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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第二章 忌まれる狐編
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第26話 防衛都市ズューデン

 




 ガタンガタンと、馬車の車輪が跳ねていく。

 天気は快晴、防衛都市ズューデンへの道中、辛うじて整備されている街道を進んでいる。

 その街道は、主に人や馬車の行き来で状態が保たれている程度で、凸凹が激しい。振動対策など碌にされてないこの馬車ではお尻が痛くなってしまうので、下に布を重ねることによって衝撃を若干和らげている。

 前世も現世も俺の体は乗り物酔いに強いようなので、吐くような心配はない。




 あともう少しで街につくのだが、魔法陣について簡単に考察する。

 魔法は、魔法陣によって発生する。

 厳密にいえば違うともいえるのだが、要するに魔法陣は魔法に不可欠という事だ。


 魔法陣は、地面空中の他に自分の体内にも発生させられるようだ。それから派生して、他人の体内に魔法陣を展開出来ないかと思ったのだがほぼ不可能だった。

 例えるなら、メートル単位の鉄塊をミリ単位の穴に流し込むような作業とでも言えばいいのだろうか。しかもその鉄塊を溶かしたりは出来ないという意味不明さ。

 要するに無理なのだ。


 ついでに言えば、地中や木なども難しい。段階的に難しさを表すと、


 他人の体内>>【不可能の壁】>>木の中>>>地中>>>>>>自分の体内>>>空中>地面


 というような感じになる。

 魔法を撃つとき、魔法陣は体を発射台としてイメージし自分を囲うように地面に展開するか、もしくは魔法陣自体を発射台としてイメージし撃つ方向に対し垂直に展開するのが基本だ。

 この時、魔法陣自体は動かすことは、集中力を必要とするが可能だ。


 この魔法陣を動かす原理を利用し、俺は身体強化魔法を体内に展開して体に固定している。

 空中や地面に展開しないのは、無詠唱である直接展開式魔法が見られるのを回避するためだ。

 隠してた方が何かと便利だからな。




 しばらくすると、大きな街が見えてきた。

 その街はまるで南側からの進行を防ぐかのように横に長く作られており、楕円形の街のようだ。

 北側から来ている俺の目を引き付けるのは、おそらく貴族の館と思われる大きな建物。

 高さ的には民家五階建てほどの大きさがあり、城にも見えるほどの大きさだ。


 そんな館を観つつ、街に入っていく。

 途中、三メートル程の防壁を通る際に、門番から荷物を見られ税金を取られたが、それだけだ。

 貴族、平民、奴隷の三種類の身分しかなく、貴族は家紋などの身分証明書のようなものを持っているが、平民は持っていない。

 奴隷は外れない首輪が身分証明であり、ようするに貴族と奴隷以外は平民と扱われるのだ。

 こんな子供が一人で町の外から来ることに関して多少訝しんだりはするが、事務仕事のようにこなしているため、まあどこかの商人の弟子なのだろうという扱いしか受けない。

 獣人かどうかの確認だけされて素通りだ。


 むしろ、確認をされるだけここの警備はしっかりしているか。

 ほとんどの街ではもっと怠慢が酷く、碌に確認をせずに税金を規定より多めにとってさっさと行け、という所ばかりだったからな。



 俺の指名手配は様々な街で少しは確認されたが、かなり緩い。

 文章で、小さな子供、男程度にしか知らされてなく、似顔絵もない為、まじめに探してるやつなんていないのだ。

 唯一、前髪の銀髪部分の特徴が知らされてたりしたので、そこは黒に染めている。染料は何度も染めないとすぐ落ちる粗悪品だが無いよりはマシだ。

 さらに、指名手配には俺と一緒に母さんの指名手配も乗っている。「親子連れで親は銀髪、子は前髪の一部が銀髪」という感じだ。今の俺には一つとして当てはまってない状況だな。





 馬車を置くための宿を探す。

 今日中に盗賊討伐の戦利品を売り捌き、最後にもう使わない馬を売るのだ。なんだかんだと半月以上世話になった相棒だから、性格のよさそうな人に売りたいところだ。


 適当な宿を探し、一旦馬車を置かせてもらう。当然金はとられるが、馬車を連れては動き辛いからな。

 売れるだろう戦利品たちを布袋にまとめて肩に担ぎ、持っていく。


 戦利品を売り捌くのは盗品も含まれているため、主に裏の業者となる。

 伝手……というより、買い取ってくれる業者を知っているだけだが、目的地へと向かう。

 まずはこの国にチェーン展開している飲み屋【バッカー】を探し、中に入る。

 木でできた落ち着いた雰囲気のカウンターで、何か食べ物を処理している渋いおっさんに近づき話しかける。



「どうしたんだい、ここは君のような子供が来るところではないよ?」


「火鳥、水鳥、金の声」


「…………どういう意味か分かって言っているのか?」


「ああ、取り次いでくれ」


「……それが仕事だからね。ついてきなさい」



 そういって男はカウンターから出て、奥の扉へと向かって行った。

 驚きつつもちゃんと対応する辺りはプロと言ったところか。警戒はしつつもそれについていく。

 今の合言葉は単純、火鳥水鳥は取り次ぐ相手を指し、金の声は物品の売却をさす。

 他にも様々な合言葉があるが、基本売却以外俺は使わない。


 奥の扉から外に出て行き、狭い路地裏を歩く。

 幅一メートル程度しかない道は日陰になっていて薄暗く、じめじめしている。

 何度か道を曲がったところで、男は止まった。


「ここから先はひとりで行きなさい」


 そういってカビが若干生えているほどの古い扉を指さした。

 扉を開け、中に入る。

 中は魔道具によってなかなか明るくされていて、いくつかの木箱が置いてあるだけだ。

 木箱以外は特に何もないシンプルな部屋で、中央にて木箱に座っている人がいた。

 お世辞にもキレイと言えないローブを羽織ったその人物はこちらを見て驚いた顔をする。



「こりゃぁ随分と小さなお客さんだ。迷子ってわけじゃぁないんだろ?」


「ああ、こいつらを全部買ってくれ」



 肩に担いでいる袋の中身をすべてだし、床に置く。

 金細工が施された壺、上質な布を使った服、生活に便利な魔道具など様々なものを数十点、その人物は鑑定していく。

 声からして男の様だ。



「ふむ、全部で金貨三枚でどうだい?」


「ふざけるな。そこの壺だけで金貨三枚分だ。金貨二十枚」


「おいおいさすがにソレは高過ぎってもんだろう。ふっかけたのは悪いと思うが精々金貨十枚だ」


「十枚じゃ安すぎる。その服に使われている材質はCランク級モンスターの素材だ。しかもそれを加工できるのは北東の細工師だけ。金貨五枚分の価値がある。金貨十八枚」


「確かにこの作りはお前の言った通りだろうが、こんなとこに売るってこたぁこれは盗品か何かだろう? こういう分かるやつにはわかるっつう一点もんは裏では捌きにくいんだよ。もうちょっと複数あるメジャーなやつなら売れるんだがな。金貨十三枚」


「この魔道具は保冷の魔道具だ。凍らせない程度の冷気を常時生み出す魔道具はこの国では作れない。つまりこれは貴重な輸入された魔道具だ。使い道も思いつきやすく人気もある。高く売れるだろう。金貨十六枚」


「しかしすこし古くないかぁ? 他の物も古めだろう。金貨十四枚」


「壊れてるわけでも酷い汚れがあるわけでもない。金貨十五枚半」


「……半っつうところがやらしいが、まあそれぐらいでいいだろう。商談成立だ。まったくカモかと思ったらとんだ食わせ者だぜ」



 苦い顔をする男から金をもらい、部屋を出る。まあ妥当な所で売れたからよしとする。

 こんな苦い顔をしていたが、相手側も十分利益出るのだろうな。


 飲み屋の男に案内してもらい大通りへと戻る。売って得た金を盗もうとする(やから)が居るかと警戒したが、杞憂だった。

 まあそういう方法を常用すれば信用問題になるからな。

 犯罪組織であろうと、それが商売である限り余程の事じゃなければしないだろう。この国に”裏の業者”っていう競争相手は腐るほどあるのだし、だれも保障してくれない闇取引だからこそ、信用が必要という事もあるのだ。

 今回売った品が精々一般人の数年分の稼ぎ程度しかないという理由もあるだろうが。



 その後、馬を健康的に保有していることが分かる人物へ馬車ごと売り払い、夕暮れとなった。


 今保有しているお金は前から持ってた分と今売った分を合わせて、帝国金貨42枚に同じく帝国の銀貨が67枚、銅貨が30枚ほどといった感じだ。

 なんとこの国、金銭では百進法を採用しており、銅貨百枚で銀貨一枚、金貨一枚で銀貨百枚の価値になっている。

 他国では使えないお金の為、ここで使い切ってしまうつもりだが、重い。

 一枚のサイズは日本の一円と同程度の小さなものなのだが、それでもこれだけあれば重くなるのは当然と言えるだろう。純金や純銀などではなく他の金属も混ぜてあるようだが、それでも十分に重い。


 なお、物価は大体、銅貨十枚で一日分の十分な食事ができ、金貨一枚あれば大体一年は生活できる程度だ。

 贅沢しなければだがな。



 さて、とりあえず今日は休憩だ。

 まだ夕方だが、旅の疲れを癒すために早めに休んだ方がいいだろう。

 宿は治安の良い少し高めのところにし、念には念を入れて窓と扉に物理警報トラップを張って寝ることにする。


 明日からは不帰の森への準備だ。

 考えられるものとしては、いい武器があったらそれを買って、動きやすい防具に新調し、長持ちする食料と調味料と念のための薬と……人手が欲しいな。


 不帰の森を通過するのには一体どれほどの時間がかかるか分からない。

 旅の一番の懸念になるはずの水が魔法によってどうにかなるとはいえ、モンスターの跋扈(ばっこ)する森を数十キロ単位の塩や食料を持って移動するなど自殺行為ではなかろうか。

 荷物を運ぶための馬車は木が鬱蒼と生い茂る森では邪魔になるだけだし、考えられる方法としては……やはり、だれかに運んでもらう方法か。


 そうなると、いったい誰に運んでもらうかだ。

 不帰の森は名前通り、誰も帰ってこれないほどの超危険地帯。自ら行こうなどと言う馬鹿はいるわけがない。

 余程切羽詰まったものか、自殺するつもりで行くものだけだ。

 そんな奴らは当てにならないし、そう簡単に見つかるモノではない。


 となると、奴隷か。



 獣人というだけで奴隷にされるこの国では、買える奴隷はそのまま獣人が一般的なものとなる。

 人間の奴隷もいるが、借金奴隷や犯罪奴隷と言ったところだ。当てにならない。

 それに比べて、獣人は身体能力の高い者が多く、荷物運びには打ってつけであろう。

 まさに適任と言えた。


 農業用などの奴隷は金貨一枚から、性奴隷は金貨五枚ぐらいから、戦闘奴隷も金貨五枚ぐらいからとなる。

 もちろん質でかなり値段が変わるが、買えないことは無いだろう。


 明日は装備、食料と薬、奴隷の三つを探すか。










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