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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第一章 悔恨の幼児編
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第19話 獣人の家族

 






 馬車から這い出てきた獣人の父親は、手足を後ろで縛られているために若干えびぞり気味になりながらも、まっすぐにこちらを見据えてきた。

 その無防備な様子から危険が無いことは分かったが、気を許したわけではない。次の言葉を聞くまで彼に対して向けた剣は下げないことにして、無言のまま視線で続きを促す。



「頼みがあるんだ。礼なら俺の叶えられる範囲でなんだってする。だから、縄を解いてもらえないだろうか……? もちろん、解いた瞬間に攻撃なんて絶対にしない。茶猫人の誇りにかけて、約束は絶対に守る。だから、頼む!!」



 縄を解いてくれと切願するその顔には、家族を守る決意を胸に抱いた”父親”の姿があった。

 茶猫人の誇りが如何ほどのものかなんて俺は知らない。だが、その姿が……少し眩しく思えてしまい、何とも言えない表情になってしまう。


 前世の幼いころは、こういう父親を持つ家族を羨ましく、妬ましく思うこともあった。

 いくつもの年を重ねた今はそんな感情は無いと思っていたのだが……、実際に目の前にすると少し羨ましいと思ってしまうものがある。

 まあ、さすがに嫉妬するまで深く想う事はなく、複雑な感情を押し込めて出来るだけ機械的に対応する。



「叶えられる範囲と言ったが、具体的には何をするつもりだ? 残念だが、俺はすぐにここを去るつもりだぞ?」


「それは…………」



 今世は、利用されないように生きるために、俺は常に対価、リターンを望んで生きることにした。

 縄を解く程度ならばすぐに叶えても何の問題もないが、ずるずると助けていく気はないという意思表示と、誠意を確かめる意味合いで答える。


 だが、明確な対価を求められた相手は、どうやら渡せるものが何もないと考え到ったようで青い顔して必死に考えているようだった。俺としても別に追い詰めるつもりは無かったため、助け船を出す。



「そうだな……、御者の仕方は分かるか?」


「あ、ああ。もちろんわかる。あまり使うことはないが、必要になるときもあるからな。その、つまり……」


「そうだ、御者の仕方を教えてくれ」


「わ、わかった」



 別に今適当に考えた訳ではない。

 剣を二つ背負った時さすがに重いと感じたので、荷物を運べて疲労しない移動手段を欲したのだ。この国の主要な移動手段は馬車だから、必然的にそれになるだろう。

 しかし、馬の世話や御者の仕方などは母や本から学んでいないため、どうすればいいかと迷っていたところだったのだ。


 当の父親の方は、どんな対価を求められるかと戦々恐々としていたようだ。今は大きなリスクの無い対価に戸惑いながらも、落ち着いてきている。


 まあ相手側から考えれば、瞬く間に盗賊一味を皆殺しにした子供に対して交渉をしなければならなかったのだから、非常に恐ろしいものがあったのだろう。

 そのような事ができる子供は十中八九狂っているのが当たり前であり、そんな相手に真正面から交渉を持ちかけてきたこの父親は相当な胆力があると言える。


 しかし、この状況で放っておかれでもすれば、いずれこの周辺を徘徊するモンスターにムシャムシャされて家族もろとも死んでしまっていただろう。父親の獣人にとってこの交渉は、考えた末の苦肉の策なのかもしれないな。



 縄を解くために獣人たちに近づく。

 父親の獣人は僅かな不安と安堵を、母親の獣人は今の流れに戸惑いを、若い青年獣人は不安と恐怖と若干の憎しみを、小さな獣人は……何故か羨望の眼差しを。

 それぞれが抱いている感情の分かる表情をしている。それを観察しつつ、まず父親の縄をナイフで切る。

 簡単には切れなかったが、ギリギリと力を加え無事に切り終えて、次の母親、青年、子供の順番に切っていく。


 万が一を考え、獣人達にナイフは渡さず常に警戒しながら切ったが、特に奇襲されることはなく杞憂に終わった。



「それで、だな。提案があるんだが……」



 今にも無茶な提案をしてくるんじゃないかと言うほど自信の無い顔をした父親の話に耳を傾け、視線を送ることで続きを促す。



「御者の仕方を教えると言っても、一瞬で教えられるわけじゃない。要点だけ教えても、どうしても時間がかかる。だから、御者を教えるついでに……俺たち家族を里の近くまで連れて行ってくれないだろうか……?」



 ふむ、この状況下で家族たちの体調を把握し、次の一手を考え着くこの父親はなかなかのやり手と言えるのではないだろうか? こちらを憎々しげに睨む若い獣人は大丈夫かもしれないが、母も子供も、精神的にも肉体的にも疲労の色が濃い。馬車で移動できるならそれに越したことは無いだろう。



「里、と言うが、どれぐらいの距離になるんだ?」


「大体、里の近くの森まででいいから……ここから馬車で半日弱ぐらいになる」


「なら、問題ない。そうしてくれ」



 変に急いでも仕方ない。

 急いては事を仕損じるということわざもあるように、焦り過ぎればどこかで躓いてしまう可能性もある。急いだところで復讐まではかなり遠いのだ。一日二日無駄に急いで、のちにそれ以上の遅延が起きるのは悪手だ。


 ここから目的地である不帰(かえらず)の森まで約五百キロメートル程あるらしい。

 たとえ馬車が速く移動が楽になるとしても、休憩や物資の補給、途中の森などの障害を考えて一か月近くの余裕は見るべきだ。

 相手に不満を持たれおざなりに教えられて一日早めるより、しっかりと教えてもらって一日伸ばす方が得策と言える。


 俺達は交渉をそこそこに終え、今日は一旦休むことにした。


 夜の見張りは父親獣人と青年獣人が行うらしいので、俺は休ませてもらうことにする。完全に寝るわけではないが、初の対人戦で少し疲れているので休養を取ることにしたのだ。



 休憩しながらも剣とスキルとレベルを鑑定。


 レベルは1上がり9になり、スキルは潜伏Lv2を手に入れていた。

 しかし、剣術のレベルには変化がない。重ね掛けはダメなのかそれとも得られた量が足りないのか……、今後も検証が必要である。


 次に剣。赤色の剣の性能はそこそこのものだった。


 ===========================

 赤鋼の剣

 鉄よりも魔力や気を通しやすく壊れにくい赤鋼で出来た剣

 ===========================


 相変わらず簡素な説明が頭に浮かび、どうにかならないものかと考える。

 そもそも、世界的にモンスターや武具にはランク分けが成されているのだ。人間が目安として付けたものだから駄目なのであろうか。

 しかし、そうなると【叡智の選定者】の魔力の基準が、人間の魔力目安の基準と同一なのがどうしてか分からない……。


 スキルレベルが上がることで項目が解放されるのか、はたまた別の理由か……。まあ、今は考えても仕方がない。

 とりあえずは休もう。



 俺は、完全には寝ないようにしつつ、獣人達を少し警戒しながらゆっくりと休息をとった。



 ………………

 …………

 ……



 そして、朝。



 獣人の母親と子も起き出し、体を解したりしている。

 俺は少しの間行動を共にすることになった獣人達のことを考え、水と朝食を用意することにした。


 しかし、別に獣人達を保護している訳ではないのだから、その作業を一人でやることでは無いと考えて、獣人達にもそのことを話す。

 すると、父親獣人が近くにある森に狩りに行ってくれるとの話になった。


 一応手元にはいくつか干し肉もあるのだが、たどり着く予定だった町に入れなくなったことを考えて大事にとっておこうという話を、父親獣人から持ち掛けてくれたのだ。

 なぜ入れないかと言うと、それは亜人狩りの盗賊たちのバックについていた人間が、その町にいる可能性が高いからだ。

 おそらくあいつらが使い捨ての手駒であろうことを考慮しても、奪った馬車で堂々と街に入るのはさすがに愚行だ。



 朝の準備のため、俺は水を魔法で作り出す。


 意識を集中し、干渉型の魔法で周囲の水分をかき集め圧縮させる。

 度重なる魔法の練習、レベルアップによるあらゆる面での成長、死が付き纏う戦闘の経験により熟練にまで練り上げられた魔法は、瞬時にバスケットボール大の水球を作りだす。


 そのまま馬車にあった桶に水球の水を入れて、一回捨てる。綺麗になった桶にもう一度水を注ぎいれて、獣人達に渡した。


 獣人達は俺の干渉型魔法に驚いたようだ。飲み水を作り出せる魔法使いは珍しいらしいからな。

 最初に父親の獣人が水を飲み、家族に対し「お前達も飲んでおけ」と言ったあと、素早い身のこなしで狩りに出かけて行った。

 残った獣人達は各々木のコップに水を入れ、ゆっくりと飲んで一息ついている。


 静かな時間が流れる。互いに何を話せばいいか分からないし、俺も特に話す必要性を感じないからだ。

 そんな会話をしない俺に対して、子供の獣人が話しかけて来た。



「ねえ! 君って、まほうが使えるの!? ぼくにもおしえて!」



 唐突に俺に話しかけた子供に対して、母と青年は大きく驚き、(たしな)めようとする。

 俺も最低限の会話しかしないつもりだったから注意を促そうと視線を二人に向ける。だが、子供獣人はすぐさま話を続けた。



「あ! ぼくの名前はゼーンズフティっていうんだよ! ゼーンって呼んでね! 今は五才なんだ! 君の名前は!?」


「あ、いや、えと、名前はテラスだ。年齢は六歳。魔法は嗜む程度には使えるつもりだ」



 子供特有の無邪気な所というか、怖いもの知らずのような勢いにのまれて、つい素で答えてしまう。

 どうしたもんかと思考をまとめる前に、子供獣人――ゼーンはさらに質問を重ねてきた。


「テラスって言うんだね!! よろしくね!! えとね、えとね! テラス君は魔法が使えるんだよね!! どうやったら使えるのかな!? それとね! あの小剣って魔法で作ったんだよね!? でもえいしょうしてなかったよね!? それなのに魔法ってできるの!? それにテラス君ってすっごく強いよね! あのね! ぼくに魔法とかたたかい方とか教えてほしいの! ぼくおおきくなったら、テラス君みたいにつよ「いい加減にしろ!!!!」ひぅっ!! …………え……なに、お兄ちゃん……」



 マシンガンのように饒舌な質問責めをしていたゼーンを、兄獣人が怒鳴った。ふつふつと怒っていたことが隣から伺えていたが、とうとう我慢できなくなってしまったようだ。

 その怒りの勢いに任せ、兄獣人はゼーンへと詰め寄った。



「お前わかってんのか!!? 人間だぞ!? あの人間なんだぞ!!? お前が好きだったハイム姉ちゃんを攫った!! 俺たちの同胞の村を焼き払った!!!! 人間がしたことを知らないわけじゃないだろう!?」



 堰を切ったように怒鳴り続ける兄獣人。亜人狩り達に捕えられていた不満も含めて、溜まりに溜まったものが溢れだしているようだった。

 だが、この兄獣人の気持ちも全く分からないわけじゃない。


 現在、この国では人間側と獣人側で交戦状態にある。しかし交戦状態といっても、獣人側が搾取されているだけに等しいと言っていい。

 唯一の外国との貿易路である北を人間側に占領されてしまっていることや、人数差による物量戦などから獣人側はとても不利な状態なのだ。


 獣人側も全員が協力すればある程度抵抗は出来る筈なのだが……。獣人側が一つの種族ではないという問題があり、そのせいで団結できていない現状がある。

 いくつかの種族が存在していて違いがあり、その種族間の交流が少なかったり、閉鎖的な種族が居たりとうまく交流できていない。


 人間側の認識も獣人は奴隷、モノと同じ、という認識であり、汚い物として扱われることも多い。そんな状況で、この兄獣人が人間に対して碌な感情を抱いていないのは仕方ないと言えるだろう。



 兄獣人の嘆きは止まらない。



「それに、それにだ! 見ただろう!? こいつが! 同じ同胞(しゅぞく)であるはずの人間をなんの躊躇いもなく殺したところを!!! 六歳で!? こんな子供なのにあんな凶悪な笑みを浮かべて!! こんな子供がいるわけないだろ!!?!? こんな! こんな!! こんなバケモノに教えを乞うようなことを! するな!!!!!」



 興奮しすぎて単語が途切れ途切れになっており、顔も真っ赤になっている。


 本人を目の前にしてここまでの罵倒は、そんな凶悪な殺人鬼というなら危ないんじゃないのか? という疑問も、おそらく感情が昂ぶりすぎて兄獣人にとって意味をなさないだろう。


 冷静な思考を出来なくなった奴に何言っても無駄か。俺は、呆れの冷ややかな視線を送りながら、さっさとこいつらから離れるべきだったかと若干後悔した。


 めんどくさいことになったと思いつつ、こいつの怒りが一旦収まるまでこの場から離れようか考えた時……ゼーンから小さな声が聞こえてきた。



「…………スは……て…………もん……」


「なんだ! はっきり言え!!」


「テラスは助けてくれたもん!!! お兄ちゃんは何も出来なかったくせに!!!!!」


「なっ――――――!!」



 おさらく、今一番兄獣人にとって触れて欲しくない話題に、言葉に詰まって怒りが最高潮となる。あまりの怒りに体中がプルプルと震え、手からはギリギリと音が聞こえそうなほど強く拳が握られている。


 そして、その怒りのエネルギーはゼーンへと向かおうとしていた。



「てめぇ!!!!!」


「ひっ!!」



 兄獣人が拳を振り上げた時――目の前に砲弾が通って行った。



「――――なにやっとるかお前はぁあああああああああああ!!!!」


「げブっぱぁぁぁあああああああっ!!!!!」



 砲弾というか、砲弾に見えるほどの速度でドロップキックを兄獣人にかました父親獣人だった。

 まるで漫画のように水平に飛んでいき、ズザザザザァァ!! という音を、父親獣人は着地した足から、兄獣人は倒れこんだ顔面から発する。


 有体で言って、超痛そうだった。



「イデア!! お前、十も離れたゼーンに暴力を振るおうとは何事だ!!! それになんだ!! 図星を突かれたからと言って暴力に走るとは言語道断!!!! お前には大人の理性がないのか!!!」


「ぅぐぅうう!!!」



 兄獣人へと駆け寄った父親獣人は、胸倉を掴みグラグラと揺らしながら大声で説教を始める。グラグラと揺らされる兄獣人は苦しそうに……あれ、締まってないか?



「一番は!! 命の恩人に向かってあの罵倒は何だ!!! 茶猫人の誇りに泥を塗る気か!? 恥を知れ!!!!」


「んぐっ! で、でも!」


「でももクソもない!!!」


「グガッ!!」



 あ、殴られた。グーで。


 俺は呆けたように成り行きを見守る。



「お前には感謝の気持ちと言うものは無いのか!!? 恩を仇で返すような駄猫であってはならないという赤子でも教わるようなしきたりを守れんのか!? 言い訳をするなら意味のある言い訳をしろ!!」


「に、にんげんだからガガフェッ!!」


「種族第一で人を判断するなどお前が一番嫌いな人間と同じではないか!!! 冷静な判断を出来ぬ者など成人を迎えていようが大人ではない! 戦士にもなれぬガキだ! だいたい、お前はいつもいつもしっかり考えもせずに突っ走って周りに迷惑かけていると何度もいっただろうが! 冷静に周りを観て己を視ろということも分からんのか!? しかもお前は――――――――」



 ――それからは父親獣人の説教が延々と続いた。


 胸倉を掴まれ目をそらすことも出来ずに怒られている兄獣人は半泣き……否、全泣きであった。

 言い訳する度に殴られているのも拍車をかけているのだろう。手加減しているのは分かるが、十分に痛そうだ。


 心も体もフルボッコにされて、全泣きプラス鼻水も出ている兄獣人が開放されたのは、だいたい二時間後ぐらいであった。


 そして、一通り怒られた兄獣人は、父親獣人と共にこちらに歩いてくる。

 顔面がかなり赤く腫れていて、若干、……ドン引きであったがしっかりと聞く。



「………………その……すまなかっ、あ、いや、ちょっとまって。悪口言ってごめんなさい!」


「家の愚息が迷惑をかけた。俺からも謝らせてもらう。すまなかった。」



 父親獣人の鋭い眼光に態度と言い方を変えた兄獣人を、俺は苦笑いをしながら許す。

 言い方は悪いかもしれないが、子供の様に謝る姿は滑稽だった。


 その後、ゼーンの方にも兄獣人は謝っていき、腫れっぱなしの顔面をみて引き攣った笑いをしながらゼーンが許し、それからやっと朝食の時間になった。

 無駄に疲れた気がする。


 父親獣人は、運の良いことに嗅覚で獲物をすぐに見つけて、早々に狩りを終わらせていた。

 いい気分になって帰っていると、兄獣人、――イデアールというらしい、の怒鳴り声が聞こえてきたそうだ。


 急いで戻ると先の状況になっていて、獲物を放り出してドロップキック、という流れだったらしい。ちなみに、説教の途中に俺への罵倒や話の流れなどは全て聞き出されていた。



 父親獣人の狩ってきたイノシシのようなモグラのような獣を捌いて、物静かな母親獣人がそれを調理して、現在は食事中だ。


 和やかな、とは言えないかもしれないが、少なくとも前よりは緊張感もなく、食事を終えることが出来た。


 なお、食事中イデアが俺に敵意の目線を送ることは無かったことを記しておく。


 ぶすくれてはいたがな。









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