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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第三章 淵源の開花編
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第49話 起衰終消

 



「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ!! メイレー! がんばれ!! すぐに休ませるからな!!」



 走る、走る、走る。


 この危険な森を走るのはとてつもなく危険で、そして愚かな行為なのだろう。たった二回しか接敵していないのに、それを深く実感できた。

 しかし、全身を駆け巡るような焦燥感が、俺の脚を止めない。


 警戒も緩めない。

 脳への負担も考えず【思考加速】、【並列思考】を最大出力で使い続け、体への負担を顧みず、【過度身体強化オーバーレイズ】を使い続ける。

 短時間の使用ならそこまでの負担にはならないこのスキルと複合魔法も、長時間の使用となると途端に使用者の自爆行為と変わらないものになってしまう。

 まだ成長しきっていない体には、あまりにも酷な強化なのだ。


【魔力感知】も、【気配察知】も、【熱感知】も、魂力感知も。すべてを【叡智の選定者】のサポートの元強制発動させる。本来まだ使用できるだけの経験を得ていないスキルを使う代償は、頭蓋を歯医者のドリルで抉られていくような、目の奥が焼かれるような痛みだ。


 それに、今まで走り続けて約一時間。【思考加速】Lv4の倍率は基本的に16倍、つまりもう16時間は走っている気分だ。精神的な疲労も濃い。


 それでも……そうでもしなければ、次の瞬間には死んでしまうかもしれないのだ。

 メイレーを助ける、その一つの目標の為だけに、俺は地獄の様な探索を続けていた。






 ……

 …………

 ………………




 時は少しだけ遡る。サイレントアサシンスパイダーを倒し、そしてメイレーが倒れた時だ。

 メイレーが倒れた瞬間、俺の脳内であの報告書の内容が浮かび上がった。


 〈――切り離された腕の切り口から正体不明の毒が周り、次の日には衰弱死した〉


 一瞬で頭が真っ白になった。


 ――メイレーが…………死ぬ?



「メイレー!!」



 湧き上がる様な悪寒を抑え、メイレーへ飛びつくように近づく。うつ伏せに倒れていたメイレーを仰向けにし、呼吸、脈拍、顔色、体温、気、魔力、魂、全てを検査する。


 調べれば調べるほど、状態は悪かった。呼吸は乱れ、動悸が激しく、顔色も青くて唇も紫色だ。【気】も乱れているように見えて、魔力は垂れ流しになっている。魂は、何かに焦っているかのように揺らめいていた。


 毒、毒ならば、毒魔法の解毒でどうにか出来ないか? まず、毒の正体を解析しないと…………。


 ――【叡智の選定者】!


 最大出力、脳への負荷を一切考えないスキル行使に眩暈がする。激しい頭痛に見舞われながらも、俺は解析をやめない。体内の異物、異常を探す。メイレーの体は一度解析済みだ。その時との相違点を探せばいい。


 体組織。発汗が見られ、鼓動が速いが、直接的な異常や破壊された後は見られない。内臓を探っても、血管を探っても、どこにも毒は見当たらない。入念に調べたが、物理的な毒ではないと判断。



 気、気脈、気穴等の生命関係は乱れに乱れているが、やはり同じく破壊の後は無い。原因と見られるような異常はない。



 魔力、魔管、魔孔は……ボロボロだった。明らかな破壊痕がある。魔力は魔法に変換されることも無く周囲に垂れ流しになっていて、しかもその速度がおかしい。常に中級魔法を行使し続けているのと同等の速度、いやそれ以上の速度で魔力が減っている。どうみても異常な状態だ。


 魔力が通る魔管も、見るからに広げられている。その広がった魔管を激流の様に流れている魔力がその損失の多さを物語っていた。

 問題は魔孔だ。手の平に多く存在し、体全身にもある魔力の出入り口は……完全に破壊されていた。

 そこを閉じることも出来ず、魔力が垂れ流されているのだ。



 急いでそれを破壊した毒を探すが、見当たらない。そんな馬鹿なと探し、解析し、刺すような脳の痛みを無視してさらに解析しても、見つからない。視野を広げようと、その他の分野を見ても見つからない。

 魂に何か仕掛けがあるのかと解析しても見つからない。そもそもユニークスキルクラスじゃなければ魂に直接干渉なんて出来るはずがない。どこにも、どこにもない……。


 焦りばかりが募る。解毒魔法もその毒が見つからないと使う事なんて出来ない。なんの病気か分からないのに適当に薬を処方するようなものだ。逆に危険な事になる。



 ふと、考え方を変えてみる。

 そう言えばさっきのスキル吸収で、【起衰終消】なんていう特殊なスキルがあったはずだ。急いでそちらを解析する。自分の中にあるスキルだからこそ、そんなに時間はかからない。


 解析完了。そして、最悪だ……。

 このスキルは予想通り毒を付与するスキル。この毒は即効性が高く、毒が回ればすぐに効果が表れる。その効果は今まさにメイレーに出ている症状、魔力器官の破壊だ。



 そして、その毒は魔力器官を破壊したあとすぐに消える。消える際、破壊された魔力器官を“歪んだ状態で治す”エネルギーとなって。


 その結果起こる現象は、毒が消えて見つからず、破壊された魔力器官は治るのを阻害され、魔力を止める魔孔が壊れたことで穴の開いた風船のように魔力が漏れ続けるというものだ。




 魔力が吐き出されると何が問題なのか。


 まず、前提としてこの世界の【気】と【魔力】の関係を話さなければならない。

 この世界の人の不思議エネルギーは基本的に魂から生み出されていて、それが【魂力】だ。


【魂力】から作り出されるエネルギーへの流れは二つ(・・)あり、

 その【魂力】が魂の位相から、現世の非物理的位相へと渡る際、【魔力】に変換される。

 さらにもう一つ、【魂力】が肉体へと注がれる際、それは命の源たる【生命力】となり、それが一日を生きる【気】へと変換される。


 難しく感じるかもしれないが、ようするに

 魔力(終)←魂力(始)→生命力→気(終)

 という二通りの流れがあるという事さえ分かれば問題ない。


 魂力から供給されるエネルギー量は、魂、存在の格に依存する。つまりレベルアップや種族進化等でしか供給されるエネルギー量は変化しない。

 ライフエナジーの様な狂気のスキルなら変えられるが、それにおける副作用は二万倍速で寿命を減らしていくという致命的なものだ。



 話しを戻すが、魔力が無くなり続ければどうなるか。

 足りない魔力を無理に補おうと、本来“生命力に変換される筈の魂力”で代用するのだ。それを延々と続けることによって起きるのは――生命力の枯渇。


 生命力が枯渇すれば、自然治癒力が大幅に少なくなり、身体と密接な関係にある気が枯渇し、体は衰弱していって、死に至る。


 直接生命力に関するものを傷つけていないために自然治癒力が働きにくく、自然治癒力を生命力枯渇によって大幅に下げる。



 知れば知るほど、考えたくもない程凶悪なスキルだ。




 解析、考察を終え、心を出来る限り落ち着けて考える。

 今後の選択でメイレーの生死が決まる。間違った選択をしてはならない。



 考えられる選択肢は三つ。


 まず一つは、ここで治療を始めることだ。だが、大きな戦闘音を鳴らしたここに留まるのは危険だ。他のモンスターが寄ってくるかもしれない。よって不採用。


 その二、一度街に帰る。しかしこれも不採用だ。なぜなら、戻ったところで町は半壊状態だし、軍が来るから隠れないといけない。この毒の治療はあの町では出来なかったと報告書に記してあったし、戻ったところで何の意味もない。亡命も難しくなる。


 その三、休める拠点を探す。要するに木の根が少ない地面を探すという事だ。まあもうこれしか選択肢が無い。移動が危険だったりするが、そんなことも言ってられないだろう。



 問題は戻るか進むかだ。戻るなら前の拠点の場所を大体覚えているし、そう時間はかからない。問題は軍が来る前に治療を終わらせなければならないという事だ。

 調査隊が来るまでは、軍があの町について基地を作成して等の作業があるため、二週間近くは余裕があるかもしれないが……。

 しかし、その前に偵察隊がすぐに来るはずだ。それに鉢合わせるのも避けたい。いや、そんなに人数多くないなら皆殺しにすればいいか?

 危険な思考かも知れないが、メイレーが無事なら軍の奴らはどうでもいい。


 進むか、戻るか。

 ……進むのは不確定要素が多い。一度戻ろう。



 俺は苦しそうなメイレーを背負い、全力警戒しながら、昨日寝た拠点に戻った。




 …………

 ……



 最悪だ! 最悪だ!! 最悪だ!!!


 元の拠点に戻ろうとしたら魔物が居た! しかも明らかに勝てそうにない強者が!!




 ============

 バーニングファイアーオーク ♂ 12歳

 MLv35

[種族基礎値]Lv38 相当

[魔力] 69999/83983

[スキル]

 跳躍Lv5 熱耐性Lv8

[種族固有スキル]

 炎纏Lv7 熱光線Lv6

 =============



 常に体を極炎で多い、周囲を溶かし続けるオーク。燃えないという不可思議なこの森の魔樹も、一緒くたに溶かしていた。おそらく5メートル以内の物は鉄すらも溶かすだろう。

 見ただけで分かった。あれは絶対勝てない!


 幸い、そいつは俺たち以外の生き物を見つけたらしく、そっちに集中していた。見つかったら即死もあり得たから、本当に助かった。

 その生き物はゴブリンだった。そいつもやっぱり亜種で、防御特化だった。だけど、格が……強さの格が違い過ぎた。



 ============

 シールドゴッブリン ♂ 3歳

 MLv16

[種族基礎値]Lv22 相当

[魔力] 588/611

[スキル]

 盾術Lv3 鉄壁Lv4

 =============



 左拳が盾の様に変形しているゴブリン。そのゴブリンは、オークに対してしっかりその盾を構えていた。


 そして戦闘は一瞬で終わった。その場からこっそり離れながら見た戦闘は、三行で終わらせられる呆気ないものだ。


 オークがゴブリンを見る。

 オークの目が光る。

 ゴブリンがジュッと蒸発する。


 ……あれはいったいどうやって避けろっていうんだ……。


 ここの辺りは不帰の森でも表層地点の筈なのに、なんでこんなワイバーンすら瞬殺しそうな奴がいるんだよ!


 俺は逃げ帰る様に、前へと進むことを余儀なくされた。




 ………………

 …………

 ……




 そして、冒頭の状況に至る。

 モンスターに遭遇しない様に、身を削る様な警戒をしながら、走る。

 長引けば長引くほどメイレーの体調は悪くなる。魔力が常人より多いから、それによる魔力大量喪失は体の負担を招く。報告書の兵士は話す余裕があったようだが、魔力の多いメイレーはあの倒れた時からずっと気絶したままだ。


 焦りばかりが募る。二つの戦闘でレベルアップを果たしたメイレーの魔力は三万近い。だが、既にその魔力は二万を下回り、そう長くない時間で一万すら切ってしまうだろう。

 魔力がゼロになればその時点で急速な衰弱が始まる。今日中になんとかしなければ、もうメイレーは……。


 そもそも、その治療だってうまく行くか分からない。まるで治療さえできれば治るかのように考えてるが、こんな経験初めてだ。失敗する確率の方が圧倒的に高い。

 いくら【叡智の選定者】で計算しても、成功確率は一割すら軽く下回る。


 分かってる! 分かってる!! だけど……!


 探しても探しても見つからない木の根の無い地面、とてもうまくいくとは思えない治療、今までの探索で体に襲い掛かる気を失いかねない激痛と疲労。

 心の奥底に眠る弱気が、脆い心が、醜い心が、浮かび上がる。涙すら溢れそうだ。


 このままじゃ、また、また失ってしまう。


 たのむから、はやく、みつかってくれ……!






 …………!!!!

 おい、なんでだよ! いつ! いつだ! いつ近づいた!

 なんで、なんでもう目の前にいるんだよ! これだけ、これだけ対策したのに――。

 頼むよ! なんで、なんで邪魔ばっかりするんだ! もう、失いたくないのに!!


 邪魔だ! 邪魔だ邪魔だ邪魔だ邪魔だぁあああ!!



「そこを、通せぇぇぇぇえええええええええ!!!!!」



 絶叫が、森に響き渡る。

 何時の間にか、何重にも対策したというのに存在していた魔物。

 どう見繕っても、命の危険を感じるほどの強者。


 一メートル程の体躯。皺の少ない、しかしパーツは整っているマネキンのような顔。少ない頭髪は薄いピンク。

 醜い筈の、ゴブリン。しかしゴブリンらしい醜さは無く、宇宙人じみた印象を持たせる。

 体を何かの茶色い毛皮で覆い、その手に持つのは、――――刀。



 ============

 ムシャゴブリン? ♀ 5歳

 MLv22

[種族基礎値]Lv20 相当

[魔力] 120/121

[スキル]

 曲刀術Lv4 抜刀術Lv7 気配察知Lv6 見切りLv6 直感Lv6 瞑想Lv6 縮地Lv5

[レアスキル]

 人刀一体Lv5 

[種族固有スキル]

 妖刀創製Lv5

 =============



 その魔物は、俺を静かに見据えていた。












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