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フィンネルの紅剣  作者: 楠楊つばき
Episode 6 精霊
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42.連結

世界と世界が繋がり、本当の世界へと一歩近付く。

 それぞれの思惑はあれど、箱庭世界を壊すために一致団結することになった。戦うことを選んだ四大精霊の前に金色の光が魔法陣を描き、その中から人影が生まれる。


「覚悟を決めたのかアセスノフィア」


 金髪のツインテールに太陽のコロナのような橙色の瞳。成熟していない体に合わせた茶色のコートはまるで旅人のよう。ボロボロになったそれはその人物がいくつもの戦いに巻き込まれてきたことを証明している。体は小さくとも溢れ出るオーラは大きく周囲を威圧させていた。――太陽のリンネ。万全を期して彼女は人前に現れた。彼女の背中に隠れるようにして赤髪赤瞳のフレイもいる。


「我は汝らに力を貸すと決めた。これはコルグレスとは関係ない、我らのエゴ。汝らに道を示そう」


 彼女が言葉を発するたびに空気が震えた。空気だけではなく世界を構成する粒子がリンネの言葉に反応している。


「リンネさん、僕らに道を示すって具体的にどういうこと?」


 颯瑪が尋ねると、リンネは一歩下がり両手を広げた。彼女の手に生まれたのは大きな世界の歪み。この世界の精霊が世界を管理するために生み出した地上にはない世界。灰色の渦は今か今かとその場に居合わせた者を引きずり込もうと渦巻いている。


「僕らが大精霊へ続く道を繋げるってことだよ」


 リンネの背中からひょっこりとフレイが姿を現した。言い終えるとスッとまた背後に消え、チラチラと発言するタイミングを伺っている。


「つまりあたし達が探さなければならない相手は見えない世界にいるということか?」


 険しい顔つきの紅剣は長い髪をさっとかきあげた。瞳に迷いの炎はなく、静かな面持ちで会話に耳を傾けている。


「紅葉さん、正解。エミルくんも頭がいいからある程度先のことは予想していただろうけど、今みたいな混乱を生じさせて上の者たちを下界に引きずり出そうとしていたんだよね? でもそれだけじゃだめなんだ。彼らは巧妙に自分の住む場所を隠している。きっとどこかでこのやり取りも聞いていると思うよ」

「リンネとフレイはちゃんとできるって確信はあるのか? 失敗してここに戻れなくなったらたまったもんじゃないぞ」


 紅葉がリンネとフレイを睨みつけた。これから行おうとしていることは最悪世界を壊し、ここに住み着く全ての生き物を絶命させる可能性がある。その危険な行動を確信なしでとれるほど非情でなく人間を嫌ってはいなかった。


「安心しろ。我々は長い時を生きてきた。精霊世界コルグレスの分岐世界がどのような仕組みであるかは理解している」

「リンネの言うとおり、大船に乗った気持ちで任せちゃってよ。精霊剣のことは僕に任せて。責任を持って完成させるよ」


 頼りなさそうな外見のフレイが言っても迫力はなかったが、それ以外方法はないとネーセルとフィンネルは納得した。

 もう一度全員の意志を確認し、リンネは自分の後ろに大きな円状の鏡をつくる。表面は歪み、この鏡を通れば目的の世界に行けるとリンネは説明した。


「行こうじゃないか、ボクの下僕達」

「エミル、お前が仕切るな。あくまでも共闘だ、あたしはお前についていくつもりは毛頭ない」

「ひどいな。ボク以外にまとめ役がいないのに」

「……っ、それは」


 紅葉は颯瑪とラグリに視線を向けたものの、苦虫を噛み潰したような顔でエミルに向き直った。


「…………適当にやってくれ」

「お姫様の了解を得たし、気楽に行こうじゃないか。四大精霊の名のもとにいざ行かん――彼の地へ」


 そう言い放ったエミルを皮切りとして、すでに心を決めた颯瑪とラグリはリンネが生み出した鏡の中に順番に入る。


「フィンネル……全てが終わったら、また――!」


 最後になった紅葉は鏡の前で振り向いた。フィンネル。自分を最初に導いてくれた人。彼女がいなければ今の自分はなかっただろう。戦争のために形だけの相棒になり、最後には本物になって、けれども別れが来た。再会したのは新しい戦争中だった。この出会いを、この別れを、運命と言わずになんと表現すればいいのだろうか。もう二人の間に戦争という忌まわしきものは存在しない。だから、きっとこの関係は――。


「クレハ……ううん、紅葉。また会いましょう。次は二人だけで」

「――うん!」


 笑みを浮かべ、紅葉は鏡の中に飛び込んだ。






 鏡の中は自分という概念が崩れそうになるほど曖昧な空間だった。体と心がバラバラにならないよう繋ぎ留め、時空を渡る。目的としている場所は異物を拒んでいるのか何度も衝撃波を生み出し空間を揺らす。その度にリンネが呪文を唱え魔法を無効化させていった。その呪文は恩恵の呪文ブレッシングスペルであるが、分岐世界である精霊は太陽のリンネが発する祝詞を理解できなかった。


「到着だ」


 リンネがそう言うと、颯瑪は「キツイ旅行だったね」と愚痴を漏らす。彼がただの人間であったらすでにあの空間に押しつぶされていたということを知らないためにそう言えたのだった。

 地面が波を打ち形を変えるため、果たして自分が立っているのかどうかわからなくなる。あまり深く考えてはいけない、と誰もが心の中で納得していた。

 周囲は静かであった。人や精霊の気配はなく、生き物特有の熱も感じられない。気味の悪い静寂が体を取り巻く。この静寂こそが嵐の前の静けさであるのか。


「こちらの侵入は気付かれている。警戒を怠るな」


 先導しているリンネは後ろに続いている四人に注意を動かし、この作られた世界の深部へと足を踏み入れる。


「リンネ。お前はどこに行けばいいのかわかっているのか?」

「……無論だ」


 紅葉の質問にリンネはそっけなく答えた。


「わーすごいねー、壁が動いてるよー」


 目新しいのか、少年のように颯瑪は目を輝かせる。このメンバーの中で一番能天気で緊張感がないのは彼であると誰もが把握していたため、止めることなくそのままにさせる。面識の少ないリンネやエミルでさえも子供だから放っておこうと歯牙にもかけなかった。


「不思議な場所ですね……私の水が混じり合おうとしていて、自分が溶け込んでいくような感じがします」

「精霊による精霊のための場所だからだ。だが溶け込むな、世界と同期したら大物と戦えぬ」


 世界と同期することはすなわち、この場を作っている精霊王の支配になることを意味していた。そのため支配者である精霊王に攻撃できなくなる。引率の保護者のように丁寧にリンネは説明した。

 ふと視界の端に白い光が上がった。


「敵のお出ましか」


 涼しい顔でエミルが土の壁で光を受け止める。しかし彼らに向けられた光線は一発や二発ではなく、全方位から発せられた。エミル一人では受けきれないため、全員が防御魔法を展開し、敵の攻撃から味方を守ろうとする。味方と表現するにはでこぼこなグループであるが、世界の管理者である精霊王を打倒するという共通の目的を持つ彼らは味方と表現できるものである。


「うわっ!」


 力を使いこなせていない颯瑪が一瞬だけ白い光に当てられる。そんな彼の声を耳にし、紅葉が支援に回る。


「万籟、大丈夫か」

「うん……これぐらいへっちゃらだよ」

「無理はするな。お前はあたしらと比べれば未熟だ。無意識にできたことを意識的に使うことに慣れているんだ。あたしはお前のパートナーだ。いざという時はあたしを頼れ。全部自分でできると思うな」

「わかった。不束者だけどよろしく」

「ああ」


 紅の炎が緑の風に巻き込まれた。二つは同調しより強い盾へと変わる。


「紅葉さんと颯瑪さんは仲が良いですね」

「当たり前だ。仲が悪かったら契約など放棄している」

「そういう意味で言ったのではありませんが……」


 ラグリは言葉を汚し苦笑いした。こういうことに関して察しが良くない紅葉は首を傾げる。

 まだ回廊は続いている。走っても走っても終端はやってこない。もしや回廊をまわっているのではないかと疑問に思いつつも、誰も先頭を走るリンネを非難しようとしなかった。





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