29層「選定の森」
お久しぶりです。
今年、最後の投稿です!
来年も異世界攻略のススメをよろしくお願いします!
~学園迷宮29層~
安息日も日が落ち始め、アキラ達が王城で過ごしている頃。
下々の者たちは28層までの攻略に成功していた。
迷宮攻略初日に1層で全滅を繰り返した事を考えれば驚くべき成長といえる。
アキラが魔改造した学園迷宮は攻略される事を前提にしているとはいえ、難易度は決して低くない。
10層まで攻略できるなら冒険者や修練者としてやっていける。
20層を超えれば士官も夢ではないとガリアでは認識されている。
30層への到達は彼らに輝かしい将来を約束してくれる成績、武勲となるのは間違いないだろう。
期せずして死神や戦女神……もとい謎の転校生との史上最大の体術の死闘
高レベルの冒険者や引退した軍人を特別講師として招致し研鑽を積んできた。
食堂で猛威を振るう暴食魔王によりハングリー精神も鍛えられた。
そしておきて破りの20層の守護者と30層の守護者との連戦は確実に彼らにとって大きな経験となった。
候補生達はその戦果と将来に沸き立ったが、中には浮かない顔をしている者もいた。
アリシアである。
名門・マイヤール公爵家。
王族でありながら、最強の部門の一族。
学生でありながら士官候補生では無く王女付きの武官。
間違いなく10代の若手では最強の位置にはいるであろう。
だが彼女はこの世界の広さを知っている。
師匠や姉、妹といった自分の身の回りでさえ、常識を超える化け物揃いなのだ。
世界最強に恋敵認定された時など死を覚悟し、自分の矮小さに震えたのだ。
(私は未だ七英雄級の強さには届かない。)
自分の迷宮での修練なぞ児戯にも等しい。
これでは足りない。
未だ届かない。
階位、武器、技術、仲間。
特にカグヤに至っては全てにおいて遥かに劣る。
どれだけ鍛えても脇役では主役には勝てないという劣等感が渦巻いていた。
そして突如現れたアキラとカグヤの娘を自称する守護者の存在に暗鬱とした感情が広がり始めた。
(このままでは必要とされなくなる。)
そんな考えが過る度に師匠から教わった源呼吸と譲り受けた木刀の柄を握りしめて心を落ち着かせる。
そうだ常識で考えてアキラとカグヤとの間に娘がいたとしてもあの大きさの子供はいない。
年の頃も自分と同じか少し下だろう。
だが、七英雄の中でも特に常識を平気で覆す二人だ。
妊娠期間とか年齢とか全て無視していきなり成長した子供を作りかねない。
だとしたら自分の価値は?
身分や家柄? 今や大陸の半分以上を支配するカグヤに対して自分は一国の公爵家の次女。
容姿、器量? 相手は女神すら裸足で逃げ出す美貌だ。自分もいい方だが比較する方が可笑しい。
実力? 比べる事すら烏滸がましい程に開きがあるどころか彼女の娘(仮)にも一歩劣る。
負ける要素、は枚挙がない。
勝っている所を探すのが困難だった。
今になって彼我の膨大な戦力差に呆れる。
(だけど、私は諦めない。嘗ての師匠の様に)
アリシアは師と同じく劣等感と焦燥感に襲われながらも決して折れな心と凍てつくよう瞳と思考を取り戻すし、29層への攻略へと意識を切り替えた。
◆◆◆◆◆
彼女の眼下に広がるのは剣の樹海だった。
けん、ケン、剣、ソード。
洋の東西、聖、魔を問わない程の多種多様な剣が森中に突き立てられている。
魔物の気配は無く、あるのは剣が発する気と魔力のみ。
まるで剣を恐れて魔物が近寄れないと錯覚させる程の気配をそこらじゅうから感じ取る。
弱卒ならその気に呑まれ、高揚するだろう。
騎士団と暗部という表裏合わせた現場での経験と自分の源呼吸が自分には無駄だが。
今、未熟な者たちには共通した欲求がめぐっている筈だ。
――強い武器が欲しい。
元々武具大会に向けて準備し調整している面々だ。
御誂え向きに強力な魔剣を迷宮で手に入れたい欲求もあるし、それ目当てでもある。
鍛冶屋や武器屋にもっていって戦利品を自分用に打ち直した武器も参加用の武器に使える。
ここが師匠が作った迷宮で、この階層の剣は明らかに罠だ。
しかし罠だと分かっていてもこの階層の剣の魅力には抗いたいものがあるのだろう。
剣の魔力に当てられ、退路も活路も塞がれてしまっている。
最もそんな魔力を物ともしない猛者が自分の周りには少なからずいる。
「罠だな。食券を5枚、賭けてもいいぜ。」
風紀委員長は一言で切り捨てた。
賭け事は役職上どうかと思うけど。
「罠以外無いでしょう。嫌な気配もします。」
山育ちも、同調した。
彼女は五感に加えて第六感も優れている。
猟師故に剣に魅力を感じないのも大きい。
「罠以外あるのか? 21層ですらセオリーを破って守護者が出たぞ。」
彼の上司にして私の師に対する評価が正当か不当かはともかく……
先輩二人の意見に同意する期待の新人君。
「罠で正解ですよ。私にとっては格好の修行場になりますね。」
罠で間違いないが【神眼】の判定では罠にすらならいと太鼓判を押す姉弟子。
うん、彼女も化け物の領域に片足を突っ込んでいるから驚きは無い。
「罠以外あり得ません。正面から潰す事に変わりありませんが。」
罠と知って尚、正面から突破してみせると豪語するのは副会長の私、アリシアだ。
私たちは罠と知りつつも、敢えて周りには助言はしない。
様子見、見極め、呆れ、無関心、警戒と胸中は様々ではあったが自分たちは切磋琢磨する間柄である士官候補生。
技術を研鑽する事はあっても自分たちが磨いた刃を鈍らせる様な者に掛ける言葉も指し伸ばす手も無い。
武器の魔力に充てられ、欲に駆られて規律を乱す様では師匠……アキラの舞台には立てない。
「俺、あの武器もらい!!」
「ちょ、だったら俺は如何にも聖剣っぽい剣で!!」
「ふ、どうやら暗黒黙示録が始まった様だな。」
我先にと突き立てられた剣へと群がるのは経験不足の思春期な新入生。
彼らは易々と抜けた、自分たちの新たな武器を手にする。
喜色の声が森中に上がり始める。
一方、近衛騎士のアリシアを筆頭に王立学園の中でも上位一桁の成績の士官候補生が4人。
後に、私たちの間で選定の森と呼ばれる事になる階層での攻略が始まった。
さて、あの剣を抜くことでどんな罠が起きる事やら。
仕掛け人がアキラである以上、碌な事は起きないでしょうけど。
その予感は間違いなく、的中し安息日の最後の試練の幕が下りた。
公爵家次女( ゜д゜)「強くなって、今まで以上にきれいになってカグヤさんに勝って見せます!!」
謎の大和撫子(*‘∀‘)「何時でも掛かってきてね~ 娘と一緒に遊んであげます~」
公爵家長女(; ・`д・´)「姉に勝る妹などいません、私こそが最初にして真のヒロイン受付嬢です!」
公爵家三女(川゜д゜)「カグヤと姉上を焚き付けたのじゃけど……やりすぎたかの?」




