アキラ、王宮での一日、前編
再び、アキラ視点に戻ります。
昨日はひどい目にあった。
空豆づくしの弁当にすり替えられ、女子生徒からまたいろんな意味で好奇の目で見られた。ケントは反面、男子生徒に同情を買い、団結力は固まったと言える。
あ~ダメだ。思い出したくね~。
「どうかしましたか? アキラさん。」
「いや なんでもないよクラリス。」
俺は金曜日に王立士官学校で非常勤講師、その翌日に王宮で彼女、クラリス王女とアリシアの家庭教師を行なっている。
マイヤールのオッサンと脳筋国王のありがたい仰せだ。 国王に至ってはまだ俺の婿入りを諦めていないらしく、アレックスのオッサン(近衛騎士団長・元帥)も自分とこの三姉妹を勧めてくる。
そういえば、末っ子のエレイシアは未だ見たことないな?諜報の熟練者らしいけど・・・・・・
「昨日、アキラを題材にした春画がブリタニアで大ヒットしている事実を知り、ショックを受けた後、昼食の中身を空豆尽くしの料理にすり変えられ、精神的にまいっているのです。 クラリス。」
アリシア言わんでいい、思い出したくないんだから。
「ああ、エリザベス女王がそういう文化が流行っていると、外交の席で話していました。 七英雄同士の戦い、恋愛をジャンルにした創作物、劇が流行っているとか。」
「そんな生易しいもんじゃねぇ~男同士というもっと恐ろしい何かの片鱗を味わったぜ、後、空豆も」
あの後、スタッフというか俺が美味しく(泣きながら)律儀に食べた。
少しうまかったのがまたムカついた。 まぁ毒なんか【鑑定眼・改】で入ってるかどうか分かるし、男たるもの添え膳は喰わなければ廃る。入ってたとしても生半可な毒なぞ俺には効果がないから皿まで食ってやるがな。
ここら辺が日本での習慣だろうな、食べ物を大事にするっていう。
「それは大変でしたね。大丈夫です。ここには怖いところは何もありませんから。」
「ありがとう クラリス! さて休憩終わり! 次の授業は・・・・・・」
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スキル・経済学・心理学を教え、次いでに軽く稽古をクラリスとアリシアにつけて午前の内に授業を終わらす。
この後、姫様や国王と会食するのもアリだが、俺は兵士や近衛騎士団、文官達の食堂に顔を出して同じ釜の飯を食べるようにしている。
「おお アキラ殿 こちらの席が空いていますぞ!」
文官のインテリ軍団が俺を見つけて、手招きする。
「あ すぐ行きます。 おばちゃん ミックスフライ定食 大盛りで♡」
「はいよ。」
カグヤとの一戦のあと東帝国のシン州、アジア一帯から米、調味料が輸出されるようになり、俺が有料で、レシピを教えたのだ。 この世界に来たばかりの頃は商人と相手取ることを避けていたが、王宮とのつながりができてからは王家御用達の商人に昇格した。
まぁその成果の一つがこの料理だな。 やっぱ美味い飯で胃袋から人の心を掴むのはいい商売になるなぁと考えているうちに出来上がった様だ。
トレイにうまそうなフライとご飯、味噌汁が匂う。
文官達の席を見やると、兵士、武官も集まり、俺が来るのを待ってくれている。
「お待たせ~」
席に着き、食事を取り始める。周りと食事をしながら、文官と経済対策、生産高の話で盛り上がり、武官にスキルや戦い、訓練の話で盛り上がる。
文官と武官は本来、不仲だったが、場内の不和を和らげようと、俺が提案し、ここで一緒に食事の場で俺自身が緩衝材となってここに顔を出している。
王様や姫様も一緒に連れ出そうとしたのだが、アリシアに大目玉をくらい、後日ギルドでリィーンにも小言を言われた。
是れは俺が失踪(というかダンジョン巡り、世界グルメツアー)する前から行なっており、今では合同訓練の日はギルドや士官候補性達もこの食堂に来て親睦を深めるためにこの食堂に集まるようになっている。
けっこう男友達もいるし、社交的な方だと俺は思う、昔の大学でも後輩、同期、先輩らと一緒に同じ釜の飯を食べて交流を深めてきた。 断じてガコライだけが男友達というわけではない。
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「俺とその新薬の誹謗中傷?エライ今更だなオイ。」
文官が気まずそうに俺に相談する。
「はい、今となってはギルド御用達、王宮御用達となった貴殿の応急薬、携帯食料、解毒薬などが、臨床実験もせずに顧客を実験台にして販売する粗悪品、其れで私腹を肥やす悪人だと一部の者が騒ぎいでいます。七英雄として名を挙げてからはソレが顕著になりました。」
あらら、俺がどんな苦労をして、どんな思いで薬を世に送り出してるのかわかってるのかね?
「フン! アキラ殿が一体どれだけの兵士、ハンター、病人を救ったのか?またその者たちが養っていた家族を救ったのか分からんわけでは無かろうに! 気にすることはないですぞ。」
話を聞いてた武官連中も憤慨し、俺を励まそうと話に加わる。
「はい お茶だよ。アキラの坊や。 それにしてもホント今更だね?」
おばさんも心配して態々、茶をつぎに来てくれる。
「市場を一度混乱に陥れた前科あるしね~アハハ。」
「ああ あの露天で売ってた時ですな。 小官も当時、あの長い行列を部隊を引き連れて並んで買いに行きましたぞ。」
「あの頃はアキラ殿のおかげで文官の我らも仕事に追われましたぞ。」
「あっはっはっは 一個も言い返せんな。 でも俺も考えや覚悟なしに技術を放出してる訳じゃない。
・・・・・・新しい料理を出すときも、薬を出すときも、技を伝授するとき、つまり誰かに教え、世に公表するとき俺は共通してすることがある。」
その場にいる全員が耳を傾ける。
「例えば超うまそうな料理を作った。 みんなは誰に食べさせる?誰に食べさせるのが正しい?」
出てきた答えは、子供だったり、妻だったり、飢えた人だったり答えはまちまちだ。
「アキラ殿? それは人によって答えは異なるのでは?正答と言われましても。」
文官が困り顔で聞いてくる。
「ふふふ 実はちゃんと正答がある。料理長! あなたなら誰に食べさせる?」
話を聞いていたのか、料理長のエリクさんがしたり顔でこう答える。
「自分だ。美味そうな料理なんだろ? 未だ美味いか不味いかなんてそんな不確かなもんを出すわけにはいかん。」
「オッチャン 正解。 是れは不確かな新薬、新術、新法案にも言える世に出してはいけない、先ずは自分で試さないといけないってことだ。」
オォォォと感心と尊敬の意が俺と料理長のオヤジに注がれ、オヤジは照れくさくなって調理場に戻っていった。
「ということはアキラ殿もあの新薬や携行食をご自分で試されたのですか? 臨床実験も?」
「ああ 始めてポーションや硬い黒パンを飲み食いした時、ごっさ不味かったから、なんとか試行錯誤して作った後、自分で毒見、味見をしてから世に出した。 スキルを編み出したときも同様だな。」
なんせ自分の命だけでなく、他人の命をも左右する技術だ。 石橋を叩きすぎることは無いだろう。
「この逸話を今月の国営舞台演劇場に上演したら騒ぎも治まるし、国庫も潤うのでは?」
其れを聞くと文官、それも財務と広報を担当するものが嬉しそうに眼を光らせる。 もうどれだけの収益が入るか計算しているのだろう。 しかも七英雄の実体験をもとにした話だ。 儲からない訳がない。
「早速手配しましょう。」
「ハハハ ではよろしくお願いしますよ。 ごちそうさま。」
茶を飲み干し、席を立つ。さあて午後の予定はっと。