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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第二章 忌まれる狐編
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第23話 典型的女騎士

 






「ひっひっひ! 上玉だぜ!!」


「やったな親分!! 今日は宴だぁああああ!!!!」


「「「「「うぉおおおおおおおお!!!!!」」」」」



 人の訪れない林の、暗い暗い洞窟の奥。

 鼻の曲がりそうな悪臭のするその場所に、醜悪な顔で笑う男たちがいる。何日も洗ってなさそうな薄汚れた服を身に纏い、籠った熱気がさらに不快感を及ぼす。

 すぐにでも離れたくなる場所でも、男たちはお構いなく笑っていて……――いや、ここが彼らの住処なのだろう。



「くそ! 放せ!!」



 その中に一人、まだ二十歳にも満たないであろう少女が横たわっていた。金髪とブラウンの瞳を持ったその美しい少女は、地面に這いつくばった状態で後ろ手に縛られている。

 騒いでる男たちに捕まっているのか、解放を要望した少女は鋭い目で男たちを見ていた。



「放すわけねぇだろ!!」


「まったくお前もバカだよなぁ! あんなガキ放っておけばいいのによ!!」


「っく! 放っておけるわけあるか!! 民を守るのが誇り高き騎士の役目だ!!!」



 自らを騎士と言った彼女は、確かに立派な西洋風の鎧をつけていた。武器は取り上げられているのだろうが、その男勝りな雰囲気はとても勇ましい。

 そんな彼女の言葉に男たちは顔を見合わせて…………大声で笑いだした。



「「「「「ギャハハハハハハハハハ!!!!!」」」」」


「何がおかしい!!」


「気づいてないのか? 人質(ガキ)を捕まえたのは俺らだが……お前をあそこに(おび)き出したのは、お前の同僚だよ」


「っな!? つ、つまり……」


「そう、つまりお前を嵌めたのは……お前の言う誇り高き騎士様ってわけさ!!!」


「「「ギャハハハハハハハハハ!!!!!」」」


「そ、そんな……どうして……」



「――理由は簡単だよ」



 そこに、もう一人、洞窟の入り口から鎧姿の男が声を上げながら入ってくる。一見優しげにも見える彼の顔、しかし彼の眼は欲望に濡れていた。



「前から鬱陶しいって思ってたんだよね。領主の娘だからって調子に乗ってさぁ……」


「わ、私はただ、誇り高き騎士としてっ」


「それだよ!!」



 優しげに見える笑みを浮かべていた鎧姿の男は豹変し、少女の髪を掴み口汚く罵る。先ほどの取り繕った笑みは完全に消え去り、そこには穢れた欲望だけが残っていた。

 対して少女の声は、既に涙に濡れてしまっていた。



「その“誇り高き騎士”っていうのが鬱陶しいって言ってるんだよ!!! いつもいつもいつも理想ばっかり掲げやがって……俺がどれだけ我慢していたと……」


「そ、そんな! 君は民を幸せにしたいって、あの時言ってくれたじゃないか!?」



 少女は悲痛な叫びを上げ、懇願するかのように男に問う。

 だが、鎧の男は何でもない様にニッコリ笑って、言った。



「そんなのウソに決まってんだろ!!! アハハハハ!!!!」


「「「「「ギャハハハハハ!!!!」」」」」



 全てが、嘘。信じていたものが紛い物だと知った少女は、深く傷つく。

 その笑い声に少女は俯き、ひとつ涙をこぼして……そして、キッっと男たちを睨んだ。

 その目を男たちは面白そうにニヤニヤして……少女の方に近づいてゆく。



「わ、私は、誇り高き騎士で、あり続けてやる!」


「へへっ、その意地がいつまで持つか楽しみだぜ」


「私をどうするつもりだ!!」


「わかってんだろ? てめぇをグチャグチャに犯すんだよ」


「――っ!!」



 予想していた事ではあったのだろう。

 この男たち……盗賊に捕えられた女の末路は悲惨なものだと、子供ですら知っている事実なのだから。

 しかしその直接的な言葉は、まだ成熟していない少女にとっては辛い現実だった。



「私は屈しない!」


「みんな最初はそういうんだよ……だが、終わったころには、なぁ? ギャハハハハハ!!」


「いいからさっさと始めようぜ。俺はもう我慢できねぇんだ!」



 そういって、男たちはズボンに手をかけ始めた。

 その中に鎧姿の男、彼女の同僚の騎士も含まれていて……彼女はこれから起こることに震えながら、それでも自分の信じる者を貫くため、心を強く持とうとした。



「わ、わたしは……屈しない、負けない。わたしは、……なんかに、負けたりしない……」


「あぁん? 何言ってるか聞こえねぇよ。ハッキリ言え」



 震えて怯えて、それでも芯を持とうとする者の最後の宣言。

 誇り高き少女は再度、キッと睨みつけ、決意と共に言い放つ。



「わたしは絶対、ちん「はいストーップ!」 っな!」


「誰だ!?」



 突然の闖入者に、その場にいる全員が虚を突かれ慌ててしまう。

 静止の声を掛けたのは、その場にいる少女よりもさらに小柄で尚且つ声も高くソプラノボイスであり、こんな窮地に訪れる者の特徴でないのは明らかだった。

 黒いローブを着てフードをかぶっているが故に顔は分からないが、声と大きさからして少女……いや、まだ幼女といったところだろう。

 そう当たりをつけた鎧姿の男は、罵声を放つ。



「おい! ガキがこんなところに何の用だ!」



 その言葉に盗賊の男たちも乗り、罵声を放つ。

 捕えられた少女も、こんな危ない場所に来た子供に注意の叫びを上げた。



「なんだぁ? お前も混ざりたいのかぁ? ギャハハハハハ!!!」


「あなたなんでこんなところに来てるの!! 早く逃げなさい!!」



 下品な声を上げた男はその子供に近づいていく。

 しかし、それを奥にいた違う男が慌てて呼び止めた。

 そう……近づこうとした者と鎧姿の男は、浮足立って気づいてなかったのだ……数人の男たちが、血の気の引いた顔で震えていたことに。



「おいよせ!! 近づくな!」


「なんだぁ? 別に本気でこいつを犯そうってわけじゃねぇよ。こんなちみっこいのにはさすがに立たねぇよ」


「そうじゃねぇ! 気づかねぇのか!!!」


「だから、なんだってんだよ」


「そいつの特徴をよく考えろ!!! こんな場所に来るのが普通の幼女なわけねぇだろうが! そいつは、あの噂の……」



 何かに思い当たったのか、近づいていった男は顔面を蒼白にし、震えながら停止した。

 嗜虐的な顔が一気に蒼白になる光景は、異常を知らせる序章だった。



「ま、ま、ま、まさか…………きょ、【極刑幼女】か!?」


「そ、そんな……うそだ……」


「いやだぁ……! おれはまだ、死にたくないぃ……」


「嘘だろ……なんで俺たちのところに……くそ……あぁ……」



 さっきまでの宴のムードが嘘に見えるほどの、まるで自分の葬式が行われるのを見ているかのような盗賊たちに、鎧姿の男と騎士の少女は困惑する。

 怖いものは何もないとばかりに騒いでいた彼らをここまで怯えさせる存在が、あのちいさな子供とは思えないのだ。

 鎧姿の男が叫ぶ。



「お前は何者だ!! それにお前達! なぜあんな子供に怯える!」


「おまえ、知らないのか…………そうか、騎士の奴らは知らないんだな……裏の者と、盗賊達にしか伝わってない噂があるんだ」


「い、いったいなんだ」



 突然語り始めた盗賊の一人の雰囲気に、鎧姿の男はどこか気圧され、言葉を詰まらせてしまう。

 そんな彼を見据えて、その盗賊は言った。



「――最近になって急激に目撃例が増えた噂だ。“小さき黒を纏った幼女。それに視認されしはぐれ者、極刑に遭う”っていう、噂だ。俺らを怯えさせるためのただの噂なら問題ねぇ……だが、実例があり過ぎるんだ……」


「じ、実例……?」


「俺が聞いたのだけでも十二件……そのいずれも、生存者がいないって言われてる。中には周辺の盗賊をまとめる頭領だっていたって話なのに、だ。俺らと関わりのある奴だって……。曰く、絶望。曰く、断罪。曰く、死神。曰く、幼女。ソレが来たアトは、何も残らねぇって……」


「う、うそだ……こんな小さい幼女に、そんな力があるわけが……」


「くそ!! そうだ、噂が嘘と信じるしかねぇ!! 野郎ども! やっちまうぞ!!」


「「「「「う、うおおおおおおおおお!!!!」」」」」



 そして、幼女と盗賊団との戦いの火蓋が切って落とされた…………。



 ………………

 …………

 ……





 一つ、叫びたい。



 な ん だ こ の 茶 番 は。



 旅を続けて二週間と少し。

 あと一つほど町を経過すれば、目的地直前の街“防衛都市ズューデン”に着くところだった。

 しかし、その途中に男二人が嫌がる小さな子供をいたぶっていた所を見つけ、もしかしたら金になるかもしれないと仕方なく助けてみた。

 すると、少年は、自分のせいで騎士様が盗賊達に攫われてしまったと言ったのだ。


 攫われた、という事は、アジトがあるという事。

 盗賊のアジト、お宝満載。


 俺は快く助けることを承諾した。



 実は旅の途中、俺は様々な盗賊団を潰して回っていた。理由は単純に実入りがいいからだ。


 この国で“武力”は、基本的に金を稼ぐのが難しい。

 いや、実際は簡単なんだ。貴族などに雇われて、兵士や護衛となればいいのだから。

 そうなれば、いくつかの特権とともに安定した収入が得られるだろう。

 だが、そんな拘束されるような職業、旅をしている俺に就ける筈がない。


 この国はやたらと武力を確保したがる習慣があり、野放しの武力を大げさに怖がるのだ。だから、国や貴族に雇われる兵士は高給だし、身分もそこそこ保証される。

 だが、逆に身分に縛られないものへの対応は厳しくめんどくさい。


 例えば、路銀を稼ぐ方法にモンスターを倒しその素材を売るという方法がある。

 これはそこそこ稼げるのだが……一定の強さのモンスターの素材を売れば、市場を監視している貴族に見つかりすぐに呼び出される。

 しかも、応じなければ反逆罪で捕えられてしまう。つまりその時点で、兵士か奴隷か二択になってまうのだ。


 その一定の強さのモンスターの素材を売らなければ少額しか手に入らず、まともに旅など出来るわけがないし……かといって、雇われ護衛や仮契約兵士など、こんな容姿では不可能に近い。

 時間をかけて信頼を築けば可能かもしれないが、そんなダラダラしてる暇はない。


 盗みも考えたが、一人でするには様々な分野でリスクとリターンの割合が厳しい。

 兵士も巡回していないような貧乏な家庭からさらに盗むような外道にはなりたくないし、そもそもそれではお金が少なかったり。

 貴族から盗むにしても、俺は追われてる可能性を考えて町にいるのは最低限の時間にしているのだから、長い調査がリスクを減らす盗賊など(はな)から向いてないのだ。


 そんな俺が思いついたのは盗賊団からの搾取。

 国に依頼されたわけでも、達成したからと言ってどこかから報酬を出されるわけでもないから賞金稼ぎではないのだが、それでもリターンが大きな仕事だ。


 財宝の量は運次第だが、この治安最悪の国では盗賊の数は冗談のように多く、数打ちゃ当たる作戦で十分稼げる。具体的に言うと人が生きれる場所にはほぼ盗賊が居て、護衛を付けずに歩けばまず間違いなく遭遇するぐらいだ。


 そしてモンスターより人の方がスキルを持っている可能性が高く、そのため【根源を喰らう者】のスキル吸収によって、盗賊達からかなりの能力を奪う事が出来た。


 まさに一石二鳥。


 リスクとしてはたまにかなり強いものが混じってたり、不意打ちを気にしたりしなきゃいけないことだが、それは新たに習得した索敵能力と【叡智の選定者】の鑑定能力により、ほぼ打ち消すことが出来る。

 たまにいい武器も手に入ったり、まさにウハウハと言ったところだ。


 ……不本意な通り名が噂になったのは自重してほしいところだが。


 少し危ないのは一回だけあったが、それも不意打ちの連発で倒せたしな。





 それで冒頭からの茶番に戻るんだが……なんだろう、このテンプレ感。

 何か危ないことを口走りそうな女騎士を遮って登場したのだが、敵が前にいるのに呑気に語ったりって馬鹿じゃないだろうか。思わずのせられて待ってしまったじゃないか。

 一応既に全員鑑定は済ませているし、罠も張り終えた。

 以前より進化した【過度身体強化(オーバーレイズ)】も準備できてるし、万全体勢だが、脱力感が凄まじい。



 はぁ……さっさと終わらせるか。












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