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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

王様体験シミュレーター

作者: どん底

 現在からそう遠くない未来、人類の夢の一つであったそれは完成した。

 完全解離式仮想現実シミュレーター。

 人類は意識を肉体から完全に切り離し、仮想世界に没入させるという偉業をついに達成した。

 公開から数年が経ち、一般に普及してきたものの、そのお値段ゆえに一般庶民による所有はなかなか難しい。

 そんなわけでこの物語の主人公、妄想志太郎もうそう したろうは今流行のシミュレーションショップに足を運んだわけである。

 「いらっしゃいませ。」

 高そうなスーツに身を包み、全身から上品な雰囲気を醸し出す初老の男性が志太郎を受付で出迎えた。

 ツ◯ヤにビデオを借りに来るような軽い気持ちでやってきた志太郎は少し後悔した。

 が、こんなところで怖気づいている場合ではない。

 噂が真実ならばこの店にはアレがあるのだ。

 いわゆる男の夢が。

 「はじめてなんですけど。」

 「かしこまりました。ではこちらにお名前の記入をお願い致します。」

 「妄想志太郎っと。名前だけでいいんだ。」

 「はい。当店ではお客様の個人情報を必要と致しません。お名前を呼ばせていただくときに困るので、便宜上ご記入していただいているだけでございます。」

 (それなら偽名でよかったかな・・・)

 「ではこちらへどうぞ。」

 店の入り口から受付の前を抜けて、狭い廊下を少し進んだ右手にその部屋はあった。

 「こちらの三番ルームでお座りになってお待ちください。」

 そう告げると初老の男性は受付のほうに戻ってしまった。

 「これがシミュレーターか。」

 ドアを開けると部屋の中央にシミュレーターと思われる装置一式が見えた。

 歯医者で使われている機械式リクライニングの診察台を、座り心地を追求して進化させたような椅子。

 それを取り囲むように配線された無数のケーブル。

 椅子の横には恐らく店員が操作すると思われる機械の類が並んでいる。

 椅子に腰掛けた志太郎はその機械の上にヘッドギアが乗っているのに気づいた。

 「これをつけるのかな。」

 「左様でございます。」

 いつの間にかさっきの初老の男性が戻ってきていた。

 「あ、そうですか。」

 ぎょっとした志太郎は動揺を隠すためにとっさに返事をしたが、男性にはバレバレのように思えた。

 表情にこそ表れはしていなかったが。

 「申し遅れました。私、志太郎様を担当させていただきます、塚田つかだともうします。」

 「どうも。」

 「こちらが商品のカタログになります。気になるものがございましたらお申し付けください。」

 (この中に例のアレが・・・)

 志太郎は例のアレが何なのか具体的には把握していなかったが、一目見ればそれとわかる自信があった。

 というよりわからない男の方が少ないだろう。

 志太郎のアンテナは感度良好、ビンビンだった。

 渡されたカタログを手に取りページをめくる。

 (ページをめくるのが早すぎてはいけない。アレが目的だと悟られてしまうからな。)

 志太郎は何の興味もそそられないページを見つめながら、フムフム、とわざとらしく言ってみたりした。

 (むっ。これは・・・)

 「ペット人間シミュレーター?」

 思わず声に出してから、しまった、と志太郎は思った。

 もしかしたらこれが例のアレかもしれない。

 (まずはもっと普通の、女友達との会話でも話題に出せるような極々普通のシミュレーションから説明してもらってから例のアレを選んだのはたまたまですよー感を出すつもりだったのに。これではバレバレではないか。)

 そんな志太郎の後悔を知ってか知らずか塚田は説明をはじめる。

 「こちらの商品ではお客様御自身がペットになる体験をしていただきます。舞台はペットショップならぬ人間ショップ。完全ガラス張りの四方いずれからも見渡せる六畳一間のスペースにて、愛玩動物として生活していただきます。そのペットショップを訪れる客には志太郎様がヒトであるという認識は一切ございません。人間という動物ではあるがヒトではない、と言えばわかりやすいでしょうか。我々の世界とは認識が違うのです。おわかりいただけたでしょうか?」

 (なるほど・・・例えば女子高生なんかが裸の俺を見て「かわいいー」とか「抱きしめたーい」なんて言ったりするわけか・・・確かに現実世界ではありえんな。)

 興味がそそられなかったわけではないが志太郎の求めていたものであるという確信が持てなかったので保留することにした。

 (万が一、例のアレが見つからなかったらこれにしようかな。)

 「へぇ、なるほど。でも、まぁ、うん、とりあえず他のも見てみようかなー。」

 「かしこまりました。」

 志太郎は再びページをめくり始める。

 数ページ進めたところで何かを発見し、意識が研ぎ澄まされる。

 (おっ。これは・・・もしかしてこれか?)

 恐らく目的のアレを発見したと思ったが、悟られる事の無いよう、そのページに時間をかけすぎない。

 ある程度頭に入れたら次のページに進み、またそれにも興味を示す振りを続ける。

 そうやって最後の商品まで目を通してから、再び最初に戻ってパラパラとカタログをめくり、たまたま例のアレが気になったんですよ、という演出をする。

 ぬかりはない。

 「んーそうだなぁ。これなんだけど・・・」

 「王様体験シミュレーションでございますか。」

 一瞬塚田の表情が曇る。

 (なんだ?さっきまでにこやかだったのに。)

 「値段が書いてないけど。」

 「そちらの商品はただいま無料で御利用いただけます。」

 「無料?王様が無料?」

 「はい。ただし条件がございます。」

 (そういうことね・・・まぁ聞くだけ聞いてみようか。」

 「条件って?」

 「はい。こちらの商品にはシミュレーション中に『お客様が後悔することになる』と思われる事柄がございます。」

 「どんなこと?」

 「申し上げられません。」

 「え?なんで?」

 「その事柄を知らないままにシミュレーションを開始する、というのが条件でございます。」

 (うわぁ、これはヤバイ、絶対にヤバイよ。・・・でもなぁ・・・例のアレは多分これだよなぁ。王様っていうくらいだし・・・他の商品と比べたらこれが抜群に可能性が高い。)

 「18禁でございます。」

 「やります。」

 怪しさ満点ながらも18禁の魅力には逆らえなかった。


 「それでは。」

 塚田の指示に従ってヘッドギアを装着し、背もたれに体をあずけ目を閉じる。

 「シミュレーション開始まで数分かかります。そのままリラックスしてお待ちください。」

 言われたとおり体の力を抜き、眠る時のような気持ちで臨む。

 不安と期待がちょうどいいバランスでかえって志太郎を落ち着かせた。

 意識を失うまで三分とかからなかった。



 志太郎が目覚めた時、いやシミュレーションの世界に入った時と言うべきか、最初に感じたのは寒気だった。

 「さむっ。」

 視線を下にやり、自分の体を眺める。

 何も着ていない。

 全裸である。

 反射的に両手で股間を隠す。

 「いきなり裸?ちょっと気が早すぎやしませんか。まぁ野外プレイにも興味はあるんだけど。」

 などとニヤけながらのんきに構えていると道端から子供の声が聞こえる。

 「ねぇお母さん。どうして王様は裸なの?」

 (ん?このセリフ・・・)

 「王様はね、頭の良い人にしか見えない服を着ているの。あたなも大人になったらきっと見えるわ。」

 (裸の王様!?今裸なのってそういう理由?王様は王様でも裸の王様かよ!いや待てよ・・・今ここって仮想世界の中なんだよな。どうせ現実じゃないなら見られたって気にする事ないか。いやむしろ見てほしいくらいだ。)

 そう思って志太郎は股間を覆っていた両手をどける。

 役に立った事はないが志太郎のそれは平均サイズよりかなり大きい。

 志太郎は自慢のジュニアを隠す事なく堂々と勃つ。

 (あまりよく思い出せないが童話の通りだとすると今はパレード中ってことになるのかな。)

 志太郎は周りを眺める。

 中世の城下町を再現したのだと思われる幅広い大通り。

 自分を取り囲む従者と思しき複数人。

 通りの端によけ、こちらを見つめる一般庶民と思しき人々。

 どれを取っても現実との違いを指摘しろと言われたら困る程リアルだ。

 (話には聞いていたがここまでの出来だとは。道端にいる一般人の反応もなかなかよく出来てるじゃないか。)

 「ほれ見ろほれほれ。」

 仮想世界だと油断しきったその時、唐突に塚田の声が頭の中に響く。

 「この模様はインターネットを通じて全世界に向けて配信されております。」

 「インターネッ・・・は?何それ聞いてないよ!」

 志太郎は慌てて再び股間を両手で覆った。

 「申し上げておりませんので。」

 「もしかして後悔する事ってこれ!?実は裸の王様でした!って事かと思ったら全世界に向けてインターネットで配信て!」

 「一つだけ、とも申し上げておりません。」

 「ずるいよー!それはずるいってぇ!普通一つだけだと思うじゃん!詐欺だわ・・・これ訴えたら絶対勝てるやつでしょ。ここから出たら訴えてやるからな!」

 「ご自由にどうぞ。」

 「ああん?ずいぶん余裕だなおい!まだ何か申し上げてない事があったりして?」

 「それはまたのちほど。」

 「あるのかよぉ~」

 志太郎は力なくその場にへたりこむ。

 「今はとりあえずこの状況をお楽しみください。それでは。」

 「え、ちょっと待って説明終わり?これからどうしたらいいわけ?塚田さん?おーい!塚田ー!」

 全世界の晒し者になっているという事実に半狂乱になりつつも、どうにかしなければと思った志太郎は思いつく。

 「そうだお城!王様なんだから城に住んでるよね!城に帰ろう!そして服を着よう!」

 城の方向もわからずに駆け出そうとした志太郎の腕を、いつのまにか隣にいる重々しい甲冑を来た中年の男が掴む。

 「痛っ!ちょっとそんなに強く握んないでよ!」

 「どこへ行かれるのですか志太郎様。敵国、露死矢はもう目の前。今さら宣戦布告を取り消して引き返すわけにはいきませぬ。」

 殺風景な荒野の真っ只中、中年の男は真剣な眼差しを向けてきた。

 「は?え、ちょっと待ってここどこ?ついさっきまで城下町っぽいところにいたよね?風景ガラリと変わっちゃってるんですけど。っていうか露死矢?宣戦布告?これ裸の王様でしょ?何これから戦争しますみたいな事言っちゃってるの?裸の王様にそんな場面なかったでしょ!」

 どうやら志太郎の気づかぬうちに場面転換されてしまっていたようである。

 さすが未来のシミュレーター、しゅごい。

 「何を訳のわからぬことを。さぁこちらの馬にお乗りください。そろそろ出発しますぞ。」

 「やだー!戦争やだー!」



 数時間後、志太郎率いる(?)妄想王国軍は戦場に辿り着いた。

 道中何度も逃げ出そうとした志太郎だったがどれも失敗に終わった。

 その際、見かけた女兵士にお触りしようと試みたこともあったが無駄だった。

 見えない何かに阻まれるのだ。

 「何が18禁だよ・・・俺が思ってた18禁と違う・・・」

 志太郎は既に諦めかけていた。

 もうこのままシミュレーションが終わるまで耐え続けるしかないのか。

 「そういえばこれっていつまで続くんだ?」

 口に出したその瞬間、志太郎の足元に上空から飛んできた何かが突き刺さる。

 (これは・・・矢?)

 「敵襲ー!」

 どうやら露死矢軍が奇襲してきたらしい。

 「ぐふっ。」

 さっきまで隣に立っていた世話係の従者が敵の矢を受けてその場に倒れる。

 うつ伏せに倒れた従者の死体の周りに血の池が出来上がる。

 (え、嘘、死に方まで超リアル。え、それって俺もこうなるかもしれないって事?いやいやシミュレーションですし、死ぬってことはないよね。死んだとしても仮想世界の自分が死ぬってだけで現実では・・・まさか植物状態になるとか!?ないない、そんな事になったら大問題でしょ。対策してないわけがないって。)

 志太郎が考えを巡らせていた時、再び塚田の声が脳内に響く。

 「お楽しみいただいておりますでしょうか。」

 「はい、とっても楽しいですぅ、ってこんな状況楽しめるかぁ!俺は血みどろバイオレンスは大っ嫌いなの!ここで俺が死んだら現実の俺まで死んじゃうなんてことないよね!?」

 「ご安心ください。仮想世界の肉体がいくら損傷を受けたところで現実世界の肉体に影響を及ぼすことはございません。」

 「よかったー。」

 「ただし、痛みのあまりに脳が生きる事を諦めてしまう可能性があります。」

 「生きることを諦めてしまう可能性って!それいわゆるショック死だよね!なんか俺の責任みたいな言い方してるけどショック死の事だよね!」

 「厳密には違いますが、そう考えていただいて差し支えありません。」

 斬られる・刺される・殴られる。

 ここは戦場である。

 何も着る事の許されない志太郎にはどれも致命傷になるだろう。

 痛みに弱い志太郎の脳味噌ならば簡単に生きる事を諦めかねない。

 「ああああ!もう帰る!出して!ここから今すぐ出して!」

 「残念ながらそういうわけには参りません。」

 「じゃあもう何でもいいから早く終わらせて!」

 「シミュレーション期間に関しましては三つのコースがございます。一つ目は三十日間のコース。」

 「長すぎ!」

 「七日間のコース。」

 「まだ長い!」

 「一日―」

 「もうそれでいいよ!一日!一日のコース!」

 と志太郎が塚田を遮ったのち、塚田の口から信じられない言葉が飛び出す。

 「では一日二千四百時間コースと」

 「ちょっと待ったああああ!今なんていった?二千四百時間?おかしくない?えーっとつまりそれって言い換えたら百日でしょ!なんで百日って言わないんだよ!それともあれか?朝の七百時に始まって夜の二千三百時まで千六百時間活動して八百時間寝ますってか?いやいやそんなもん無理ですから!」

 「御不満のようで。では変更なされますか?」

 「あーよかった、そこは融通きくのね。ちょっと長過ぎるけどまぁこの際しかたない。

じゃあ七日間のコースで。」

 「決まりでよろしいですか。」

 「オーケーオーケー。正直今すぐ帰りたいけど一週間ならなんとかなるでしょ。」

 「では七日間、総計一万六千八百時間―」

 「は?今なんて?」

 「残り一万六千七百九十五時間存分にお楽しみください。」

 「つかだあああああああああああ!」

 その後約二年間、志太郎は塚田の声を聞くことはなかった。



―そして六日と二千数百時間、現実世界で二年弱の月日が経過した。

―妄想王国首都・東狂とうきょう。その城門前、外側。

 数多の兵のうち一人が男に向かって声をかける。

 「王様、今すぐ城門を開けるよう通達してまいります。」

 「必要ない。下がっておれ。」

 「はは。」

 王様と呼ばれたその男は大きな漆黒の馬からゆっくりと降り、城門の前に立つ。

 「フン!」

 本来なら門番が10人がかりで開けるその門扉を男は片手で軽々と押し開けた。

 男は再び漆黒の馬にまたがると、王国軍の先頭に立って城門をくぐる。

 「王様だ!王様が帰ってきたぞ!」

 「今回も我が国の大勝利だ!」

 「王様ー!ち◯こ見せてー!」

 王様の凱旋に民衆が湧き上がる。

 その時一人の美女が群衆をかいくぐって男の元にかけよってきた。

 「志太郎様!おかえりなさいませ!」


 たった二年弱という月日が都会のもやしっこだった志太郎の全てを変えてしまった。

 たくましい肉体、全てを見通す頭脳、そして何事にも動じない精神力。

 相変わらず全裸ではあったが。

 そこはシステムの都合上変えられないらしい。

 とにかく、他国を征服していく志太郎の勢いは凄まじいものであった。

 世界の国々を次々と手中に収めていくその勢いと、全裸にもかかわらず堂々としたその出で立ちから、志太郎は『裸王らおう』として世界中から恐れられた。


 「百合庵、今帰ったぞ。」

 志太郎は駆け寄ってきた美女に土産話をしながら城に向かった。

 その時、志太郎の脳内で懐かしい声が響く。

 「志太郎様。お久しぶりです。塚田です。」

 「おお塚田か。久しいな。お前が出てくるということは―」

 「はい。そろそろ終了のお時間でございます。残す所あと一分となりました。」

 (一分!?もうちょっと早く出てこいや!)

 と以前の志太郎ならば思った事だろう。

 「フン、時が経つのは早いものだ。」

 裸王となった志太郎は何事にも動じない。

 仮想世界で身につけたこの精神力は現実でも猛威をふるう事になるだろう。

 「我が生涯に一片の悔い無し!」

 「それではシミュレーションを終了いたします。」



 ついに戻ってきた。

 志太郎は目を覚ますと同時にそう考えていた。

 仮想世界ではたくましかった志太郎の体も、現実では二年弱の寝たきり生活によりすっかり衰えきってしまっていた。

 手足はおろか指ですら満足に動かせない。

 (フン・・・わかっていたことだ。)

 そう、志太郎は既にこうなっている事を想定していた。

 何事にも動じないだけではない。

 物事を見通す力も仮想世界で身につけた。

 (こんなものどうにでもなる。これから世界を掌握していくのだ。)

 志太郎には自信があった。

 肉体は問題ではない。

 精神が重要なのだ。

 この精神があれば何でも出来る。

 そう、世界を征服する事でさえ。

 「お疲れ様です。いかがでしたでしょうか?」

 塚田が志太郎の顔を覗きこむ。

 「フン。悪くはなかったな。少々退屈だったが。」

 「左様でございますか。見たところ、なかなか満足いただけたようで。ところで志太郎様、最後にもう一つだけ、まだ申し上げていない事がございます。」

 「む、まだあるのか。まぁいい、言ってみろ。」

 「はい。志太郎様にはこの後別室に移っていただき、そこで記憶の消去を行わせていただきます。」

 「ごめんもっかい言って?」

 「記憶を消去させていただきます。」

 「記憶を・・・消去するだと?」

 全然見通せていなかった。

 「はい。こちら最新技術の詰まった実験的な商品でしたので秘密保持ということで。」

 「待て・・・俺の二年はどうなる。」

 「心配ございません。社会復帰出来るよう手厚いサポートを用意しております。行方不明中に受けたなんらかのショックによる記憶喪失という形で対処させていただきます。」

 「そういうことじゃなくて・・・」

 「仕方のない事でして。」

 そう言うと塚田は部屋の入り口に顔を向けた。

 「運んでください。」

 従業員と思われる男達が志太郎を抱えて運んでいく。

 志太郎が動じまくって泣き叫ぶ。

 「まっ、待ってくれ!頼む記憶だけは!記憶だけは勘弁してくれ!そうだ塚田お前!どこが18禁だ!百合庵とチューどころか手を握ることすらできなかったぞ!おい!待て!降ろせ!まだ話は終わって―」

 志太郎が運ばれて行くのを見送ってから塚田は横にいる見習いに話しかける。

 「やれやれ。不思議なものですね。この商品を体験したお客様はどの方も終了後にはこのような反応を示されるのです。開始直後にはあれだけ嫌がっていたというのに戻って来た時にはその記憶を消さないでくれと言う。それだけシミュレーションの内容が優秀だという事でしょうか。今のところ表に出せる品ではありませんが。」

 


おしまい

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