リララ
少女が止まらない涙を流し続けても少女から流れる色々は薄まることはない。
「リララよ、ミオグワンがそこまで迫って来ておる。逃げるのじゃ」
レンガで出来た立派な家、この村では村長の次に大きさだ。外からのネスの声にリララが答える様子がない。これまでも何人もがリララの家に足を運び時には無理やり家に入りリララを説得しようと試みたが成果は出ず。相変わらず家の片隅で体操座りで顔を伏せ唯、涙を流す。
「ワシは少し用事があるがまたここに来れるとは限らん。いいか、このままここにいたら食われて死ぬぞ!」
そのままネスの足跡が離れて行く。
リンねぇはもう居ないから襲われたら逃げるしかないのか、皆はもう逃げたかな、無事だといいな。それにしてもミオグワンか皆に悪いけどちょうどよかったかな、自分で死ぬ勇気なんて私にはなかったから。村の人達は優しいからこんな私をほっといてくれてる。このままじゃ駄目なのに。ミオグワンがきっと私を殺してくれる。あぁ、勇者になりたかったな。もう叶わない夢だけど。
体操座りで組んだ手をまた強く握り直した。
「痛い!」
これは家が壊れのかな、初めての感覚は馴れないよ。でも、多分ミオグワンが近づいている証拠、だったらそろそろ来るのかな?。
心臓の音が早く大きくなる。リララ自身覚悟はしていたつもりでったが、やはり、恐怖は隠せない。体が小刻みに震えている。
屋根が崩れる光景と爆音と痛みが同時にリララが襲った。
思わず目を閉じるが心を決め目を開く、目を開けるまでもなく巨大な鳥が目に入ると決め付けていたが。目に写ったのは人間、それもリララが見たことがないのでこの村の人では無い。
「だっ……誰ですか?」
真っ先に浮かんだ疑問を口にする。左目のみの視界で周りを見渡すと少女が目に入る。
少女と第1印象は感じたがよく見ると少女と大人の間ぐらいの年齢だろう。茶髪のショートボブに小さな顔に大きな目に薄い唇、華奢な体型をしている。多くの男性を虜にする容姿だ。
何でまだ人がいる?という疑問はすぐ消える。この子が村長やオロイさんが言ってたあの子だ。ってあれは何かのスキルか?
慶はリララの両手に目が釘付けになる。両手から赤、青、黄、緑、黒、色々が両手から蛇口が締め切れていない水のようにポツリと落ちている。
これがこの村の色の正体か、わざとしているようには見えないが……。
「俺は旅人の安良城 慶だ。今はミオグワンに追われている。そっちは?」
「あっ、私はリララ・カーバットです。あの~私に構わず逃げてください。この家も気になさらず」
何か訳有りだろうが俺とは関係無いな。
「そうですか、では、と言ってられないみたいですね」
ミオグワンが2人の前に到着した。
「俺は自力で逃げる。君は好きにしたらいい」
リララの目を見ずに声をかける。 反応を待つこともなく慶はミオグワンからの攻撃を対処できるようにゆっくりと後退りしているが、僅かな努力だと慶自身も分かっている。ミオグワンは2人を確認した後リララには目もくれずに後退りしている慶に近づいている。何処か表情は笑っているように見える。
飛びもしない、羽ばたきもしない、奴の1番遅い移動手段である徒歩で来やがる。余裕だな。実際そうだ。くそっ、後悔し切れない。おそらく、自力は俺の方が上だった。敗因は俺の奢りと経験不足。いくら何にも負けない力を与えられても、すぐに使えきれるはずがない。それを含ませて戦うべきだった。いや、反省は後今は全力で逃げて生き残ることだ。二回も死ぬのは遠慮したい。
ゆっくりと口から舌を出す。慶も防御の構えをするが。
「ぐっ……」
長い舌が慶の腹を捉える。防御は顔に構えていたためまともにくらう。直前で軌道を変わった。この目じゃあ見切れない。衝撃に耐えれず壊れかけの家を突き破り外に追い出される。
この匂いは強烈な匂いが痛みの感覚を鈍らせる。
慶が飛ばされ先のすぐ奥。他と変わらずカラフルなのは同じ。50センチほどの幹が何百、何千と見える。幹伸びた枝が隣の幹の枝と絡み合いどの幹から伸びた枝なのかは判別出来ない。その枝から葉と小さな実がなっている。
この匂いは知っている。そして、食べたことがある。ラムビだ。この実もカラフルになっている。食べたものとは別ものに見える。ってどうでもいいか。
立ち上がり走ろうとしたが。ミオグワンがゆったりと姿を見せると。翼を動かし羽ばたく急速にとこっちに近づく。慶の体は風を受け後ろの小さな木々も風になびく。
さぁ、どうする?まず避ける時間は無い。防御も儘ならない。なら、攻撃だがこの目じゃあカウンターを繰り出すどころか最悪当たらない可能性がある。他に方法は他に……。
慶の思考に集中していたのため傷を負った目が更に視界が狭くなった。そのため慶には突然現れた感覚になる。
「やめて〜〜〜〜っ!!」
横からリララが飛びつきミオグワンに体ごとぶつかる。
突然の攻撃にミオグワンは横に擦れると1度空に戻り、突然の敵を警戒する。
なんだ、俺を守ってくれたのか。何故?ぶつかったままのリララが立ち上がり泣きながら叫ぶ。
「ラムビの森を壊さないで!!!」
リララが泣きながら叫ぶ。
ラムビの森は後ろのことだな、言動と家のすぐ近くにあることからあのリララって子が森の主か家族がそうなのだろう。
「お願い、やめて、ラムビの森だけはこれ以上壊させないで!」
「私を食べてもいいからお願い、お願いします」
リララの泣きながらの願い、傷の影響だけでなく心の影響もあり、立ってられず倒れ込む。ミオグワンはそれを見て、どう感じたのは分からないがリララを無視して慶に向かっていく。
俺からか、あの死にかけはほっといても大丈夫だと判断したか。このままじゃあ殺られる賭けなければ。ミオグワンがトドメを刺そうと翼を広げる。
上手くいけ!
右足に力を込めジャンプする。飛びが低けれ当然攻撃をくらう。高くても滞空時間の隙をミオグワンの追撃がくる。適切な距離を調整しなければならないがその自信はない。
よし、いい距離だ。ミオグワンの攻撃を躱す。よし、これなら体制を整え逃げることも可能って……!
慶が視線を下に移すと目を開く。リララが走りながら叫び。
「その森を傷つけるな!!」
ミオグワンは旋回して慶に追撃の構えを整える。その影響でラムビの森が強風に襲われ、色々の葉や実が吹き飛ぶ。
リララは色々が滴る右手をミオグワンに向け。
「色彩感染 虹玉」
右手から色々の小さな玉が形成される。そして、ミオグワンに向かい直撃する。ミオグワンが雄叫びあげるも胴体付近に虹玉が塗らた。
ヤバイ、ぶつかる!
攻撃を終えた慶の着地点にリララが重なる。瞬間的に目を閉じる。痛みと鈍い音がした。慶が目を開けるとリララに覆い被さっていた。
「すみません、大丈夫ですか?」
すぐに立ち上がると何か違和感がある。
「すっ、すみませ」
リララが慶の腰辺りに目をやると言葉が止まる。それに習って慶が腰を見ると。色々が塗られていた。慶が反射的に腰を触ろうとすると。
「触らないで!!」
リララの言葉で手が止まる。
「どっ、どうしょう、人にうつしてしまった。あの、お願いします。まず、何にも触れでください。治す方法は1つしかないのですが」
リララの表情が暗くなる。この色がこの子のスキルか?治す方法?病気にさせるスキルか?って今はそんな場合じゃないぞ
「おぃ、とにかく来るぞ」
ミオグワンがこちらに向かって来た。
「私が行きますから貴方は逃げて下さい、直ぐにその色も消えると思いますから」
ミオグワンに立ち向かい走りだす。
勝てるのか? いや、無理だろう。おそらく死にに行ったんだ。
ミオグワンの右翼がリララの直線上に並ぶ。
怖い……。また逃げそう。でも、これは逃げたくても逃げれない。ようやくケジメが付けれる。これでこの村が元に戻れる。パパとママが大好きだった村に。
恐怖から目を閉じる。
もうすぐか……。
5…4…3…2…1…。
歯を食いしばり閉じている瞼をより一層強く瞑った。
痛い。強烈な痛み、殴られた感覚がリララが痛感する。死んでもおかしくはない痛みをリララが感じているが誰かに触れられてもいない。
何で?頭の中に浮かぶ視界に理解が出来ない。
「逃げて下さいって言ったのに!」
目の前にはミオグワンを殴り飛ばさせた慶がいる。慶は振り返らず左目は敵から視線を外さず声だけを向ける。
「お前はバカか」
「はい?」
突然の暴言に怒りよりも疑問の声が漏れる。今は生死を争う状況、人をバカにしている時間も何も無いのは当然。それ以前にそんな侮辱を受ける覚えはリララにない。
「まず、お前は死ぬ気だっただろ。それも何も抵抗せずに」
そうよ、私は死にたいから丁度良かったのに。
「そしたら当然瞬間に殺られる。そして、俺に向かって来る。何が逃げて下さいだ!そんな時間何処あった!」
そうだね……。
「それに目の前で死なれるのは気持ち悪い。そんなに死にたいなら何処で死ねよ。いい迷惑だ」
そのとおりだよ…………。
「そんな気は本当はないのだろうが」
「そっ、そんなことない!」
その言葉には涙ながら反論する。
「お話はこれまでだ」
ミオグワンが再び襲いかかる。
「とにかく邪魔だ、何処かに行け」
少しは効いたか? 若干遅く感じる。これで視界が万全ならいい線なんだが、さっきみたいに不意打ちは出来ない。とりあえず、致命傷を避けながら時間を稼ぐ。相手の体力が尽きるか、隙を観て攻撃するか。
「速いです」
「はぁ!」
意味がよく分からなく思わず振り返えろうと首を後ろに回しかける。前方の風景が急激に変化しその影響で首を元に戻す。
そう言う意味か。ミオグワンが速度を上げている。
「足元です」
また、意味が良く分からない事を。さっきが敵の行動を示していたな。何故そんな事が解るのは恐らくスキルの効果だろう。今度もそれだとすると。
慶が勢いよくジャンプする。そして元々慶がいた場所をミオグワンが通過する。
「さっきから何だ」
ミオグワンがあっちを向いている隙に声を掛ける。
「何だって、助けてあげてます。貴方今のままだと死にますよ。大体ミオグワン相手に1人で勝てる訳ないですか!バカはどっちですか。私が指示するので従って下さい」
「急にどうした?」
リララの変化に戸惑う。
「私だった目の前で人が死ねのはイヤです。それに貴方にここでミオグワンと戦うとラムビの森がめちゃくちゃになるでしょう」
まだこの子この森のことを。
ラムビの森は戦いで葉や枝は飛ばされているが、全体にまだ損傷は見られない。
「私のスキル『色彩感染』は弱いのですが、色を塗られたものの5感を私も共有することができます」
「弱い?かなり強力なスキルに聞こえるが?」
「いえ、攻撃方法がほぼ無いので、それに……あっ、来ます」
5感が解るか、ほぼ相手の行動が予測出来る。確かに攻撃方法がないのは痛いが仲間などに伝えれば魔物相手ならかなり有効なスキルだ。
「視線が上を向いてます。恐らく今度は攻撃の瞬間少し上がって顔を狙って来ます。合わせてカウンターを狙って下さい」
慶は素直に頷き、こちらの狙いに気が付かれない様に胸の前にガードを構える。
「今です!」
リララの声と同時にミオグワンが少し高度を上げる。慶が屈んで攻撃を避ける。それと同時に右腕を引き、拳を上に繰り出す。
「きゃ!!」
何だ?
ミオグワンとは別の甲高い叫び声に思わず振り向く。そこには疼くまるリララの姿が見える。そうか! 5感を共有って当然痛みも共有することになるのか。そんなスキル戦えるはずがない。
痛みに堪えるリララと目が合う。
「ダメっ………………く」
翼が羽ばたく音に慶が青ざめ、意味はないがガードの構えと顔を振り向こうとするが間に合わない。
「ぐぅっわっ!!」
「あっっ!」
翼の打撃を受け慶とリララは倒れ込み目を閉じた。