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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第一章 悔恨の幼児編
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第5話 お勉強と母の決意

 



 5歳になった。


 部屋にある本棚も、ほぼ全て読み終わってしまった。

 本の種類はほとんどが教科書のようなもので、勉強するためのものだったのは俺にとっては暁幸だった。

 逆に言えば娯楽本がほとんどないのは、なんだが淋しいものだが。


 だが、世界史の教科書が鬼門だった。

 世界史と言っても本棚に陳列されている本は、他国の事がほとんど書いてない。

 書いてある本もあるにはあるが、まともな事が全然書いていないもので、九割方が悪口というもはや教科書と読んでいいのか分からないレベルのものだった。


 逆に、自国の歴史本なら大量にある。

 あらゆる言葉を使って俺が今いる国である【ヴァンス帝国】を褒め称えているが、書いてある事実だけ抜き出すと、どうやら鎖国しているようである。

 戦争もたまに起こしているようで、軍事国家のようだ。

 侵略した挙句敗戦したのすら相手の責任にして、自国を褒め称えているのはもう末期だと思ったが。


 母からは、「そこにある本はまともなこと書いてないわよ」と教えられたが、まさにその通りだった。



 さて、世界史の本の中でまともなことが書いてあるのが少しだけある。

 それは、国が出来る前の大昔のことや神話のような話だ。



 そんな大昔の歴史の中でもっとも重要だと思った話が、童話にもなっている【勇者と魔王】の話である。



 ---------------


 題名、勇者と魔王が簡単にわかる本


 この世界の約950年より前の歴史はほとんどわかっていない。


 なぜ、というには、この世界で一番有名な話、【勇者と魔王】について話さなければならない。



 ほとんど推測になるが、約950年より前は、古代文明と言われている今より優れた技術があった。

 遺跡などから発見されている技術は、今ではほとんど再現出来ない物である。


 しかし、約950年前より、邪神によって異世界から魔王が召喚された。


 その召喚された魔王は、狡猾が故に初撃で主要国家に砲撃したという。

 今より優れた結界技術を持っていたであろう主要国家も、問答無用で破壊し尽くされ、世界は大混乱となった。


 さらに魔王は、どんどん世界中に兵を送って行き、獣人種、妖精種、人間種、魔人種等を含めて、ヒト種の全体人口は当時の推定人口の10億人から95%以上も減らされてしまった。


 世界滅亡の危機に晒された時、神々は同じく異世界からの勇者召喚を行った。

 それからは、童話にも語られる通り。

 勇者は各地で快進撃を続け、遂に魔王を倒した。


 その後も、勇者は奮闘し、残った魔物の排除、■■■■■■■■(消してあるが、恐らく各種族の差別撤廃と書いてあったようだ。うっすら見えた)、建国、■■■■■■■■■(冒険者ギルドの設置)、異世界の技術提供など、魔王を倒した後の偉業も数えればきりがない。


 そして、勇者が魔王を倒した日を境に、その後の年号を勇者暦と言うようになったのだ。


【初代勇者、タロウ=タナカの伝説】と言えば、至るところの童話に書かれ、世界で知らぬものなど居ないと言えるほど有名である。



 初代、とあるように、その後も100年に一度周期で魔王が召喚された。

 しかし、その都度勇者は召喚され、世界は平和を維持し続ける事が出来ているのである。


 ----------------


 ここから先は、少し細かめに勇者と魔王について書かれてある。

 ちなみに塗り潰して消されている部分は、この国にとって都合が悪いことのようである。

 仕事が雑だからか、透かしたら見えたが。




 これに書いてあるように童話にも記されていて、赤ちゃんの時に母さんに読み聞かせしてもらったことがある。

 文字の勉強と少しでもこの世界について知ろうと頑張っていたのに……、不意打ち過ぎて吹いてしまった。


 タロウ=タナカって、タナカって!

 どう考えても田中太郎(たなかたろう)じゃねぇか!


 勇者日本人説が俺の中で唱えられた瞬間であった。



 これだけでなく、様々な本を読み進めわかった事がある。


 初代魔王との戦い後、さらに人口は一度減ってしまったようだが、勇者暦950年の世界人口は、推定1億人程度まで回復している。……ただ、問題点として、この人口は人間種のみしか数えられていないようだ。

 つまり、獣人などの種族は数えられてないという事だな。

 それでも前世から考えればとても少ないように思えるが、魔物や魔獣、魔王といった明確な脅威がいるにも関わらずこの人数は、実際すごいのだろう。



 他には世界、つまり星の広さは、約一周で10万キロもあるとの事らしく、しかしその癖に、一年は360日で一月は30日、一日は24時間となっているらしい。


 さらに、月を一度、母さんに夜中外に連れていって貰って見た事があるが、滅茶苦茶デカかった。

 直径の長さが、おそらく地球の月の直径×10ぐらいだと言えばそのデカさがわかるだろう。


 違和感が半端ないし、科学的に色々おかしいところあるだろ! とか、ツッコミたかったが、残念ながら誰にもツッコメない。


 まあ俺にとっての未知の物質や、未知の波、未知のエネルギーとかあるようだから突っ込んだら負けなのかも知れないが。



 ちなみにこの世界はかなり広いが、ヒトの住める場所は少ない。

 この理由も同じで魔物とかがいるからだ。



 あとは……、ああ、一度徹底的に文明崩壊されたおかげと言えば悪いが、勇者によってもたらされた概念、センチやメートル、リットルなどが使われている。


 ほぼ全ての国が潰れて、都市や町を破壊し尽くされ、長い集団疎開を強要されればそうなるのかも知れないし、あるいは「勇者が言ってた!」というブランドに引かれたヒトが多かっただけかも知れないな。

 俺としては分かりやすくて非常に助かるが。


 しかし、勇者からもたらされた科学はそのまま実用化はされなかったようだ。

 理由としては、魔物から取れる魔石がエネルギーとして有用だったことや、魔力があるせいで物理法則とか無視される事があげられるらしい。

 質量保存の法則とかは、魔素が変質した瞬間に破られる。

 法則を見つけるという姿勢は取り入れられたようだが、科学という概念は、研究者や学生ぐらいしか知らない。とのことらしい。

 単純に、距離が遠すぎて伝えにくいのもあるらしいが。



 これは、なぜ勇者の英知は浸透しなかった? という本に書いてあって、なかなか面白かった。




 さてさて、今日の勉強も終わり。

 早く寝て明日に備えるとするか。



「あら、テラスちゃん。もうおねんねするの?」



 今まで、アクセサリーのようなものを作っていた母さんが話し掛けてくる。

 俺が一人で行動するときはいつもこの作業をしていて、出来たものはいつの間にか無くなっている。

 夜遅くまでそれをしてるのは心配だから、前に体を労わるように言うと、「まあ、趣味みたいなものだから」と、やんわり拒否されてしまった。



「うん。すこし疲れたから」


「わかったわ。じゃあもう寝ましょうか」



 そう言って先にベッドに入った母さんに手招きされ、一緒のベッドに入る。

 寝るときは、まだ一緒の布団で寝ることになっている。とはいっても、この部屋にはベビーベッドと普通の母のベッドしかないんだが。

 この年齢になると少しベビーベッドは狭いんだ。



「テラスちゃん、今日も頑張ったね」



 母さんは、優しく俺の頭を撫でながら話し掛けてくる。



「うん、今日も訓練や勉強に付き合ってくれてありがとう、お母さん」



 そういうと、母さんはぎゅっと抱き締めてきた。

 自然と胸の中に顔を埋める形になるのだが、そこには深い安心感しか生まれない。



 俺はこの世界に転生して、この母さんを、完全に母親と認識していた。

 言葉にすればおかしな話ではあるかもしれないが、もしかしたらちゃんとこの母さんに家族愛を持てないかもしれないと、最初の頃は思っていたのだ。


 しかし結果は、それはもう甘えまくりの子供となっていた。精神が子供の肉体に大きく引っ張られているとはいえ、成人越えていた男の記憶を持つのだから少し気持ち悪いと思うかも知れないが、黙っているつもりなので問題ないだろう……だぶん。


 優しいだけではなく、力強く芯の通ったたおやかな母さん。

 俺は自分で思っていたより、無償の愛に飢えていたらしく、前世の疲れを癒やすように母に甘えていた。




 そんな母さんは、唐突に一つの話を始めた。



「…………ねぇ、テラスちゃん。テラスちゃんは、いつもいつもお母さんをびっくりさせるような事をたくさんしてくれる、私の自慢の息子よ。でもね……中にはその力を利用したり、嫉妬で嫌がらせをしてくる人もいるの」



 それは、よく、知ってる。

 前世で嫌でも味わわされてきた。

 たった少し人より勝っているだけでも周りは押さえつけようとする。出る杭は打たれる、正にその通りなのだ。

 そして、同じく利用しようともする。 

 俺がそこばかり見てきたせいで過剰に思っていることなのかもしれないが、それでも嫌悪感は変わらない。



「でもね、そんなときは、自分を責めようとしないでね。なんで、って塞ぎこまないで。

 それは、テラスちゃんが悪いわけではないのだから。

 ……ごめんね。

 その天才的な……いや、逸脱(・・)した能力は、もしかしたらお母さんのせいかもしれないんだ」



 母さんは何かを覚悟したような顔で、俺にあることを打ち明け始めた――。






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