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黒銀の決意 ~混沌転生~  作者: 愛卯
第一章 悔恨の幼児編
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第11話 力への渇望

 









 母さんが死んだ。


 それは、この世界に転生して唯一の拠り所だった存在が居なくなったことを示した。


 すべてうまくいっていた。


 計画も、穴は無かったはずなんだ。


 誰があいつが来るなんて予想できるというのか。あいつは、主であるクラップの傍にずっと居る筈なんだ。

 なのにどうして。


 母さんは、ただ普通に暮したかっただけなんだ。

 母さんは、少しの幸せが欲しかっただけなんだ。

 そして母さんは、そんな慎ましやかな願いすら無くしてでも、息子である俺の幸せを願っていた、心優しき立派な母親だったんだ。

 どうして、そんな母さんが死ななくちゃならないんだ。

 どうして、母さんが。

 どうして、どうして。


 まるで逃避するように連続して「どうして、どうして、どうして……」と呟き、俺は母さんを抱えたまま動くことが出来なかった。

 血が大量に流れた事によって青白くなった母さんの体は、その分軽くなったはずなのに、酷く重く感じた。

 脈を確かめたり、呼吸を確かめたり、呼びかけたり、藁にすらならないものに縋って、心の安寧を保とうとする。


 だが、母さんの生死を確かめる度、突きつけられるのはという絶望のみ。



「……そうだ、お墓、作ってあげないと……」



 今にも壊れてしまいそうな掠れた声が、俺の口から出てきた。




 …………母さんは、そのまま土葬することにした。

 俺の初級しかできないちんけな魔法では、ちゃんと火葬をすることはできない。

 それに下手に煙を上げるのは、逃亡中のため得策ではないだろう。



 先ほどの戦闘のせいでスラム街の人々は逃げてしまったが、いずれ戻ってくるかもしれない。

 そうなれば、服、いや最悪死体を売るために、墓を掘り返される可能性がある。


 母さんの墓を荒らされるのは絶対に嫌なので、人が来ない所まで母さんの遺体を持っていくことにした。

 もともと種族のおかげか、かなり強い筋力を俺は持っているから、母さんの体程度なら持って運べる。

 血が付くのも厭わず、母さんの体がこれ以上傷つかないように丁寧に運ぶ……。


 スラム街の隅、この都市の城壁まで来た俺は、本来生きた母さんと通るはずだった分厚い街壁の、抉れて削られて広げられたような穴を(くぐ)る。


 その先もスラム街があって、街壁の中にすら入れなかった人たちが住んでいる。

 建築学なんてまともに習っていない人たちが建てた家だから、まともな建造物がない。


 区画整理などされてなく、うねる様に道があり、そのせいで死角や路地裏が大量に出来る。よって治安が街壁内よりさらに悪いため、俺は足早にボロボロの町を抜けた。


 そして、街を抜けた近くにある一本の木にたどり着く。


 周りに誰もいないことを確認した俺は、土属性の魔法を使って穴を掘る。

 掘り返されないように二メートル程度の深さに掘って、端を坂のように斜めにしてそこから母さんをゆっくり中に入れていく。

 母さんの道具や、母さんからもらったものを握りしめ、躊躇(ためら)いながらも丁寧に魔法で土をかぶせて埋めていく。

 最後に土が硬くなる魔法をかけて、周囲の草を木と土の属性を使って移動させ、何かを埋めたとわからなくなるように細心の注意を払う。



「お母さん……俺は、どうすればいいのかな…………」



 母さんからもらったアクセサリーが、キラッと光った気がした。俺は、そのアクセサリーをしっかりと心に刻みつけるように見る。

 銀の光を放つような白鳥を中央にあしらっていて、周りは黒色。

 メダル型の形で、薄い側面にすら小さな装飾がされている。母さんの気持ちが伝わってくるような手の込んだ作品だ。


 裏には魔法陣が描かれていて、真ん中に白い宝石のようなものがある。魔道具であるようだが、何の効果は残念ながら俺にはわからなかった。

 アクセサリーについているチェーンを首にかけ、一度深呼吸をすることで気持ちを整えてから、母さんの埋まっている地面へと声をかける。



「……それじゃあ、行ってくるね、お母さん」



 俺は遅れている時間を取り戻すように、――いやあるいは、何かから逃げるように、その場所から速足で離れていった…………。





 スラム街へと戻ってきた。狭い路地裏のような道を通り抜け、指定された場所へと向かう。

 打ち合わせでは、ここに商人がきて国境まで連れてってくれるはずだが…………。




 次の瞬間、俺は思いっきり体ごと蹴飛ばされていた。


 背中から唐突に蹴飛ばされ、そのまま近くの建物の壁にぶつかる。

 その建物の壁が腐りかけていたのか、ぶつかった壁をぶち抜き、建物の中へ跳ばされた。

 建物の内部の床は石のように硬く、そこに強く打ち付けられたため、肺から空気が抜けて息が出来なくなる。



「かはっ!!! なん、だ!?」


「ギャハハハハ!!! おいガキ! 今すぐ持ってるもん全部寄越せ!! それは俺のもんだ!!」



 壊れた壁から入ってきた大男が、口汚く怒鳴りつけてくる。

 半ばパニックに陥りそうな状況で、何とかその場で立ち上がり母さんから貰った短剣を構えようとする。


 だが俺がしっかりと構える前に短剣を手ごと上に蹴飛ばされ、逃げる間もなく手が上がったことにより空いた鳩尾に拳が突き刺さった。

 めり込んだ拳はさらに俺の肺の空気を抜き、胃の中から吐瀉物を出してしまいそうになる。


 それを歯をくいしばって耐え、次の攻撃を防御しようとするも、その前に顔面を殴られた。

 また吹っ飛ばされた俺は壁にぶつかり、殴られた衝撃と壁にぶつかった衝撃で脳がシェイクされ意識が飛びそうになる。


 本能からか、ギリギリで意識を保ち、その場から這って逃げようとするが、それすらも髪の毛を大男に掴まれた事にって叶わない。連続した暴力の嵐により朦朧とした意識のまま、俺は大男によって引き寄せられさらに怒鳴りつけられる。



「ガキが一丁前に武器構えてんじゃねぇよ!!! 黙って持ってるもん寄越せっつってんだ!!!!!」


「な、んの…………はなしだ……」


「とぼけんじゃねぇよ! 通行手形だよ!! 持ってんだろ!?」


「知ら、ない……!」


「嘘つくんじゃねぇ!!!!」



 大男によってまた顔面を強烈に殴られる。

 今度は髪を掴まれている影響で吹っ飛ばされはしなかったが、代わりに髪の毛がブチブチと抜ける音がした。

 それでも俺が喋らないでいると、舌打ちした大男は空いている片手で体のポケットや俺が必要な物を入れているポーチを探ってきた。


 俺は必死に逃げようとしたがそれももう一度殴られることによって沈められる。もう顔は酷いことになっているだろう。

 鈍い痛みと息苦しさと血の味を感じながら、どうにかできないかと相手のステータスを見る。


 ===========

 ラバークルフ 人間族 ♂ 38歳

 Lv35

[クラス] 拳士

[魔力] 37/37

[魔法] 無

[スキル]

 格闘Lv5・威圧Lv3

 ============




 こいつもレベルが高い……。

 俺では、逃げることすら叶わないであろうことを、理解してしまう。


 ひたすらに自分の弱さを嘆いた。

 ……そして、とうとう通行手形が見つかってしまった。

 俺はポーチから抜き取られる通行手形を見て、まるで希望そのものが抜き取られていくかのような感覚を覚えた。



「んだよ、やっぱりあんじゃねぇか」


「……どうして、知ってた………………?」


「ああん? ああ、お前ここで外行きの商人と会うことになってたろ? ちょっと前にその商人の通行手形を奪って逃げだそうって考えたんだが、そいつが出ていく直前じゃなけりゃ発行されないとかほざきやがったんだ。そんで、どうにかしろって家族を人質にとったら、あっさりとお前らのこと吐きやがったよ。顔がバレて関所の手配書に載ったらまずいから全員殺したが、あいつらもなかなか役に立ったぜ? ギャハハハ!!」


「くっ…………!」


「そういえば母親もいるんじゃなかったのか? はぐれたのか? それにしちゃあ何で通行手形を子供なんかが二つ共持ってんだ……? ま、いいか。俺はこのまま護衛契約してる商人に一枚高値でうっぱらって、この糞みてぇな国を出させてもらうさ。とりあえずこれだけじゃなくて持ってるもん全部貰ってくぞ? 俺がしっかり有効活用させてもらうからありがたく思うんだなぁ? ギャハハハハハ!!!!!!」



 大男は上機嫌に、悪事を自慢する。そこには最悪の愉悦があった。



「かえ、せ……!」


「返すわけねぇだろ? ん? お前いいもん持ってんじゃねぇか」



 大男は俺の首にかかっているアクセサリーに気づいた。

 俺の顔面が蒼白になった顔を見て、大男は……粘ついたような笑みを見せた。

 俺は必死に声をひり出して訴えかける。



「それだけはやめてくれ!!!」


「やーだよ! ギャハハハハハハハハハハハ!!!!」



 耳に纏わりつくような嗤い声をあげながら、大男は俺の大事な母の形見を引きちぎった。

 頭の中に広がる憎悪、高まる憤怒、大きくなる嫌悪、深まる絶望。

 あらゆる負の感情が強くなっていく。



「高く売れそうだ! ありがたくもらってくぜ?」



 何もできない自分への悲しみは、怒りへ。



「金も結構あるじゃねぇか。ギャハハ!!」



 自分の弱さに対する沈鬱は、強さへの切望へ。



「ああ、言っとくけど取り返そうって言っても無駄だぜ? なんてたって俺は別の大陸まで行くつもりだしなぁ! ギャハハハハハギャアハハハハハハ!!!!!!」



 理不尽に対する絶望は、力に対する嫉妬へ。



「じゃあな! 俺は優しいからとどめは刺さないでやるよ。もっとも……オッラ!!」



 俺を地面に叩き付けた大男は、両足を思いっきり殴ることで脹脛(ふくらはぎ)の骨を叩き折った。



「ぎぃぁぁぁぁあああああああ!!!!!!!!!!!!」


「ギャッハッハハハハハハハハ!!!!!!!! その怪我じゃ苦しんで死ぬだけだろうがな!!!」



 大男は嗤う。強者は嗤う。理不尽は嗤う。

 痛みは鬱憤になり、恐怖は激怒へ。

 苦しみは、溢れるような殺意へ。


 暗く黒く激しい感情へと昇華されていく。



「じゃあな! 恨むんなら自分の弱さを恨むんだな!!」



 大男はそういって嗤いながら去って行った。

 残されたのは…………すべてを失った俺だけだ。



「ックソォ!!!! クソクソクソ!!!!!! ぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!」



 抑えられない気持ちを子供の様に泣き叫ぶことによってどうにかしようとする。だが、暗い感情は大きくなるばかりで、一向に収まらない。


 どうして俺がこんな目に合わなければならないのかどうして優しい人はつらい目に合うのかどうして理不尽は許されるのかどうして悪人は許されるのかどうして悪人は正しいのかどうして屈辱に塗れなければならないのかどうして自分はこんなにも弱いのかどうすればよかったのかどうすればうまくいったのか母さんは殺された殺された殺されたそれもまるで遊ぶように俺は殴られた殴られた殴られたそれは楽しむように愉しむように嘲笑うように搾取され淘汰され蹂躙され破壊され踏みにじられ弱い弱い俺は弱い力が無いから理不尽に甘んじるだけああそうだ理不尽が嫌だ理不尽が不愉快だ理不尽が呪わしい理不尽を殺したい理不尽が許せない、力がいる、強く強く強く強く強く強く誰よりも誰にも利用されないように強く。





 力が、欲しい。



 自分を通せる、力が!!!!!!!!







 度重なる疲労によって、意識がどんどん朧げになっていく……。

 俺の意識はそのまま失われていき、闇に溶けるように沈んでいった…………。









 ===============

 ユニークスキル

【根源を喰らう者】のレベルがアップしました。

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こんな感じの作品書いてますが、ハッピーエンド主義ですので、これからもよろしくお願いします!

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