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異世界の村

慶は光によって目を閉じることを強制されていたが、ようやく光が収まると目の前の景色に圧倒された。


竹よりも細い木の幹が10メートルほどに伸び、その幹、葉の色は緑、赤、黄、茶だけでなく、青、紫、黒といった色であった。

その木は1本だけでなく辺り一帯に満遍なく生えており、色の森となっていた。色が付いているのは木だけではない。と言うよりも全てだ。落ち葉も土も辺りは全て色で染まっている。


 少なくとも日本じゃあないな、取り敢えず歩くか危険な可能性もあるがこのままじゃ何にもわからない。色の落ち葉を踏みながら進む。仕事帰りなのでスーツに革靴は森の進路を煩わす。


 歩きにくいな、本当に別の世界、異世界でゲームのような世界なら、それなりの装備が必要だよなこのまま街があればいいが問題は金だな。


 森を抜けようと歩むが上空に視線が移った。


 あれは、鳥?


全身黄緑色に染まった鷲ほどの大きさの鳥が翼を羽ばたかせ、はるか真上の空を飛んでいく。そのまま慶の頭上を通り過ぎると大空で旋回した。


 これってまさか……


 鳥は慶を目掛けて突っ込んでくる。


 おいおい、速いってもんじゃないぞ、さっきまではるか上空を飛んでただろ。そう、感じている間に鳥は目の前に迫っている。


 まずい。逃げたいが、あの速さから逃げ切れる筈がない、もらった力が身体強化なら可能性はあるが、何にでも勝てる力かというと疑惑だ。恐らく魔法のような力があるはずだ。そもそも発動条件が分からない。身体に異変はない。つまり、誰にも勝てる力が常時に発動または感じるといったものではないのではないか。


「はぁ!」


思わず声をあげてしまう。鳥のスピードが急激に速くなった。


 魔法か?翼を羽ばたいた様子もなく、突風が吹いた訳ではない。異様な速度の上昇の理由はそれしかないと考えるしかなかった。


 避けなければ死ね。一か八か、慶は直線に迫ってくる鳥を横に避けようと、横に跳ぶ。


「え?」


 慶は無事避けることに成功した。なんだ、今のスピード?今までに体験したことのないスピードに戸惑う。


 魔法のようなものが発動したのか、取り敢えず。慶は鳥を見るとまだ、こちらに方向転換出来ずあっちを向いている。


 今のうちにあの鳥から逃げるぞ。


 走ると違和感に気付く、慶は何時ものように走ったつもりだが、スピードが格段に上がっている。足がよく回る、体は宙に浮いているようだ。何故?という疑問は当然頭に浮かぶが考える余裕はない。そのまま風を切るように色々の木々を駆け抜けていった。


 木々は途方にあるように感じたが、慶の速さはそれを上回り、木々を抜けると、街ではないが小さな村が目の前に見えた。


 「何なんだこれは?」


 慶は言葉が見つからない。村の家は木や、石、レンガで出来ているように見えた。地面は元の世界と同じように土で出来ているように見えた。ならば池も同じ水だろうか。


「この森、この木々だけじゃないのか?」


そう呟きながら後ろの色で塗られた森を見る。


そして、首を戻しもう一度村を見る。


家、道、畑、池、村の全てが色に塗られていた。


 これが異世界か、全く地球の常識では考えられない。まだ、カラフルな木だったら地球のものかもしれない。とにかく速い鳥だったら俺の知らないだけかもしれない。自分が突然速くなった理由は説明出来ないがのだがここが地球だという可能性はまだ捨ててなかったがこれはもうそういうことだな。後は夢か。


 慶は自分のほっぺに右手を添え


 いや、こんなベタなことは止めよう。それに俺は夢の中で殴り合いをしたこともある。痛かった。夢は痛くないなんて嘘だ。そして、夢ならいつか覚めるだけのこと。


 気を取り直し辺りを見渡すと左手の方向に変わらず色で塗られた門が見えた。色に塗られているが木材で出来たものだと僅かに残る木目から推測できる。門の前には警備兵だろうか。簡易な鎧と兜を身に着け槍を所持している。すると警備兵もこちらに気が付き声をかけてきた。


「おや、このような村に何か用ですか?」


 慶は目を丸くする。言葉が通じている相手が日本語を話したためだ。どういうことだ。日本語を話しているぞ。ここは異世界ではないのか。


 情報が溢れかえるが一呼吸置き冷静になり頭を整理する。


 いや、そんなことどうでもいい、少なくともこの人とは会話が出来る。1番欲しいのは情報。あの自称神様がなんにも説明してくれなかったからな。しかし、どう自分のことを説明する。異世界から来ましたなんてそういった事例があればいいが、ない場合不審に見られ追い返される可能性もある。ここの正解は。


「私は旅人をしております。安良城 慶と申します。目的地もなく、風の便りを感じこの村にやって参りました。よろしけらればこの村の長にお会い出来ませんか?ただ旅をするだけでは味がない、訪れた地について住人の話しを記録しておきたいのです。故郷に帰ったときに子供たちの土産話しになればと」


 話し終え警備兵の顔を覗き込む。自分の心情は悟られず、相手の心情は読み取れるように。


「そうでしたか、道理でこの辺りで見ない服装のはずです。ようこそ作物の村、ネノイマへ」


 作物の村?確かに畑や木々が多いようだが、どれも色がついている。


「村長の家はあの高くレンガで出来た家です」


「わかりました。ありがとうございます」


 案内された家を目指して歩きだす。


 慶の背中を見つめる警備兵。しまった、この村が作物の村と呼ばれたのは昔の話。つい癖で。それにあの旅人も昔だったら絶品のもてなしを受けただろうに、あの事件の前に来たら。



 ここか、素材はレンガだろう。大きく立派な家だということがこの状態でもわかる。これでこの色がなければな。外で見た通り、どの家、畑、池も色とりどりに塗られている。


 コンコン


 ドアをノックするが返事がない。


 コンコン


 2回目も


 コンコン、コンコン、コンコン


 これで返事がなかったら留守か居留守だ。


 すると、勢い良くドアが開く。


「五月蝿いな、誰だ!」


 明らかにそちらのほうが五月蝿い音量での返事だ。その音量にぴったりなガタいの良さから強面の顔に顎髭、さらにスキンヘッド?こちらの感覚だと30代半ばぐらいの年齢に感じる。


「てめぇ〜、見たことのない奴だな?誰だ?」


 顔を近づけ聞いてくる。迫力のある顔が視界を占領する。


 この人見た目完全にや○ざだよな、こっちにもそういった組織があるのか?取り敢えず、日本語は誰でも話すみたいだ。何故だかわからないが一番の障害は心配しなく済みそうだ。


「私は旅人をしています。安良城 慶と申します。このたびは村長にこの村についてお聞かせ願いたいのですが、村長本人ですか?」


「おいおい、俺が村長に見えるか」


 見えない。1かけらもない。


「村長はいるけどな、今大事な話し中だ。後にしてくれ」


 それは困る。どうにか情報を聞き出さなければ。


「では、外で待ちますのでお話しが終わったら声を掛けて下さい」


「いや、話しならもう済んだ」


 奥から年配の声だが力強く威厳のある声が響いてきた。


「おい、いい加減にしろよ。ジジイ」


 強面の男は返事よりも大きな声で怒鳴る。


 強面の男が部屋の中に戻ったことで部屋の中も見える。そのまま無断で上がり込む。中も色で塗られ奥にはカラフルな椅子に腰掛けている老人。年は60代ぐらいだろうか。 白髪が長く、顔もしわだらけだが細い目は鋭く強面の男を睨んでいる。


「何も話してねえ、答えも聞いてないぞ。アンタが決断すれば解決する話しだろ。さっさとあいつを始末する許可をだせ。この村がどうなってもいいのか」


「答えならさっき答えたじゃろ。引き続きあの子を止める方法を探すのだ。村のためにあの子が犠牲になることは許さない」


 渋い声で反論する。


「ふざけるな、方法を探し続けて何年になると思ってる。犠牲になることは許さないだと、俺だって好きでこんなこと言ってない。このままじゃあ村が死ぬぞ!」


「それにあの子はどこにもいけない。仮にこの村がなくなり他の村に移住することになると間違いなくあの子は殺される」


「だったら、俺達で責任を取るべきじゃねーのか!」


 怒りを込められたその言葉、相当の覚悟も見える。その言葉を聞くと老人は黙り込んだ。


「あの〜、すみません」


 空気は最悪だが改善される気配もないと判断した慶は話しに割って入る。


 老人の伏せた目線が慶に移る。


「お主は誰じゃ、この村の者ではないな」


「初めて旅人をしています。安良城 慶と申します。村長にこの村についてお話しを伺いたいのですが、機会を改めないほうがよいですね」


「いや、悪いが他の村にしてくれ。もうこの村は旅に訪れる場合ではなくなった」


「というと?」


「旅の者に詳しく言えないが、この村は色に全て奪われたいのじゃ」


「色に?」


「それ以上の詮索はやめてほしい」


 老人の目が鋭く光る。


「失礼しました」


 よわったな、これじゃあ何も聞けない。最低限の情報は聞き出さなくては。


「そうですか、それではここから1番近い街や村は何日掛かりますか?」


「ここから南に進み歩いて5日ぐらいじゃの、途中の林道には魔物が現れることがある。1人で旅をしているのは戦闘のスキルを持っておるのだろが気を付けなされ」


 慶は表情に表せないが内心焦っている。もちろん魔物の存在は問題だがそれ以前に大問題がある。事故に遭ったまま異世界に飛ばさたのだ。持ち物は携帯電話、財布、メモ帳、スケジュール表、ボールペンだ。つまり、食料も無ければ、この世界の通貨もない。5日も魔物がいる道を食料無しで進めるはずかないのだ。


 仕方ない、この世界のことをまず知りたいがまずは金だ。


「わかりました。実はもう一つ頼みたいことがあるのですが?」


「何かね?」


「我ながら恥ずかしいことですが、旅の途中何処かで金になるものを全て落としてしまったのです。この村で何か仕事を貰いませんか?この体で出来ることなら何でもします」


 自分でバカと言っているのと同じだが、ここも人間社会だ。金が無くては何も出来ない。


「お前バカだな〜」


後ろで話しを聞いていた強面の男が鼻で笑いながら声を掛ける。


「いいぜ、俺の仕事を手伝え」


 バカだと、少なくともアンタよりは頭のシワが多い自信がある。


 そんな感情は一切見せず、目を開き笑顔を作り、声のトーンを上げて。


「本当ですか! ありがとうございます」


 前の世界で培ったスキルを駆使し返事をする。


「おぉ、なら着いて来い」


 強面の男は家を出ようと出口に向かう。


「あの〜、お仕事は何をなさっているのですか?」


 絶対ヤバイ系の仕事だよなこの人。強面の男は振り返らず口を動かす。


「俺はネノイマとレェデスとの橋渡し役、運送屋を生業としている」











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