第24話 高速戦闘
ここで、直接展開式における仕組みを一つ述べようと思う。
直接展開式の魔法を使うとき、まったく同じ魔力量でも威力を大きく変えることが出来る。
その仕組みは、以下のような力の割り振りによるものだ。
例えば、オーバーな量ではあるが魔力を100使うとして、それを火の玉を飛ばす魔法に使うと、
火球生成に60、
コントロールに10、
飛ばす力に30、
程度が一般的になる。
もちろん属性毎の特性や使用者の適性によって必要な魔力は変わってくるが、そこは割愛する。
ちなみに、このあたりの仕様変更は呪文詠唱式にも多少可能だが、直接展開式のように大幅変更はできない。
さて、他の例、身体強化魔法などの強化系魔法の割り振りを見てみよう。
魔力を100使うとすると……
強化5
コントロール10
自動魔法維持85
という内容だったりする。
つまり……とんでもなく自動魔法維持に魔力を取られているのだ。
これで持つ時間は約三分程度。
使用者の元を離れた魔法は、急速にその力を失ってしまう。
それを防ぐには、貴重な魔道具などを湯水のごとく使うか、魔法に使う魔力のほとんどを魔法の維持に使うかのどちらかしかないのだ。
しかし、そこは自由に弄れる直接展開式だと変わってくる。
テラスは、常に魔法を展開し、維持に並列思考の一つを割くことによって、このように変えることが出来た。
強化75、
コントロール20、
自動魔法維持5、
そう、常にその魔法に思考を割くことにより、自動魔法維持に対する魔力を大幅に減らしたのである。
それだけではなく、コントロールに対する魔力の割り振りを大きくしてさらに高速機動が可能になっている。コントロールに大きく魔力を割くと、局所への魔法の集中がすばやく可能になるのだ。
例えば素早く動きたいときは、足などを集中的に強化したり。
一か所に集められた力は爆発的な力を生み、普通ではあり得ないほどの強化を可能にしていた。
ちなみに、そのコントロールへの指示を戦闘中に可能にしているのは司令塔の役割だったりしている。
これこそが、テラスが初級魔法程度で大幅強化されていた秘密であった。
そしてあれから、テラスは中級魔法を手に入れている。
初級魔法の出力と中級魔法の出力の差は圧倒的であり、月とスッポン……諺ではなく身近なもので例えるなら、ママチャリと本場のレーシングカー、シャベルとショベルカー、赤子と大人、……つまり、比べるのも烏滸がましいほどの差。
そんな格段に上がった身体強化魔法に、大きくレベルが上がって基礎ステータスも上がったテラスの動きは……、一般人には残像しか見えない程の超高速と化していた。
◇ ◇ ◇
盗賊達が正面から跳びかかってくる。
まず初めに攻撃を仕掛けてきたのは、前にいた四人。盗賊達はまるで壁のように連なり、剣を上段に構え振り下ろそうとしている。
俺がもしただの子供であったなら、この気迫に飲まれ動けなくなり無残に切り刻まれていただろう。
ただの子供なら、だがな。
「くらえええええええ!!!!!」
窮地に立たされているからか、本当に気合いだけは十分である。
しかし鈍い。一切身体強化等をしていない平均7レベルの四人の動きは鈍すぎる。
その遅さを利用し、四人が剣を下ろすまでの間に、四人全員の心臓を左から順に突き刺した。まるでレイピアの刺殺のような動きで瞬時に急所を貫かれた四人は、それに気づく事もなく振り下ろそうとしている。
あまりにも速過ぎて、既に死亡が確定していることに気づいていないのだ。
瞬時に次の行動に移り、奥へと踏み出す。
そして、真ん中の二人の間を抜ける際、剣を持っていない左手で剣を奪い、それを奥の弓を構えた男の首に投げ刺す。
これで五人。
目の前にいる剣と盾を構えた男を確認し、その顔面に跳び上がり、限界まで強化された足で頭を蹴る。
ベキッという音と共に男の首は折れ、確実な死を確認した俺はそいつの盾をまた左手で奪う。
前方から飛来するナイフ。
盾で、奥にいた18レベルと高レベルな男からの投げナイフを逸らす。
シュインッという音を鳴らして狙いを外されたナイフは、後方で攻撃しようと構え始めた人の目に刺さった。
脳まで届いたのか、叫ぶ暇もなく硬直した後方の盗賊を尻目に、ついでとばかりに右手側にいる盗賊の首を自前の剣で刈る。
再度ナイフを投げようとした男には、左手の盾を回転させながら投げつけ、攻撃。
投げた盾は鉄製で重く、そもそも投げることを前提に作られていない物を投擲されたことに驚き、ナイフの男は対応が遅れてしまう。
何とかナイフでそれを逸らしたようだが、もう遅い。
隙だらけの懐に俊足で入り、首を刈った。
これで9人。
倒した男の手にあるナイフを奪い、初級魔法を詠唱中の男に投擲。見事狙い通りに首に刺さり、詠唱と息の根が止まった。
これで10人。
周囲にいる残りに注意を向けつつ一呼吸すると、やっと最初に殺した四人が倒れる音がした。ほぼ同タイミングで他の六人も崩れ落ちていく。
まさに一瞬。彼らからしたら気が付いたら仲間の半分が倒されているという悪夢のような事態だった。
俺にとっては、自分の速度に対応しナイフを投げつけてきた男の技量と目がかなりの驚きだった。
スキル【投擲Lv4】を持っていたから警戒はしていたので問題なく対処できたが、少し気を引き締めよう。
残りは、この中で19レベルと一番レベルの高い親分と、騎士らしい男、あとは手下っぽい短剣持ちと長剣持ちと棍棒持ちと震えて動けないナイフ持ち。
驚愕故か、男騎士は石のように固まっている。男騎士はレベルは12と、まあごく普通ではあるが……、なんというか、戦いに身を置く者の気配が全然感じられない。
卑怯卑劣何でもありの盗賊達にすら感じられるモノを持たない騎士、おそらくこの中で一二を争う役に立たなさだろう。
事実、やっと現状を認識した男は、ヒステリックに叫ぶだけだった。
「お、おまえ! なんなんだよおまえ! おい!」
要領を得ない怒鳴り声。
洞窟の中の為音が反響し、俺の鼓膜を盛大に揺らしてくる。これは一種の精神攻撃だろうか、不快だし、うるさい。
さっさと殺してしまうか。
「ま、待ってくれ!! そこの男は殺しちゃだめだ!!」
その時、今まで同じように驚愕で固まっていた女騎士が声を上げた。
しかし、殺さないでくれ、か。
「なぜ?」
「っ、こいつはこれでも私の親戚の三男坊で、末端とはいえ貴族だ。殺すのはまずい」
なるほど、あまり強くもないくせに兵士の上位互換でもある騎士の鎧をつけていたのは、貴族出身だからということらしい。
まあしかし、返答は決まっている。
「知らん」
「知らんって、貴族だぞ!? どんな理由であれ、貴族を傷つければ犯罪になるんだぞ!?」
「そ、そうだ!!! 俺を傷つければ、今にも大勢の軍隊がやってきて、お前なんか切り殺すぞ!!!」
ここぞとばかりに追従する男騎士に呆れながら、似たような言葉を言ってくる相手に対していつも返している言葉を返す。
「だから?」
「「え……」」
「知ったことじゃない。敵なら殺すだけだ」
「なっ――!」
戦慄に震える二人に、どんどん呆れる。
真の意味を伝える気などないが、ここで殺さないなんて選択肢を取るはずがないだろう。もしここで見逃せば、こいつは絶対俺を犯罪者に仕立て上げ命を狙ってくる。
たとえ、こいつが俺を忘れると約束しようと、こういう目をしたやつは、十中八九裏切る。
そんな分かり切った賭けをするぐらいなら、殺して証拠隠滅した方が十全だ。
さらに個人的に嫌いな盗賊の加担をしているのも見逃したくないという理由もあるから、まあもうこいつの処遇は決定している。
何かを考え込む女騎士と、恐怖からかカタカタ震える男騎士を無視して……後ろから切りかかってきた長剣使いに対処する。
上段から振り下ろされる剣に自分の剣を添えて流し、左に逸らされ前のめりになったそいつの首にそのまま突き刺す。
右手で刺しつつ、左手でそいつの手を捻って長剣を奪い即興二刀流。
右手の剣を死体が刺さったまま振り、追撃を加えようとしてきた短剣使いと棍棒使いに、長剣使いの死体を投げ飛ばす。
小さな自分よりもかなり巨体である長剣使いを飛ばしたことにより不意を突けたようで、二人はそのままぶっ倒れた。
仲良くぶっ倒れた二人の頭上に飛ぶ様に移動し、二本の剣で二人の首を刈る。
あと三人。
「う、うわあああああああ!!!!!」
なす術も無くやられた仲間に恐怖したのか、弱い方のナイフ使いが入口へと逃げていく。
壁際近くに居たから確かにそのコースは空いているが、甘い。
腰にあるナイフを抜き、投擲。ナイフは見事頸動脈を裂き、ナイフ使いは絶命した。
「ひっひぃぃぃぃぃぃぃ!!!!」
今の攻防で完全に心を折られたらしく、男騎士は腰を抜かし剣を手放してへたり込む。
これも一旦無視でいい。
それより、――――ふん!!!
ガッキィィィィィン!!!
死角から切り付けてきたこの盗賊団の親分の剣を跳ね除ける。
苦い顔をしながらバックステップで離れる盗賊を視つつ、両手の剣を構える。――たしかこいつは、珍しいスキルを持ってたはずだ。
「……なぁ、おめぇ、なんで俺らを襲ったんだ?」
「……少年に頼まれてな。仕方なくそこの女騎士を助けようとしただけだ」
「な!? ……そうか、あの少年は生きていたのか……」
女騎士よ、感慨深げに言うのはいいが、ほとんど嘘である。
助けるためじゃなくお金が欲しかったのである。
後がめんどくさいから言わないが。
「……なら、そこの女騎士連れて行っていいから、見逃したりしてくれねぇかな?」
「ほう……」
「な!? 話が違うぞ!!」
喚く男騎士を無視し、続きを聞く。
こちらに対して敵意なく【交渉】を持ち掛けてくる親分を見ていると、なんだか聞いてもいいような気がするのだ。
「もちろんタダってわけじゃねぇよ? こっちから攻撃仕掛けたからな。謝礼として俺の宝を渡すよ」
まいったまいったと言わんばかりの顔、ならいいかと思わせる雰囲気、俺が欲しいものも手に入るらしい。
「どうだ? 宝の中にはそこの貴族の坊ちゃんから貰った前払いがたんまりだ。それぜーんぶやるよ」
貴族からの報酬、前払いな上ポケットマネーだろうから少なめだとしても、庶民からしたらいったい何か月生きられるモノだろうか。
そんなこちらの欲をくすぐるような親分に対し、俺は…………。
「――そもそもそれは盗賊を討伐した俺のものだろ」
――――拒否を示した。
返答をした瞬間、身体強化のギアをさらに一段階上げ疾風と化す。
一瞬で親分の懐に潜り込んだことによって、相手の視界からは消えたように映る動き。俺が得意としている動きで、相手の間合いまで入り、足と手の腱を一気に切る。
崩れ落ちる盗賊を踏みつけ、マウントをとる。
狙い通り腱までしっかり切られた手足を親分は見て、悲痛な顔で絶叫を上げようとした。それを許さず、親分の首を絞めて、耳元で一言告げる。
「財宝はどこだ? もし教えてくれないなら……この剣を心臓にズブッと刺してしまうかも知れない……」
楽しげに、脅迫した。
こいつの持っている(盗賊にしては)珍しいスキル。
それは、【交渉Lv3】。
能力はそのまま、交渉に関する補正が入るみたいだ。
口がうまくなるとかではなく、相手に聞いてもらえやすくなったり納得されやすくなったりと、何となく催眠に近くないか? という感想を持ちたくなるスキルだ。
まあしかし、意識していれば効かないし、強い強制力があるわけじゃないから、特に恐れることはない。
その後は剣でチクチクしたりしながら顔面蒼白の親分に、財宝の場所を聞き出し、用が無くなった親分をサクッと殺した。
「や、約束が違う!」などと叫んでいたが、約束などしてないし、盗賊で敵な者に慈悲など無い。
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スキル、剣術Lv1、1、2、1、3
投擲Lv4
交渉Lv3
を取得しました!
なお、既に持っているスキルは統合されます。
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脳内にスキル更新の情報が流れてくる。
この情報の送られ方は、旅の途中で何のスキルを取得したか知らせるように調整したものだ。
【叡智の選定者】は未だうまく扱えていないが、情報が送られてくるタイミングでこういう風にしろとスキルに強く要求したところ、なんとか変えることが出来た。
なんでも出来そうなスペックを持っているくせに扱いにくいスキルである。おそらく、まだ俺自身の力が足りてないのだろう。
さて、最後は俺が親分を殺したことによって漏らした男騎士だ。腰が抜けたことによって逃げることも出来なかったようだな。
始末しようと俺が男騎士に近づいていくと、女騎士が顔を上げ、声を発した。
「待ってくれ! ……せめて、私が切る」
女騎士は、決意した様子で言ってきた。
……ふむ、予想通りなら、話を聞く価値はありそうだな。
「ここで君が彼を殺せば、それは貴族への反逆罪になってしまう……。だから、私がこいつを処刑する。盗賊に加担した者として」
女騎士がまっすぐにこちらを見据えてくる。
脅迫現場をじっくりと見せてしまったはずだが、“正義”が好きそうな彼女がこちらを気遣うような発言をするとは……、思っているより理性的なのであろうか。
いくつか予想は立てられるが、どうであろうとあちらがやってくれるなら俺的にも構わない。
男騎士は良いスキルも持っていないしな。
「わかった、それでかまわない」
「協力、感謝する」
俺は女騎士の縄の拘束を剣で切り裂き、一旦その場から離れる。
女騎士は軽く運動をして体の調子を確かめ、壁際にあった自分の剣を手に取り、一つ息を吐いて……男騎士へと向かい合った。
「……大人しく罪を償う気はあるか?」
「う、うるさい!!! なんで! ちくしょう!! おれは貴族だぞ!」
「…………エリプセ領帝国騎士オネスト・フーリッシュよ、貴殿を賊への加担及びエリプセ領領主の一人娘への暴行の謀略、並びに、罪を認めず反抗の意志を示したことにより、規則に則り、反逆者として即刻処刑とする」
「そ、そんな!! ふざけるな!! おれは! 貴族で……」
見苦しく唾を飛ばし、腰が抜けたまま後ずさる男騎士に対し女騎士は侮蔑の視線を向ける。哀れな男の最後に、女騎士は色々と考えさせられているらしいが……。
複雑な感情を、表情から無くしていき、最後は規律を守る騎士として……男騎士へと剣を振り下ろした。




