村の宝
慶は強面の男の後ろにぴったりと着いていきながら歩いている。周りはカラフル一色で目がおかしくなりそうだ。
「そういえばまだ俺達名前教えてなかったな、オロイ・カナバレという。これからよろしくな」
相変わらず声がデカイ。すぐ後ろに立っているのだからそんな声量必要ない。そんなことを思いながら、またも満満面の笑みを作り。
「こちらこそ、よろしくお願いします。改めまして安良城 慶と言います」
「じゃあ、ケイ」
いきなり呼び捨て……
「仕事内容を説明するぞ」
「はい」
スーツの内ポケットからメモとボールペンを取り出す。そして、ひと言も聞き逃さないように耳の神経を研ぎすます。
「村の離れにある倉庫の荷物を台車に積み、レェデスに運ぶ」
ボールペンに握った手が止まる。
「それだけですか?」
「そうだ。だが楽は仕事ではないぞ。何せ量が多くなってきてな、2人では時間が掛かり過ぎてな鬱陶しいと思ってたところだ」
2人ではか。
「もう1人仕事仲間がいるのですね」
「いや、そうじゃない。倉庫は村から離れた場所にあるから魔物や盗賊の護衛に兵を1人つけて行く」
この村に着く前に襲われた黄緑色の鳥を思いだす。
あんなのに何度も逃げらる自信はない、俺の与えられた力もよくわからない。護衛の兵士がいるのは安心だが1人で大丈夫なのか?
不安を抱きつつもオロイについて行く。
形や素材は様々だが、どの家も色が塗られ景観というものがない。
色に全てを奪われたか、確かにこんな目が痛くなる風景じゃあ困るよな。それに畑までもカラフルになってる。「ようこそ、作物の村に」とあの警備兵が言っていたがそのように見えない。この色が関係しているのだろうか?これは魔法?だったら術者をどうにかすればいいのでは?そういえば村長とオロイとの会話にあの子を殺されば解決すると言ってたな。
そんなことを考えているうちに。
「着いたぞ、ここが俺の家だ」
他の家と同じカラフル模様。ただ他の家と比べると少し広くようだ。その家の隣には小屋が見える。色は同じだが。
「結構いい家だったぞ、今じゃあこのザマだ」
オロイが自嘲するように軽く笑っていると家の中から1人の男がこちらに駆け寄って来る。
「オロイさん、おかえりなさい」
オロイに声を掛けたのは村の門に立っていた警備兵だ。
警備のときとは違い鎧や兜を外しているので顔がよく見える。 慶と同世代ぐらいに見え、好青年と感じさせる顔立ちだ。
護衛役はこの人か
「先程はどうも」
「どこかで会いました?初めてだと思いますが?」
首を傾げながら尋ねる。
「それはラッタのほうだろ、こいつ外から来たからな」
「あー、成る程。兄のほうですね」
「初めてこの村で警備、護衛をしています。リッタ・ジエモです」
「村に警備をしているのは双子の兄のラッタです」
成る程双子だったのか。
「そうでしたか、すみません。勘違いしてました。初めて安良城 慶と言います。これからよろしくお願いします」
「これから?」
「あぁ、色の影響で運ぶ量が多くなっただろ。こいつ金に困ってるみたいだからバイトで雇うことにした」
「わかりました。よろしくお願いします。ケイさん」
清潔感のある笑顔を慶に向ける。
うん、オロイよりずっと感じがいい、仲良く出来そうだ。
2人の挨拶は終わったと思ったのか。オロイは慶を放置し進む。小屋に近づき、大きな扉を開けると大きな動物が歩いてくる。
顔や外見は犬に似ている。チワワとゴールデンレトリーバーの雑種といえばぴったりだ。ただ、牛ほどの大きさをしていることを除けば。
「こりゃ俺の自慢の相棒、プフだ」
オロイは自慢気な表情を見せる。
慶とリッタは村を出て荷車に乗り林道を移動している。
荷車を引くのはオロイから相棒と紹介されたプフだ。種類はパフレードと呼ばれ元の世界に当てはめると馬のような感覚だ。しかも、たずなや首輪をしておらず、出発前は「プフいつもの道だ」とオロイが頭を撫でながら命令をしたのみ。
道筋は全て頭に入っているようだ。馬よりも知能が高いだろう。肝心の移動速度も馬に乗ったことはないが申し分ない。
荷物はこの村にあったら色の影響を受けてしまう。おそらく、色が移るのだろう。村外れに倉庫を作り保管しているという。倉庫まではプフの速さで1時間程だと言っていた。今、村を出て30分ぐらいだろうか。魔物は現在まで出てきてない。
「ケイ、お前スキルはなんだ? 戦えるよな?」
荷車には乗らずプフに跨っているオロイが声をかける。
ヤバイ旅人と嘘をついた事がこんなことをつかれるとは、たしかに、ゲームのような世界には魔物といった危険が溢れている。1人旅ではそれを回避する手段があるはずだ。
「このように危険な道中には護衛を雇っていたのですよ」
誤魔化せるか。厳しいか。
「ずいぶんリッチな旅だな、どおりで金を落とすはずだ。金の使いかたがなってない。金に対して無到着なんだな」
失礼な、お金に対しての真摯さは仕事で嫌という程味わっている。
「そんな事ないですよ、命あってのお金です。正しい使い方です」
リッタが話しに反応した。
「違うな、何かを守ったり、保証したり、リスクをさぜるために金を使うのは正しい使い方じゃあないぞ。金ってのは何か苦労して得るものだ。そうして手に入れたならうまいものを食ったり遊んだり何かプラスになるものに使うべきだ。マイナスにならないために金を使うとなんのために苦労したのかわからない」
以外だな、筋は通っている。だが、何かプラスでマイナスなのか判断が難しく人それぞれだ。
「だから1人で旅が出来ないようなら旅をするべきじゃあない」
「それはオロイさんの考え方でしょ、お金の使いなんて人の勝手じゃあないですか」
「あぁ、そうだよ、別に俺は批判して
オロイが言葉を飲み込み真剣な顔つきに変わる。
「魔物が出たぞ!」
声と共に荷車から降り、慶は辺りや上空を見渡す。色の林道は抜け辺りは森に一本の道が通っているだけだ。オロイが見つけた魔物らしき姿はない。
どこだ?隠れてるのか。それなら何故オロイは魔物がいると判断出来た。
「オロイさん何メートルぐらい先ですか?」
リッタは魔物を探す様子もなくオロイに尋ねた。オロイはプフから降りると目を閉じ両手を耳の側に置いた。
「ここから右上の50メートル先に小さな足音が2つ、何か引きずる音も2つ。おそらくゴブリンだろう」
聴覚を上げる魔法、いや、今までの会話からスキルと言うのだろう。火や水を出すものだと思っていたがこの世界のスキルはいったいどんなものだろうか?俺の足が速くなった。全く誰にも負けない力じゃないが)
「ゴブリン2体ですか余裕ですね。私1人で大丈夫ですが念のため着いて来てください。万が一に私が倒された時は逃げてください。プフを連れて行ければいいのですが林になっているので。心配しなくてもゴブリンの足は人間より遅いです」
リッタは2人に最後は慶に作戦よ対応を伝え、長さ1メートル半程の槍を取り出した。
「そんなゴブリンなんて対したことないだろ。俺でも1体1なら勝てるなんなら戦おうか?」
「いや、オロイさんは戦闘スキルじゃないでしょ。任せてください、給料泥棒になります」
「そうだな、行こうか」
リッタを先頭に林を進む、この奥も色の影響を受けずに慶の記憶と一致する林が乱だつしている。
ゴブリンか、確かゲームなどでは序盤の雑魚キャラの筆頭なのだが、この世界でも同じなのか?2人の会話から大丈夫そうだが。
前回、魔物との遭遇では命かながら逃げてきた。慶の表情は恐怖を隠すことが出来なくなっていた。そんな慶とは対象的に2人は足を進めている。
「もうすぐだ、近いぞ」
オロイの声とほぼ同時に小さな緑色の化け物が姿を表した。
身長は1メートル程度、赤く光っている眼は目の前の獲物を睨んでいる。顔と比較すれば小さな胴体と手足。手には木を材料とした棍棒を地面に引きずりながら迫ってくる。これがゴブリンか、イメージのままだな。
リッタは槍を構えゴブリンに近づく。
本当に大丈夫なのか?
「おいおい、ゴブリンごときにビビリ過ぎだろ」
恐怖が顔に出たままだ。オロイはにたにた笑い馬鹿にしている。
うるさい、こっちはこの世界に来たばかりなんだよ。内心言い訳をしながら表情を柔らかくなるように戻す。
「いえ、疑ってる訳ではないのですが、リッタさんの強さを知らないので」
「そうか、じゃあ心配するな。あいつはあんな顔してるが元々ギルドにいたやつだ。しかもBランクまであがった腕利きだ」
ギルドかゲームのようかところか?ランクは何段階あって、Bランクがどれ程の強さなのかわからないが弱くはないだろう。
慶がそう解釈するとゴブリン達とリッタの距離が1メートル程に迫った。
ゴブリンが横並びにリッタに近づき地面に引き摺った棍棒を振りかざした。対してリッタは槍を引きゴブリンが間合いに入ると、勢いよく槍を突き出す。ゴブリンもに反応を見せ直線上に突き出す槍に棍棒を盾にして受ける準備する。
「柔式槍術 曲槍」
まっすぐに突き出した槍が突然先端から上方向に曲がり棍棒を避けゴブリンの首を貫く。声をあげながらゴブリンが倒れ込み、もう動く様子もない。
目の前で仲間が倒されたゴブリンは本能的に死を感じただろうか、リッタに背を向け急ぎ走りながら逃げて行く。
「柔式槍術 伸槍」
元の形に戻った槍はリッタが突き出すと伸びていく。そのスピードはゴブリンよりも遥かに速く一瞬にしてゴブリンに追いつき。
槍が背を貫き悲鳴をあげる。それがゴブリン最後の行動になった。
強い……。スキルとはこんなに強力なものなのか、リッタが強すぎるのか?
「ほら見ろ、心配する必要なんてないだろ」
呆然と立ち過ごす慶にオロイが声をかける。
「じゃあ、さっさとプフの所に帰るぞ」
一行は来た道を戻り再び荷車に乗りプフが歩きだす。
「魔物はさっきのゴブリンだけですか?」
道に戻り数分、オロイからの警告は今のところない。
「あぁ、近くにいる魔物はさっきのやつだっけだったからしばらくは安全だ」
オロイが答える。
「そうですか、安心しました」
その後は魔物も出ず眠りを誘う荷車の揺れに耐えながら到着を待つ。慶が寝息を聞き顔を向けるとリッタが熟睡していた。
まぁ、この人がいないとどうなったか分からなかったし。何か起きればオロイが気が付つくか。
その後も隣の寝息に眠気が誘われるが我慢しながら再び到着を待った。
「着いたぞ」
寝てしまった。無用心すぎるだろ、俺。 自分に呆れつつ目を擦り荷車から降りる。
「僕はもうひと眠りしますね」
「おぅ、好きにしろ」
リッタは護衛の仕事なので敵が出ない限り要はない。何かあればオロイか気が付き起こすだろう。
「すごいですね」
目の前に広がるのは森の中に我がもの顔でそびえ立つ巨大な建物。白い石と枠組みには鉄を素材にしている。先ほどのゴブリンなどでは傷ひとつつけられないだろう。慶が驚いたのはその大きさ。高さは5メートル幅も5メートル、奥行きが10メートルにもなる巨大倉庫だ。
「行くぞ」
オロイは石で出来た鍵を持っている。
重い音と石と石が擦れ合う音。そして、扉を開らくと。
「すごいですね!」
「おうおう、いくら褒めても褒めきれないだろう。俺たちの村の宝だ」
巨大倉庫の中には色とりどりの果物や農作物が保管している。その量が大量なのが驚いた理由の1つ、もう1つは異世界の食料、慶にとっては当然始めて見るものばっかりだが、その甘い匂いと鮮やかな色によってヨダレが垂れそうだ。
「これを他の街に運んで売るのですね」
「あぁ、これで村は憂いてきた。だが、このままじゃあと数回でこの倉庫も空になってしまう。早くなんとかしなければならないのに。あのくそジジイ問題を先送りにしてるだけだ」
オロイが声を荒らげながら言う。
「おっと、お前に言ってもなんにもならないよな」
「とりあえず、荷車の置くにスペースがあるから、なるべく種類が均等になる様には運んでくれ。それが終わり次第レェデスに向かう。お前のバイトはそれまでだ。ちょうど次の目的地に着くと言ってもどこでもいいのか?」
「バイト料は食事、寝床こみで10000ルピーでいいか?」
10000ルピーか、ルピーは通貨の名前だろう。通貨価値がまったくわからないから了承するしかない。絶対ぼったくられてる気がするが。
「はい、それでいいです。ありがとうございます」
「よし! なら働いて貰うぞ」
それからはオロイの指示に従いながらひたすら倉庫の果実や農作物を荷車に運ぶ。量がかなり大量なので何時間と時間が経つ。
「よし、これで最後だ」
仕事が終わるころには太陽が沈みかけ夕暮れに空が染まる。
異世界にも太陽や夕暮れがあるのか、始めは全く違う世界でと思っていたがここ数時間は地球と殆ど変わらないな、魔物ぐらいか。
「オロイさん、終わりましたか?」
リッタの声が倉庫の外から聞こえた。
「あぁ、今終わった所だ。ってお前起きたなら手伝え!」
「いやですよ、僕の仕事は護衛ですよ。手伝うなら別料金追加しますよ」
「ケチ臭いこと言いやがって」
「オロイさんに言われたくないですよ。自分が少し感知能力があるからって護衛のお金値切るような人に」
「なにいってんだ! 本来ならお前はすやすやと寝れるはずないだろ。相場より安くなるのは当然だ」
確かにその通りだが、きちんと何かあれば戦っている。おそらく、微量の値下げになるだろう。にも関わらず値切るとは……絶対ぼったくられたな。
確信を持ちながら荷車に乗りこもうと倉庫から出たとき。
「これは!」
「どうしたのですか」
突然の叫び声に似た大声でオロイが話す。
「北の上空から急激に近づいてくる。それも複数だ」
「ついに、あいつらが来たのかもしれん。あっちからだ」
そういうとオロイは夕日に染まった空に指を刺す。しばらくもしない内に黄緑色の鳥の集団がこちらに向かってきた。
あいつはあの時の!慶の脳裏には初めに異世界に飛ばされた鳥が思い出される。あの時は1羽だったが10数羽はいるぞ。しかも、中央にいる鳥は他の2,3倍はあるぞ。慶が見た鳥は鷲程の大きさ、つまり、翼を広げるとゆうに1メートルを超える事になる。それの2,3倍の大きさの魔物が慶達に近づいている。
「間違いない、巨鳥 ミオグワンだ」