏み出した。







11月3日、町の名前を修正。

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