拾弐
「ん・・・・・」
何処だ?ここは?
俺は目を覚ますと深い森の中にいた。開けたところに・・・・。周りを見渡すとさっきまで一緒だった人間の子供達は・・・・いた。比較的近くに倒れてい
る。
「おや?もう目覚めてしまいましたかな?」
顔を上げると恰幅がよくて・・・・目がチカチカする服を着ている男がいた。こいつの纏っている魔力は薄汚れているな・・・・・あまり近くに寄らない
で欲しいな・・・・伝染ったらどうしてくれるんだ!!
「ほぅ・・・・この子らは皆同じ色を持っていますね?ふふふっ・・・・ははっ・・・こんなに集まるなんて我々はついてますね・・・・」
下卑た笑いを漏らしながら俺達を見渡した。
「当然だ。選りすぐりのガキ共だ・・・・これだけ集めるのは骨が折れたぞ・・・・分かってんだろうな?追加料金を払えよ?」
突然声が聞こえた為視線を向けるとさっきまでいなかったのに黒ずくめの男が立っていた。・・・・・気配が全然しなかったぞ?人間か?
「わかってますよ・・・・私はこの時をずっと待っていましたから、多少は構いません・・・・・あなたの好きにするといい」
男は視線を向けずに話す。黒ずくめの男はあたりを油断なく見渡す
「・・・・・・貴様。なんのつもりだ?」
「ふふっ・・・・そのままの意味ですよ?このことを知ってるのは私だけでいい。あなたもアイツ等ももう用はない・・・・消えていただきます」
「ハメやがったな!!」
「何とでも言いなさい。全てあの世で悔やむとよいでしょう」
周囲から武装した男達が現れ一気に黒ずくめの男に斬りかかった。
「ちっ!!小賢しい・・・・」
黒ずくめの男は数を諸共せず迷いなく切り捨てていった。その姿は人間業とは思えないほど鮮やかで俺は暫く見入ってしまった。
「何をしているんですか?相手はたった一人ですよ?いつまで時間をかけるんですか!!」
ばったばったと斬られていく男達に慄きながら周りに声を張り上げた。
「レベルの差ってもんを忘れられては困るな・・・・」
黒ずくめの男は最後の男を切り捨てるとゆらりと近づきてきた。
「ひっ、ひぃ」
余裕のあった表情が嘘のように青ざめ震えだしていた。
「・・・・・・・貴様が裏切るのはとうの昔に分かっていたことだ。だから泳がせていた。お前ならこう来るだろうと聞いた通りだったな」
「いっ、一体誰が!!」
「俺だ」
森の奥からまた男が現れた。うん、今度は分かったぞ。人間の気配なんてあんまりよく分かんなかったが、あの男は俺が気がついたときからいたな・・・・
あの右から三本奥にある木の後ろに・・・・・てか、チラチラこちらの様子を見ていたな・・・・・出番を待ってたのか?人間がすることは分からんな。
「き、貴様は!!」
「久しぶりだな。お前の行動など手を取るように俺には分かるぞ?」
おっさん。後ろ手に何持ってんの?・・・・・ん?お前が教えてくれるのか?悪いな・・・・・・ふむふむ・・・風の精霊が言うには・・・・
「だから先手を打たせてもらった。」
だと・・・・。ん?あれ?この紙通りに喋ってね?
「お前が紫炎竜を手に入れようとしていることを」
ふーん・・・・大体察しがつくな・・・・あ、あぁもういいよ。残念そうな顔をするな・・・ちょっ!あまり近づかないでくれる?・・・ねぇ、髪の毛むし
って楽しい?え?首に巻いて皆に自慢する?あぁ、別に構わないよ・・・・うん、うん。バイバイ・・・・・俺の髪が自慢になるのか?
そうこう考えてると男達の声にふと思う。俺、紫炎竜じゃなかった?俺を手に入れて何するの?
「だっだからなんだ!!」
「ここの子供達の中に竜の気配がするんだ・・・・でかしたな。まぁ、お前の探している竜ではないのは確かだが・・・・」
おっさんは勿体ぶった口調でゆっくりと近づいてきた。倒れていた子供達はいつの間にか目を覚ましていた。その表情は優れないが・・・・
「お前か・・・?違う。だったらこいつか?こいつも違う・・・・・確かに竜の気配がするんだが・・・・ふっふ見つけた、こいつだぁ!!」
と言い手を掴み強制的に立ち上がらせたのは・・・・・・・コウヤだった。・・・・・・・ん?紛う事なきコウヤは人間だぞ?俺は内心首を傾げた。
「はっ!!離せ!!」
コウヤは顔を青くさせ暴れる。
「暴れても無駄だ。俺のしている腕輪は竜の力を弱める。お前の足掻きなの赤子よりも弱い・・・・・・・・・・・・・・そうか分かったぞ。お前半竜だ
な?人間にも、竜にも馴染めない半端もの・・・・半竜には居場所がなく忌子・・・汚らわしい・・・」
おっさんは笑いながらコウヤを叩きつけた。その足でコウヤを踏みつけた。
「っぐ!!」
『コウヤに何するんだ!!』
「ん?お前何言っている?」
俺は初めて出来た友達が傷つくのに沸々と怒りが湧き上がったのを感じた。徐に立ち上がりおっさんを睨む。
『人間風情が・・・・・俺の友を傷つけるな・・・』
「何を言っているのかわからんな・・・・おい、殺れ」
「御意」
黒ずくめの男に指図し俺に向かって瞬足で近づいて来る。だが、遅い!!俺はお前の剣先など目で捉えることができる!!人間もたいしたことないな・・・・
『フグッ!!』
俺は剣先を避けた。だが、力のコントロールが出来ず勢いよく木に当たった。言葉にするまでもない死ぬほど痛かった・・・・・おのれ人間め!!
俺は恨むように睨んだ。黒ずくめの男はよけられたのに目を見張っていたが俺の今の情けない格好に鼻で笑う。
「俺の剣を避けるとは感心するが・・・・オチがそれか?」
『クッ!!う、煩い!!』
「お前は確かに俺の剣筋を捉えてるが体がついてきてないみたいだな・・・・・図星か?」
に、人間め!!痛いところをつきやがって・・・・
「ならば、容易いこと」
くっくそ!!動きは捉えてるのに体が動きについていけないなら意味ないじゃん!!
『っが!!・・・ウグゥ・・・』
痛い。痛いよ・・・・・何よりも・・・・悔しい。俺の里も人間に襲われ・・・俺もまた・・・・
意識が朦朧としているとおっさんが足元に転がるあるものを不思議そうに取り上げた。
「ほぅ、珍しい。混ざりっけなしの火竜の玉ですね。」
俺は弾かれたように顔を上げおっさんを見るとそこには母の玉が握られていた。
『か、返せ!!俺のだ!!ぞんざいに扱うな!!』
「ふん・・・大方盗みをして玉を手に入れたのだろう。・・・・・こんなに小さい玉を俺は初めて見た。利用価値もないちっぽけな竜玉だな守護にもたた
ん・・・・」
そう言うとおっさんは握りつぶした。サラサラと赤い、赤い粉がこぼれ落ちる・・・・地面に着く前に空気中に霧散し消えていった。
俺の視界が真っ白に染まる―――――・・・
母のなんだ―――――・・・
とても大切な―――――・・・・
俺の宝物―――――・・・・
ぞんざいに扱ってくれるな―――――・・・
恥も外見も関係ない―――――・・・・
返してくれるならなんだってする―――――・・・・
土下座なんてできる―――――・・・
大事な大事な母の玉のためなら―――――・・・
なんだって出来るんだ・・・・
母の玉がこの世から消えてしまった・・・・・・消えてしまったんだ・・・・
唯一の繋がりを人間が・・・・お前が断ち切ってしまった・・・・
許さない―――――
人間め―――――
人間め―――――
人間め!!!!!!!!!
今までなんとか抑えていた力が魔力が膨れ上がるのを遠くで感じた。もう何もいらない。母の玉がこの世界に俺をつなぎ止めてくれていたんだ・・・
俺には火竜を導くことも・・・・火竜王・・・紫炎竜として立つこともどうでもよくなった・・・・いっそひと思いに・・・・・
最後まで読んで下さりありがとうございました。