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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第一章 悔恨の幼児編
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第4話 鍛錬と模擬戦

 





 ようやく4歳になった。


 俺はあれからひたすらに魔法の練習をし続け、複数の属性を初級まで扱えるようになっていた。

 ステータスにあったように俺は全ての属性が使えるのか、現在は基本属性と、派生属性と呼ばれる、爆、氷、雷、木、回復まで万遍なく初級魔法を使える。


 しかし、童話で出てきていた、光、闇などの特殊属性は、【印】が部屋にある本棚と母さんの知識からは分からなかったため、修得することは出来なかった。


 だが、それでも十属性を使えるなど、普通に考えればあり得ない話だ。

 属性因子は遺伝で決まる。しかし、両親の属性を全て受け継ぐ訳ではなく、属性因子が遺伝するかは、ほぼ運次第だと言われているのだ。

 基本属性より遺伝しにくい派生属性を全て受け継ぐなど、途方もない天文学的な確率になるのは確かなことであった。


 そもそも、だ。

 俺の母さんは基本属性しか持っていないし、父親も派生属性を二つ持っているだけの様だ。

 ……遺伝するはずの属性因子がまず存在しない。



 こうなってくると、心配な事も出てくる。

 それは、こんなことまで出来てしまうと気味が悪いと思われるかも知れない、ということだ。

 しかも、まだ4歳なのに難しいと言われる属性も、特に問題なく使いこなせるのである。


 優しさを際限無く注いでくれる母さんに限って、いきなり態度が変わるなんて想像も出来ないが、やはり怖いものは怖いのだ。

 派生属性すらもすべてを使えた時、これは不味いか……と母さんの顔を恐る恐る窺ったら、


「大丈夫、そんな不安な表情しなくていいのよ。たとえあなたがどんな子であろうと、テラスは私の大切な子供なんだから……」


 と、優しく頭を撫でながら心の芯から安らぐように温かい声で言ってくれた。

 その瞳に偽りの心は一切見えず、真摯に向き合ってくれている事がよくわかった。



 精神が肉体に影響されているからか、それとも無償の優しさへの感動か、思わず泣きそうになったが、なんとか堪えることが出来た。


 決して泣いてなどいないが。

 決してな。

 ちょっとうるっときたが、欠伸(あくび)だろう。

 とにかく、杞憂だったようでよかった。


 そんな出来事もあって、俺は調子に乗り色々と自重しなくなった。

 今まで躊躇(ため)っていた、幼児が興味を持つには少しおかしなことも尋ね、様々な知識と教養を手にいれていったのだ。


 母さんも俺を英才教育することに賛成なのか、それとも別に理由があるのか、強く渋ることなく出来る限り様々な事を教え続けてくれた。



 ただ、俺を育てることに関して、少し焦っているような感じがあるのは、薄々気付いている。

 なぜ焦っているのかわからないため少々怖いが、迂闊に踏み込む事が出来ないでいた。

 それにはもちろん理由がある。



 そう、あの種族、改造人間(キメラ)について、母に一切聞けていない。



 母さんが、俺にその話をしないのであれば、知らないフリをすることにしたのだ。

 母さんにとってこの事柄が、どれほど重要なのかわかっていない。故に、どれだけ知られたくない事実まのかが分からないのだ。

 だから、目を背けるような事と分かっていても、俺は知らなかったことにして、母さんに接していた。




 一先ずそれは置いておく。

 そんなことより、この頃成長して活動していい範囲が増えたので、教えて貰える教養の中で木剣をもらって剣術を教えて貰ったり、母さんが得意な弓術を簡単に教えて貰ったりしている。


 今日も、午前は剣術と魔法、午後は弓術と、寝る前に歴史の勉強を少しする予定にしてもらっているのだ。かなり充実、というか詰めた日程だが、俺が苦にしないためかこの日程を了承してもらった。



 部屋から出ることを許されたと言っても行ける場所はあまり多くない。

 まだ見慣れていない、天井の高い中世の宮殿を思わせる巨大な廊下を、母さんと二人で進んでいく。

 周りにある豪華な調度品や絵画等は、正直、ちょっとギラギラし過ぎて悪趣味な域に達していると思う。

 どうやら俺は相当なお金持ちの家に生まれたようで、一体この家? がどこまで広いのか中からでは検討もつかない。



 ちなみに、幼い頃はたまに世話に来ていた侍女達は、この頃ずっと顔を見ていない。

 俺が異常な成長力を見せ始めた頃より、母さんが侍女達を俺に付けさせないように取り計らったようだ。


 色々と我儘ばかり言っている母さんに、さらに頭が上がらなくなっている。

 そもそもこの木剣も、本当は母さんに産後のリハビリ代わりに支給されたものを譲って貰ったのだ。

 俺が少しでも強くなっておきたいと主張したら、快くくれたのである。



 剣術の鍛錬で模擬戦をするときがあるが、母さんは自前の土魔法で作った、刃の部分が潰れている灰色の石剣を使っている。

 十分硬いので、むしろこちらの木剣の方が折られそうになるが、そこは無属性と木属性の強化魔法の重ね掛けで木剣の硬さをカバーしている。


 そんな事を考えている内に、大体一辺が25メートルぐらいの、この宮殿のような家から小さいとも言える四角い庭につく。

 この庭は通路の隙間のような位置にあり、木が一本生えてるだけの簡素な庭だ。

 ここでいつも剣術や弓術の鍛錬をすることになっているのだ。


 まず最初に素振りだ。

 俺は体内に魔力を循環させることを常にしているため、これが擬似的な身体強化につながり、普通の幼児よりも結構動ける。と、言っても少しだけなのだが。

 体力回復の効果もあるので、かなり便利だ。

 まあもともと自分の体は普通より相当丈夫みたいで、三歳にも関わらず、大人用の木剣を振ることが出来ている。


 いつもの素振りノルマを、母さんに指導を受けながら終わらせ、そのあと軽く模擬戦をする。


 このときは、さすがに無属性の身体強化魔法を使わせてもらう。

 こっちは正真正銘の身体強化で、扱いがかなり難しい。

 もし筋肉だけ強化したら、骨が逝ってしまうし、皮膚も強化しないと直ぐに破けてしまう。


 だから、自動的にしてくれる呪文詠唱式と違い、手動である直接展開式の俺や母さんは大量の言葉を刻まなければならない。

 相変わらず使いにくい魔法である。


 勿論メリットはある。

 呪文詠唱式と違い、一度魔法陣を完成させてしまえば、それを維持しながらだと制限時間がないのだ。

 呪文詠唱式は今から使おうとしている初級相当の身体強化魔法は三分程度しか持たないからな。



 さて、そんなこんなで準備も整い模擬戦である。



「それじゃあ始めるけど、まずはそっちから打ち込んで来なさい」



 いつもよりキリッとした母さんは石剣を右手に持ち、下段に構えながらこちらを見据えてくる。

 鍛錬の時は厳しくすることはこちらとしてもありがたく、我が母ながら好感を持てる。



 俺は木剣を正面に構えながら、摺り足で母さんへと一気に距離を詰める。

 最初に摺り足をしたときは面白い動きだと驚かれたが、俺の動きに見慣れた母さんは、憮然とした態度で挑んでくる。


 そもそも前世で武道なんてやってなく、何となくテレビで見た動きを真似ているだけのため、この動きはなんちゃって剣道程度でしかない。

 しかし、母さんの実戦的な剣術と融合し、それなりに見える動きになっているはずだ。


 まあ母さんはそれをあっさり防ぐ訳だが。


 俺の上段に見せかけ横凪ぎにした剣閃を母さんはあっさりと防ぐ。

 さすがにそれは分かっていたため、息をつかせぬほどに連続でとにかく打ち込む。

 右から斜め切り上げ、上段切り、突き、左から斜め切り上げ、右からの横凪ぎ、流れるように母さんに攻撃する。


 カッカッカッッッカッカカカカッカッカ!!


 庭には俺が母さんに打ち込む音だけが甲高く響く。

 相当な速さの筈だが、危なげなく普通に防がれてしまっている。母さんがすごいのだろうが、やはり少し悲しい。


 そんな連撃も唐突に終わりを告げる。

 母さんが俺に反撃したからだ。

 俺は今のタイミングで剣撃は来ると思っていたが、ちょっと速さが予想外に速かった。


 避けることも受け流すことも出来ず、右から来た横凪ぎを木剣で受け止め、そのまま吹っ飛ばされる。


 ガッッズザザァァァ!!


 ちょっと強すぎじゃないだろうか!

 普通に5、6メートルぐらい吹っ飛んだぞ!


 そんな事を思いながら、受け身をとりつつ母さんを見据える。


「剣筋はなかなか見れるようになったわね! さすがは私の息子だわ! でも、ちょっと動きが正直過ぎね。次の攻撃がまるわかりだったから、もうちょっと読まれないように動きに変化を加えなさい。あと、もっと足も使って動き回って攻撃するのもいいかもね。体が小さいのも利用するような攻撃を加えれば、対処しづらくなると思うから。」


 石剣を肩に置くように持ちながら、母が俺にダメだった所を伝えてくる。


「お母さん……俺、吹っ飛んだんだけど……」


「そうね、でも受け身とれたじゃない。男の子なんだから弱音吐かないの! やると決めたからには、ちゃんとやること!」


「はーい……」


 結構頑張ったつもりなんだが、まだまだダメダメなようだ。

 まあ、まだ強くなれるって事でもあるんだろうが。


 ちなみに、母さんは身体強化魔法どころか、魔力循環も使っていない。

 使ってないのに、鋭くした石剣で丸太を一刀両断したり出来るという、前の世界で言えばとんでもない達人だ。


 しかし、この世界ではそうでもないらしい。

 この世界では、一般的に、【気】と呼ばれるものがあり、レベルアップと鍛練と共に鍛えられていくそうだ。

 それのお陰で、明らかに人体の限界を越えた動きも出来る。



 そんなわけで、まだまだ色々と未熟な俺は、身体強化魔法を使っても身体能力の面で母さんに全然届かないわけだ。いや、技術も全然勝ててないが。


「さて、続きをやるわよ!」


「はい!」


 それからしばらく、庭に打ち合う音が響き続けた……。





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