第37話 西の森にて
現在戦力。
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ゲーゲン=アングリフ 人間族 ♂ 10歳
Lv6
[クラス] 剣士
[魔力] 86/86(微小up!)
[魔法] 無 火 風
無2 火1 (両方新規習得!)
[スキル]
剣術Lv2(Lv1up!)
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暗めで茶色の長袖ゴワゴワシャツ、同じような茶色の長ズボン、革の靴、革の手袋、テラス印の剥ぎ取りナイフとテラス印の石剣をしている。俺の五連魔法により作られた石剣は、鉄の剣にすら匹敵する強度をもつ。
俺が食費を出しているのでその分お金が浮き、日々の仕事(死体処理や汚物処理などスラムの人々の仕事)で稼いだ金をそのまま貯めることできた。そのお金で買った安価で丈夫な服だ。
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ハイリ=ガー 白猫族 ♀ 9歳
Lv4
[クラス] 癒し手
[魔力] 280/285(小up!)
[魔法] 無 風 水 回復
無1 風1 水2 回復2 (全新規習得!)
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ゲンと同じように茶色のゴワゴワシャツとズボン、革の靴をしている。当然実用性重視でかわいらしさやオシャレ要素はゼロだ。
武器は30センチほどの小さな杖と、護身用に刃渡り20センチほどのテラス印のナイフ。
この杖は、呪文を詠唱し体外に魔力を出し魔法陣生成をする過程を、よりスムーズにしてくれるものだ。
俺が偶々手に入れていた杖になる魔樹の種を、少し時間をかけて木魔法で丁寧に成長促進させ、それを加工したものを譲っている。加工の際古代文明の知識を多少は使用したが、もともとそんなにいい素材が揃っている訳でもないし、加工道具も無いので杖の効果は一般的なレベルでしかない。
ちなみにだが、俺の魔法陣生成能力は現時点で既に高度な領域に達しているので、この杖が有っても無くてもほとんど変わらない。そのため俺はこれを持っていないのだ。
よって、俺はまったくいらない為、残りの杖に出来る魔樹もすべて加工して、予備としてハイリに与えている。杖も余程いいものじゃなければ消耗品だからな。
なお、精度上昇ではなく威力増幅作用などがある杖も店で売ってるのだが、魔法を使える→魔法を学べる環境がある→貴族かもしくは貴族と懇意な関係の人である→お金持ち→杖の値段が馬鹿高い……という図式がこの国では成り立っているために、買う余裕が無いのだ。
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メイレー 九尾の妖狐 ♀ 7歳
Lv10
[クラス] 隠伏者 (弱撤去!)
[クラススキル] 存在希薄 (弱撤去!)
[魔力] 7601/7602 (1000程上昇!)
[魔法] 無 火 水 氷 幻 結界 空間
無1 火1 水1 氷2 (全新規習得!)
[スキル]
薙刀術Lv2(new!) 投擲Lv2 潜伏Lv5 気配察知Lv4
[種族固有スキル]
空間操作Lv2(Lv1up!) 九ノ魂進Lv1
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俺と同じような濃い緑系の丈夫な長袖長ズボン。
それと五連土魔法で作った簡素な防具――急所を覆うのみで本当に最低限のものだが――をしている。
ちなみにちゃんとした防具は店に頼んだところ、材料が既に手元にあるとかで半月もあれば出来るらしい。頼んだのは五日前だし、そう遠くないうちに出来上がるだろう。
金を掛けた分なかなかの完成度の小薙刀を持ち、赤鋼と紫土石の合金の刃はそう簡単には壊れないだろう。
固有名は無く、そのまま“赤紫の小薙刀”と言ったところだ。
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テラス 混沌魔人 ♂ 6歳
Lv23(Lv1up!)
[クラス] 混じる者
[クラススキル] スキル合成
[魔力] 53488/53560(3000程up!)
[魔法] 全属性
火3 水3 風3 土3 無3 爆3 氷3 雷3 木3 回復3
毒3(1up!)
[スキル]
《武器》剣術Lv5・短剣術Lv3・刺突剣術Lv2・棍術Lv2・斧術Lv1・投擲Lv4・弓術Lv2・盾術Lv2・絃術Lv3・罠術Lv3
《体質》自然治癒Lv4・体術Lv3・収束Lv2(1up!)・気配察知Lv2・夜目Lv2(1up!)・威圧Lv5・潜伏Lv2・忍び足Lv2(1up!)・交渉Lv3・テイムLv1
[レアスキル]
崩潰Lv1
[ユニークスキル]
根源を喰らう者Lv2・叡智の選定者Lv1・超越する魂Lv1
[種族固有スキル]
適応Lv2・思考加速Lv3・並列思考Lv3
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防具はまだ出来上がって無く、濃い緑の長袖長ズボン。防具が出来上がるのはもう数日後だ。
武器は多少刃毀れがあるもののまだまだ実用範囲内の赤紫の剣。
ポーチの中身はいつもと同じだ。
………………
…………
……
俺達は今、森の中に入り手頃な敵を探していた。まだ日が昇ってあまり時間が経っていない上、本格的に冬に入ったために、その寒さから白い息が漏れる。刺すような寒さは運動能力を奪い、体を固まらせていく。
隙間を無くすように生い茂る草は、子供の俺たちの腰辺りまで伸びていて、歩くたびにがさがさと擦れるような音が響く。
ただでさえ薄い雲で覆われた空は光を遮っているというのに、それが8メートルほどの木々によってさらに太陽光は阻まれ、夜もかくやとばかりに暗い。さすがに松明などの光源は必要としない程度の光量こそあるが、もし草や木の陰からモンスターが飛び出したりしてしまえば、それに対する対応が出来そうにないほどの視界状態だった。
四人は、ゲンを先頭、ハイリを中央、メイレーを後方、少し離れたところに俺というように進んでいた。
今回、探索において俺はあまり手を出さないようにすることにしている。変に甘やかせば三人の成長を阻害しかねないからだ。
勿論、オークなど一部中級者向けの敵は、見つけ次第即時俺が殲滅するつもりだが。
役割は、索敵と攻撃役はメイレー、敵の注意を稼ぐ壁の役割をゲンがして、ハイリが補助をすることになっている。
三人はバックアタックを警戒して、ハイリの位置を中央に維持しつつ探索していた。
なお俺に関しては、ゲンとハイリはその存在を認識出来ていない。俺が全力で気配を消して動いているためだ。【気配察知】レベルの高いメイレーは俺のいる場所を把握できるが、できる限り俺の事は考えない様に言っておいた。まあ、あんまり出来そうにないなと思ったが。
ゲンは眉間に皺を寄せあからさまに緊張して進んでいて、ハイリは冷静な顔でありながら少しおどおどと眉を八の字に歪めながら歩いていた。
一見一番冷静に見えるメイレーも、薙刀を握る手が忙しなく動いていて、どことなく昂揚しているように感じた。
ゲンの額に汗が滴り、ハイリは覚えた呪文を無声で呟いて確認していたとき、ピクリ、とメイレーの耳が動いた。
メイレーは顔に喜色を浮かべる。まるで待ち望んでいたものが見つかったような表情に俺が一つ疑問を覚えたとき、魂力感知に一つの生命が引っかかった。
それは、虫や小動物の様な小さな魂ではなく、確固たる食物連鎖の上位生命として地面に立っていた。
だが逆に、俺の知っているモンスターの魂の中では最低限の輝き、密度、力強さであり、体を流れる生命力(気の源) は、今にも途切れそうなほど細々としている。オークなどと比べれば家庭の蛇口とプールの蛇口ほどの差があった。
「来た。五匹。ヒト型、小さい」
メイレーは言葉少なく捉えた特徴を述べる。その言葉に、ゲンとハイリはいよいよもって緊張を深くしていた。
俺は一度戦闘を経験した魂力の持ち主であることに安堵を覚えながら、解析を使う。
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ゴブリン ♂ 0歳
MLv1
[魔力] 3/3
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――ゴブリン。
どこにでも湧いて出て、どこでも増える、まるで黒い害虫を彷彿とさせるような嫌悪感を感じさせる代表的な魔物。その環境適応能力と繁殖能力は世界レベルで見ても群を抜いており、まさにトップクラスと言えるだろう。
前記のオークもその能力がとても高いが、それもゴブリンには一歩譲らざる負えない程だ。
容姿については醜悪の一言に尽きる。
今見えたゴブリンの姿は、黒く激しく汚れ迷彩柄にすら見える緑色の肌を露わにしていて、それだけでも嫌な臭いを感じそうだった。
唇を削ったのかと言いたくなるほど歯を剥き出しにし、その歯も黄色く染まっており、鼻は見当たらず二つの穴がポツンっと空いている。瞳は血走っているのに黄色がかっていて、視線は舐めるようにこちらを見ていた。
体は小さく一メートルにも届かない程で、風船のように膨れた硬そうにも見える腹を揺らしながら、がに股でこちらに歩んできた。布の腰巻も付けておらず、小汚いモノをふらふらさせながらこちらに向かってくる様子は例え女性でなくとも悲鳴を上げてしまいそうなほどだ。
地方によってゴブリンの容姿は大幅に違うらしいが、こいつはその中でも相当に気持ち悪いのではないかと勘ぐってしまう。
その姿を言うなれば、生理的嫌悪を催すモノを凝縮しました、というようなふざけた容姿だった。
だがゴブリンは気持ち悪い、いや、キモイだけで戦闘能力はそう高くない。武器を使うという知能も持っているが、精々硬い棒状のものを振り回す程度の事しか出来ず、剣を持ったとしても切るではなく叩くになるほどだ。
しかも出てきた五匹のゴブリン達が持っているのは、ただの硬い木の枝だった。万全の状態ならゲンですら軽く切り落とせるだろう。
そんな五匹達を見て――――メイレーが飛び出した。
「なッ! おい!!」
ゲンが飛び出したメイレーに叫び声を上げる。三人の打ち合わせでは確か、まずゲンが前に出て様子を見つつ、ハイリが下がって呪文を唱え、メイレーが隙を見て倒すというような手筈だったはずだ。
その話を故意に無視しているのか忘れてしまっているのか……肝心のメイレーは矢の様に急加速しつつ、両手で持った薙刀を腰で溜めていた。
そして、ゴブリンの二歩手前でダンっ! と音がなるほど踏み込み、先頭のゴブリンを荒ぶるような突きで穿った。
その突きは喉笛から延髄にまで一気に突き破り、先頭のゴブリンは悲鳴を上げる間もなく、おそらく何も分からぬままに死んだ。
「ギィギィィ!!!??」
傍らの一匹のゴブリンが驚愕と困惑の鳴き声を上げた。残った四匹が全員混乱に陥るかと思われたが、メイレーの小さな姿を見たからか根拠のない自信を発し、奴らは本能に身を任せ全員で跳びかかった。
薙刀はゴブリンを穿っていて封じられており、そこに四匹が跳びかかってきていて、これはやばいか? と心配をしたのだが……メイレーは一番最初に接近したゴブリンに薙刀を振るって死体を投げつけ時間を稼ぎ、ゴブリンよりも圧倒的に速く後ろに跳んだ。
死体を投げつけられたゴブリンを除き、三匹のゴブリンは突然標的が居なくなったことに対応できず、団子のようになってコケてしまう。メイレーがその隙を逃す筈もなく、強烈な踏み込みで進行方向を反転させ、慣性を凌駕せんとばかりに歯を食いしばって前進した。
そして重なる様に倒れているゴブリンの首を流れるように刎ね、反す刀でもう一匹の首も刎ねた。
何とか逃げようとし立ち上がった三匹目のゴブリンの足を薙刀で払い、もう一度こけさせた後、また首を掻き切った。
だが、まだ一匹残っていた。
そのゴブリンは、死体を投げつけられた一匹だった。仲間たちが無残に切り裂かれたのを見ながらも、その本能に身を任せて後ろから殴りつけようとしていたのだ。
メイレーが如何に速いと言えど、既に振り下ろされ始めている棒を避けるのは至難の技だ。
ゴブリンは弱いとはいえ魔物だ。その小さな体には見合わない、大の大人を越えるようなパワーを持っている。メイレーのレベルも相まって死ぬことは無いだろうが、後頭部に木を打ち付けられれば戦闘継続に致命的なダメージを受けるかもしれない。
その脅威がメイレーの頭に当たる瞬間――――メイレーは消えていた。
そして、フッと音もなくゴブリンの後ろにメイレーが出現し、ゴブリンのうなじを切り裂いた。
首の半ばまで斬り込んだ刃を抜き払った後、周囲に新たな脅威がいないかどうかを確認して……俺の方を見て、うずうずという言葉が出そうなほどの表情を見せた。
その表情からメイレーが何を求めているか分かり、俺は溜息を吐いて三人に近寄った。
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【根源を喰らう者】と魂片収集結晶の連結を確認、経験値は大幅に上昇します。
ゲーゲン=アングリフがLv7にアップしました!
Lv6にアップしました!
ハイリ=ガーが第一魂節(Lv5)を越えましたが、習得できるスキルがありません。
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四人全員が集まり、周囲の安全をもう一度確認したところで、俺はメイレーに言った。
「今回の評価だが…………0点。ハッキリ言って、まず評価をつけることから出来ない」
ガーン、という擬音が聞こえそうなほどに分かりやすくメイレーがショックを受けた顔をしている。
ゲンは何もやることが無かったためかぶすっとした表情をして不満げであり、ハイリは飄々としたような表情をしていたが、よく観察すればそこに安堵の色があった。
「確かに動き、スキル、索敵、どれもが高水準で、単独戦闘の評価としては手を叩いて褒めてもいいくらいの出来だった」
メイレーはその言葉を聞き、沈痛な面持ちから一気に引き上げられたかのように表情を明るくさせる。
「しかし、だ。事前に示し合せた動きを取らず、パーティーを無視した行動。複数人で戦闘するのに自分勝手な行動を取れば、全員の命が危うくなる。それに薙刀での実戦は初めてだというのに、敵の輪に突っ込んで危険な戦い方をしたこと。これらによって台無しだ。仕方のない状況ならいざ知らず、今回は敵を先に見つけていたから、いくらでもやりようはあったんだ。次回からは、ゲンとハイリがどう動くかも考え、連携して敵を殲滅すること。分かったか?」
「はい…………」
メイレーは耳をシュンっとさせ、尻尾も沈ませて落ち込んだ。今にも泣くんじゃないかと思うほどの表情をしていて、思わず手放しに慰めたくなるが、グッと堪える。
「実際、戦闘はかなり良かったんだ。課題であった【空間操作】もきちんと使えるようになって、その上あの動きだ。十分に満足できるものだったよ。だから、次はしっかりと周りを観て、動いてくれ」
「……はいっ」
メイレーは決意を新たにし、瞳に闘志を宿した。その闘志が空回りしなければいいんだが……。
俺は不安になりながら、森の奥へと進んでいった。




