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プロローグ

ご注意

人によっては過度と思われるような主人公の制裁描写や、人がたくさん死ぬ描写があります。

苦手な方はご遠慮下さい。

それでも大丈夫!という方は、読んでいただけると嬉しいです。


読者様の地雷回避のための補足。

※補足1、復讐モノのため前半主人公にとって辛い描写があります。

※補足2、全体的にシリアス、バトルもの要素が強いです。ただ若干のギャグもあります。

※補足3、キーワードにあるヤンデレ気味や冒険者ギルドの話は序盤ではあまり出ません。警告タグ的意味合いもあるので最初から設定しております。

 



 彼は、悪意を知った。


 彼は、幸せを知った。


 彼は、殺意を知った。


 彼は………………。



  【復讐を決意した】



  ◇  ◇  ◇



 貼りつく様な雨。


 震えるほどの寒さ。


 そして――むせ返る様な血煙。


 手に残る生き物を切り殺した感覚と、自身の体に出来た傷。

 そのすべてが不快感を生み出すが、敵と戦う高揚感で打ち消される。


 しかしそれも、先ほどまで俺を食い殺そうとしていた魔狼の群れがすべて俺の手で死に堕ちたことで、その場にへたり込みたくなるような疲労感に変わる。


 もうこれで何回目の襲撃だろうか。

 この幼子の体で、一瞬の気も抜けない命の奪い合いを何度もすることに多大なストレスを感じる。


 まともに眠れてないからか、朦朧とする意識で、岩で出来たような剣を引きずり拠点に戻ろうとする。


 だが、その途中で……極限の疲労感には勝てず、びしょ濡れの草が生い茂る地面にぶっ倒れてしまった。

 雨に濡らされながら意識が暗闇へと堕ちていき…………。



 ああ、今度こそ死ぬかもしれない、何で俺は、こんな事になったのだろうか。



 これが、意識を失うまでの俺の最後の思考だった――。




 ◇  ◇  ◇





 今思えば、もう少しどうにか出来たんじゃないか、と自分の人生思い出す。


 俺には父親がいない。

 母親が身籠ったと分かったら、俺の父親になるはずだったやつは、どこかへ逃げてしまったそうだ。

 俺の母親は、せっかくの命を捨てたくないと周りの反対を押しきって、中絶をせずに、一人で産みきったらしい。

 それから母親は、産後退院した後ずっと一人で働きながら俺を育ててきた。

 すごくすごく優しい母だった。


 小学生の頃、母が違う男性との結婚を考え出した。母が幸せになれるならそれもいいだろうと、俺も賛成した。

 紹介された父親候補は、何故か嫌な感じだったが、ずっとニコニコしていてすごく優しくしてくれた。

 お菓子を買ってくれたり、おもちゃを買ってくれたりした。

 当時まだ小学校上がりたてぐらいで、とても単純だった俺は、それだけでいい人だなーって思った。


 そんなのは……ただの馬鹿な勘違いだった。


 最初は優しかった男は、すぐに怒鳴りはじめ、暴力を振るうようになった。

 母はずっと意味も分からない程に怒鳴なれていて、子供ながらに俺は家の家事をして母の負担を少しでも減らそうとした。

 しかしそんなものは根本的な解決に繋がる筈もなく、その男の横暴はさらにエスカレートしていき、仕舞いには母が稼いだ金を男がどんどん取るようになった。


 俺はそれに何も言わない母に疑問を覚え、どうして黙っているのか聞いてみたら、

「相手に優しくしていたら、いずれきっと優しくし返してくれる」

 と母は答えた。

 母が大好きだった俺はその言葉を素直に信じた…………。



 そんな日々が続いたある日、余り家に来なくなった男を、商店街で見つけた。

 隣に女の人が一緒に歩いていて嫌な予感がした俺は、咄嗟に隠れて様子を伺った。

 男は、傍らに化粧の濃い若い女の人を侍らせて、


「じゃあ次のとこ飲みにいくか!」


 と言っていた。それに対し化粧の濃い女の人は、


「えー、もうあたしお金なーい」


 と不満そうに口を尖らせる。妙に高いキンキン声が、耳に障った。

 男はそれに待ってましたとばかりにニンマリと笑い、


「俺が全部奢ってやるから心配しなくていいぜ?」


 と、誇らしげに言った。


「やったー! さすが、カッコイイ! おっ金持ちー!」


 女の人はとてもとても嬉しそうに言った。


「だっはっはっは! まあな! 馬鹿な女からお小遣いをちょちょいと拝借してるからな!」


 ――俺は頭が真っ白になった。

 父親は、仕事の関係でお金がいると言っていた。つまり、母は騙されていたのだ。


 急いで家に帰り、この事を母に話した。

 母親は、馬鹿にしたり疑ったりすることもなく俺の話をしっかりと聞いてくれたが、それでも

「きっと必死に説得すれば、思い直してくれる。 一緒に待とう?」

 と言い続けた。


 俺は、母の言葉に僅かな疑問を覚えながらも、その言葉を信じようとした。




 それから少し経って、俺は中学生になった。

 この頃になると、ほとんど男は来なくなった。

 思春期に差し掛かると言われるこの時期に少し余裕が出来たことで、本をたくさん読んで趣味に没頭し、充実した生活をしていた。


 家の事情(結局結婚はしていないため、戸籍上は母のみ)を学校に説明して、アルバイトをしながら学校に通っていたが、そのことに特に不満に思わず平和な日々を過ごせていた。



 しかし……そんな日々は長く続かなかった。


 受験戦争を無理することなく越えて、平凡な県立の高校生になってから、暫くの事。

 しばらく来ていなかった男が急に家に来たのだ。

 男は母と二人っきりで話したい事があると言い、 俺は出掛けるように言われた。


 とんでもなく嫌な予感がしたので、俺は家に残ろうと考えた。

 しかし、その日は抜けられないアルバイトが入っていて、俺は苦悩の末……アルバイトの仕事へと向かった。

 もちろん母には簡単に信じてはいけない等注意を念にして、それから出かけたのだが……。




 …………今思えば、これが人生最大の失態だったのだ。



 帰ってみると、男は既に帰っていて、母は男の借金の連帯保証人となっていた。

 母は、

「やっと分かってくれたよ! 今までのこと謝ってくれて、これからは誠実に生きていくって! 就職もちゃんとしたところに決まったから、すぐに返せるって、安心しろって言ってたよ!」

 と仰られやがった。


 俺の全警鐘が気絶しそうなほどガンガン鳴っていた。恐らくここで色々詰んでいたんだろう。


 後はもう想像通りの展開。


 その男に逃げられ、俺の家は多額の借金を背負う事になった。



 俺も一生懸命返すのを手伝ったが、母の薄給と俺のアルバイトじゃ、なかなか返せる額じゃなかった。

 俺は学校やめて働くと言ったが、ちゃんと学校には行きなさいと必死に説得されたので、高校までと約束した。

 毎日のように金融会社からの電話が鳴り響き、次第に母はやつれていった。




 絶望的な日々のなか、それは唐突に起こった。


 母がとうとう過労で死んだ。


 よく考えればわかりきっていた事だった。ろくに睡眠も取れず働き続けて、ストレスがたまり続ければ、誰だってそうなる。

 俺は酷く悲しかったが、どうしようもないことだった。


 一応母は生命保険には入ってたみたいで、保障金はおりてきた。


 それで借金は返せたし、残った保障金をハイエナのように嗅ぎとった遠い親戚の家に住むことになったので路頭に迷うことはなかった。


 俺が大学は行かず、すぐに就職すると宣言していたのも引き取った理由の一つだろう。大学に行かないのなら保障金をマイナスにするほどのお金は使わないし、自立するなら手間がかかるのは最初だけだ。

 その親戚がお金の為に引き取ったのは丸わかりだった。



 それから母との約束通り、俺はちゃんと高校を卒業して、就職した。

 一緒に住むことになった親戚とも全然仲良く出来なかったので、そのまま一人暮らしを始めた。ボロアパートの一室で暮らしながら、そう高くない給料で何とか生きて過ごしていた。



 今日も長い残業が終わり、フラフラになりながらも家に帰った所だ。


 俺は、生きることに疲れていた。

 無償の優しさを疑いもせず振り撒き続ければ、周りから搾取されるのは当たり前。

 理不尽に反抗もせずじっと縮こまっていれば、収まるどころか際限無く大きくなる。

 優しくしたところで、返してくれない人は何も返してくれないのだ。

 それどころか、次も優しくして当然だと、義務なんだと、利用されて終わりだ。

 みんなみんな、楽に生きるために他人を利用して生きようとしている。


 母の事だけじゃない。

 俺は、生きてきた中でそんな諦観を持ってしまった。



 そんなどうしようもない事を虚しく考えながらベットに入り、沈むように眠りについた……………………。





 ーーーーーーーーーーーーーーーー





 ……ん? ここはどこだ……?


 体の感覚は一切無く、五感が無くなってしまったかのように何も感じない。

 普通、こんな状況に陥れば、パニックになってしまうだろう。けれど、何故か俺はそうならなかった。

 浮いているのか上下感覚も分からず、体の感覚が無いため動かすことが出来ているかもわからない。


 そのままボーッとしていると、ふと、右の方に何か気配のようなものを感じた。

 よくわからない『それ』に近づくと、それからは何か、力、のようなものを感じた。自分でもなぜそのような感覚が掴めたのかわからない。


 とりあえず考えても答えは出ないので、その感覚を鋭くして、《それ》をしっかりと探った。

 すると、自分も《それ》と似たようなモノであると同時に、他にもたくさんの《それ》があることに気付いた。


 なんなんだろうなーと思いつつ、近づき触れてみると、初めて五感のような感覚があった。

 しかもそれは、味覚。

 今まで食べたことのない甘く熟した果実のような印象を持つ極上の味。


 そういえば、手で触れただけのつもりだったのに、何故食べているのだろうか?

 いやそもそも、手か?

 この触手のように自分から出ているものは。


 しかしそんなことは今の俺には些細な事に思えて、とにかくもっと食べたいと思い、周りを窺った。



『これだけたくさんあるんだから、ちょっとぐらい食べても大丈夫だろ。……たぶん』



 俺は、その数えるのも億劫な無数の《それ》を喰らいだした………。




 しばらくたって、ハッとなる。


『……食い過ぎた……』


 いくら食べても満腹にはならないので、調子に乗ってどんどん食べてしまった。

 果実のような味以外にも、ジューシーな肉のような味や、洋菓子のような味など、バリエーションに富んでいて飽きることがなかったのだ。


 今になって冷静になると、サイズ? か、力? が大きいものがあることに気付いた。それを喰らうと、なんだか少しだけ満腹感のようなものが出た気がした。

 お腹一杯になったらやめよう。

 そう思って、大きめの物を喰らいだした。


 ーーああ、これは何か刺激が強くてピリピリする感じがあるなーー


 ーーこれ味濃い! 濃厚!ーー


 ーーん? なんかこれ味しないぞ?ーー


 ーー甘いな、これーー


 かつてないほど高ぶるテンションで、《それ》を喰い続け、またはっとなる。


 またしても喰いすぎてしまった!


 やることがないとはいえ、最低でも万単位で喰らっているのは確実だった。

 何だか時間感覚もずれているような気がする。


 そろそろ満腹かな?


 そう思ったので、次で最後にすることにした。


 最後は途中から気になっていた、力強さが直接響くような、かなり巨大なもの。

 それは段々とゆっくり崩れていっているようだが、他とは比べ物にならないくらいデカい。


 明らかに他とは違うそれは、とてもうまそうに感じた。


 俺は躊躇わず思いっきり《それ》を食べていった…………。




 かなりの時間が掛かったが、ようやく食べ終わって、やっとお腹一杯になった。


『んー、腹も膨れたし、食事後の探検といこうか!』


 俺は満足してその果ての見えない空間を泳ぐように進んでいった。




 さて、暫く何も変わらない空間を漂っていたら、 渦というか穴というか、どこかに繋がっていそうな場所を見つけた。


 よく見てみると、そこには『それ』が吸い込まれているのがわかる。


 俺は何となくそれについていって、一緒に吸い込まれていった。


 それを最後に――俺の意識は暗転した。




一章後半にかけて一話の文字数が少しずつ増えていき、二章からは大体安定していると思います。

先の構想は出来ておりますが、多少執筆が遅れる事があるかもしれません。

拙い文ではありますが、どうかよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
[一言] 息子より自分の恋愛を優先したのか。 てか過労死するくらいなら自己破産すれば良かったのに。 好き勝手に貢いだ挙句、何故か過労死して息子を一人残すとか、母親は息子に恨みでもあったんだろうか。
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