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リツトの女神召喚記  作者: 三宝すずめ
第一話 女神の呼び声
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勇者とジン

 駆ける程に、悲鳴はより大きなものとなってライアの鼓膜を打った。


 中心部である祭壇を離れ、音の発生源が村と“神の世界”との境目からしていると見当をつける。


「ちっ――」


 我知らず、村唯一の神器使いは舌打ちをしていた。目の前の状況に、足は止まる。


 彼女と逆行するように鳥たちが慌ただしく羽音を立てれば、木々が倒れゆく。恐らくは、“ジン”がいる――それも一体ではない。


 ジンは人の身では到底太刀打ちの出来ない代物だ。だからこそ、対抗手段を持つライアが駆けつけることを村長は止めることをしなかった。


 立ち止まったのは、諦めたからではない。生身で駆けつけることは無謀だと理解をしただけだ。


 ライアは瞳を一層鋭くして、腰に丸められた金属の固まりに手をかける。


「出番だ、相棒」


 少年勇者の前でしてみせたように、腕を一振り。複数の節からなる柄は一列になり、神器“猛りの斧槍”はその姿を顕した。無骨な造りであるが、一点のみ装飾がなされている。


 斧部と槍部の接合点に嵌め込まれた丸石が、天に突き出されて輝く。太陽光に反射して、持ち主と同様の赤い光が煌めいた。


猛将軍デューオクサー!」


 叫びとともに、ライアを中心として竜巻が立ち昇った。砂塵を巻き上げ、風は黄色を帯びて奥までは見通せない。その場に人が居たならば、竜巻の中心部に大きな影が現れたことを見て取れたことだろう。


「いっくぞおおおおぉお!!」


 再びライアの声が響けば、状況に変化が起こる。竜巻を突き破って、八メートル程の人型が駆け抜けた。




「待つんじゃ、リット殿!」


「とっ、と――」


 走り出した途端に声が掛けられ、リツトはたたらを踏んだ。危うく転ぶところであったので、妙な冷や汗が流れた。


「な、なんですか?」


 少々苛立ちながら少年は声の主の方を振り返った。勇者となることに納得したわけではない。わけではないが、多少なりとも言葉を交わした女性が危ないところへ行くのであれば、追いかけたいと思ってしまう。


 会って間もないが、彼女から向けられた色は敵意ではなかった。むしろ、己と競い合うことを楽しむかのような明るい色だった。そんな色は、嫌いではない。


 既に背中の見えなくなったライアの安否を思い、苛立っていた。リツトという少年は、そのくらいの情は持ち合わせている。


「ライアを助けようとしてくれることには、素直に感謝しますぞ」


 だが、という言葉を挟んで小さな老婆は続ける。


「勇者殿を呼び出したのは、彼女を助けるためではないのですじゃ」


「……何?」


 今度は不快さを隠すことなく、ハルバァを睨みつけていた。わけもわからないまま呼び出しておきながら、大した説明もないこの状況にいらついていたと言ってもいい。


「説明するよりも、見たほうが早い。あちらをご覧ください」


 ハルバァが示したのは、ライアが駆けた方向――その上空。


「ロボッ、ト?」


 これまでの感情を忘れ、リツトは呟きを溢した。まるで彼が子どもの時に見たアニメそのものだ。金属で出来た人型が巨大な戦斧を握って空を駆けている。


「リット殿の世界にも、ジンがありましたか。ならば、説明が早いですな」


 納得顔で老婆は歩き始める。


「いやいや、そういった作り話を知っているてくらいのものですよ。ジンって何ですか?」


 ハルバァに続いてリツトは歩き出した。行き先は人型が、ライアが進んでいった方向だ。あのロボット――ジンがあるから待てと言われたのだと彼は理解する。


 目的地へ向かいながら説明が受けられるのであれば、文句はない。


「ふむ。ジンそのものはご存知なかったか。ではまず、右手に何が見えますかな?」


「右って大きな山……じゃない。何あれ!?」


 言われるままに右を見て、驚きの声が上げられる。何せ彼が山だと思っていたものは、大きな崖だったからだ。否――それだけならば驚かなかっただろう。崖は空に浮いていた。


「神々の住まう地、フォークリード。あれが、リツト殿に救って欲しい世界なのじゃ」


「救うってどういうこと?」


 益々疑問は膨れ上がる。質問を投げかけるために、少しばかり足を止めてしまったリツトは小走りで老婆を追いかけた。


「世界は、神の力で成り立っているのです。火も水も、神から流れ出た力に支えられております」


「……この村から花々か消えたっていうのも?」


「その通り。フォークリードの神々が弱ったことがこの村にも影響を及ぼしている――幸い、守り神のおかげで幾分か抑えられてはいるが」


 それも時間の問題か。リツトは俯いて歩いた。


「神様を弱らせる相手に、ボクが何か出来るとも思わないんだけど」


 魔法という奇跡を知ってはいるが、リツトはまだまだ修業中の身でしかない。出来ることと言えば、色を視る程度のものだ。巨悪を討ち倒すなどとは程遠い。


 村人の悲鳴が徐々にはっきりと耳に入るようになっては、少年に迷いが生じる。先程見た人型のロボット――あれだけでカタがつくならば、自分は呼び出されることはなかったと確信出来る。


「希望はまだ、失われてはおりませぬ。神の力の一旦を担うジンが、神そのものを宿らせた神器が、まだあるのです」


「あれが、そうなの?」


 さっきから質問ばかりだとは自覚しているが、何せわからないことだらけなので仕方がない。事件の中心からはまだ離れているが、大きな鉄の固まりが四体程動いていることが今やはっきりと見えていた。


 黒を基調にした三体が、黄色の人型を囲んでいる。


 三体はそれら全てが同じ規格で作られたものなのだろうと、リツトは何とはなしに感じていた。


 黒を基調にしたトカゲの頭から大きな手足が生えていた。まして、腕や足の繋ぎの部品――肩当てや、腰当て――が紫色になっている。そこに生物の色は感じられなかった。人型のものよりも一回り小さなそれらは、警戒するようにぐるぐると回っていた。


「サブラスですな。ジンとしては悪くないのじゃが、高位存在の神器に比べれば程度は低い」


 歩みは止めず、ハルバァは説明口調で続ける。


「ジンとは、神の力を受けた道具を指します。この杖もジンの一種なのですが、あれ程大きなものを動かすだけの力はない。とは言え、サブラスのような中位存在のジンには神そのものが宿ってはいないので、ライアの敵ではないのですよ」


「え――?」


 説明が終わるのを待っていたかのように、黄色の人型が動いた。


『ヴオォォォっ』


 腹の底に響く音――否、雄叫びとともに大きな戦斧が振るわれる。早い動きで軌道が描かれていたが、リツトはそれを目で追っていた。そして、驚きの声を上げた。


「あれ、ライアさんの……」


 長柄の斧に槍の穂先が備わったそれは、ハルバードと呼ばれるものだった。


 勇者にしてみせたように、斧槍は無造作に振るわれる。違う点があれば一つ――鋼は寸前で止められることなく、周囲を飛び回っていたトカゲたちを薙ぎ払った。獲物の周囲には風が纏われており、振るわれた後を真空が切り裂いている。


『フオォォ――』


 イナナきのような音を立てて、ロボット――ジンから呼気のような煙が吹かれる。一連の動作の後、地面にハルバードを突き立てる姿は圧巻の一言だ。知らずの内に、リツトは拳を握っていた。


 トカゲよりもやや頭身の高いそれは、黄色を貴重にした人型を模したもの――胴体に手足、他の三体と比べても遥かに人の形状に近い。だが、牛を象った頭部のデザインがそれを人ならざるものであると告げている。


「風の神器から呼び出されたジン。デューオクサーですじゃ」


 老婆が誇らしげに語っているが、リツトはそちらへ気も留めはしなかった。三体の内二体は既に動きを止めていたが、残る一体が風の神へと迫っている。


『ギギギィィっ!』


 金属の擦れるような厭な音がした。それはトカゲの出した鳴き声か。頭部後方に備えられた尻尾が伸び、地面に戦斧を突き立てたままのデューオクサーを捉える。


「喰らうかっ!」


 高くも凛々しい声が、響いた。


 紡がれると同時に牛のロボットは左手で尻尾の先端を掴む。更には身を捻り、トカゲの巨体を地面に転がした。


「トドメだ」


 最期は冷静に言葉が放たれると、先程まで地面に突き立っていた柄が黒いジンへ刺さった。


『ギ――』


 悲鳴を上げるまでもなく、トカゲの瞳からは色が失われた。


 リツトはもう動くことはないと直感する。瞳と言わず、肩当てにあった紫も色を失い、砂のように身体は崩れていった。


「あれが、ライアのジン!」


 ハルバードを握り締め、雄々しく立つ姿にリツトは感嘆の声を漏らす。人よりも大きな存在――ジンと呼ばれたロボット――の内、圧倒的な力を示した猛将軍デューオクサーに目を奪われていた。


「……おかしい」


「え、なに?」


 訝しげに唸ったハルバァは、老人らしからぬスピードで走り始めた。疑問の声を上げたリツトも置き去りにされることになった。


「え?」


 少年は召喚されてから驚きが続く。


 リツトが見た先、先程まで悠然と立っていた筈のジンは姿を消失させていた。


「確かに、おかしい」


 呟き、リツトも遅ればせながら地を蹴る。何が起こったかもわからないが、ハルバァの言う通りにおかしなことになっていると感じていた。


「ジンが消える直前に視えたあの色は――」


 先程までの輝く程に強い黄色は弱まり、代わりに濁った“困惑”とも呼べる色をリツトは瞳に捉えていた。上手く説明の出来ない不安が胸を突いた。




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