生徒の癖に生意気だV3
お久しぶりです。
更新します。
王立学園・地下迷宮
王立学園の生徒、職員が利用する訓練用の迷宮。
石造りの遺跡を思わせる迷宮で、数々の魔物、罠が挑戦者を待ち受ける。
近々、起きる活性化シーズンと闘技大会に備えて鍛錬に励む生徒達。
そんな彼らに漸く学園迷宮の調整が終わったという知らせが届いたのだ。
今まで演習場や訓練場での鍛錬で基礎能力や技術の熟練度を上げてきた成果を試すことができる場が開放された為、意気揚々と生徒たちは学園迷宮に集った。
以前の罠や魔物の配置は、ある程度把握し、以前より強くなった自分を試したい。
そんな思いを胸に多くの生徒が地下迷宮に挑戦していた。
その中でも最前線、最も深くの階層を進んでいる生徒たちがいた。
◆◆◆◆◆
〜地下迷宮 第十階層 守護者の間〜 フィオナ、アリシア組
「久々の迷宮実習なのに浮かない顔ですねアリシア。」
魔素となって消えていく十層の守護者の残滓を見ながらフィオナは同級生に話しかける。
防御力に優れた王立学園の制服。
人間二人分の体積まで物品を詰め込めれる空間圧縮の鞄
弦に番えた元素、魔素を弓矢に変換して放つ魔弓。
魔力を増強させる効果を持つ魔石を嵌めた小手。
死都、学園迷宮で揃えた一級品の装備。
装備を完全に使いこなす為に技量と練度を鍛え。
魔物や迷宮の特徴を座学で学んだ知識と知恵。
学園迷宮で幾度の仮の死と挫折を乗り越え、獲得した精神力。
フィオナは心身共に、前学期と比べ飛躍的に成長した。
「いえ、師匠が設計したのです。用心しすぎるとい事は無いでしょう。」
だが相方はそれに満足しない。
強くなった事で決して慢心はしない。
この迷宮の製作者が自分の師匠ならば油断、慢心などあってはならない。
「や、でもその装備は幾らなんでも……」
「はい?」
フィオナは改めてアリシアの格好を見る。
彼女が来ているのは制服では無い。
無骨な黒い全身鎧。
武器は神獣の霊力を宿すと言われる【破魔の剣】の模造品
訓練用の装備ではない。
単身で魔王城にカチコミをかける勇者の装備である。
そんな考えが表情に出たのだろう。
黒騎士がため息を付きながらフィオナに詰め寄りガシッと両肩を掴む。
「いいですかフィオナさん。師匠の迷宮内では常に最悪を想定して挑んでください。」
「え、ええ。」
「師匠は必ずその想定の少し斜め上を行きます。」
黒兜の隙間から薄暗く光る眼に気圧され、フィオナはコクコクと頷く。
首肯する他無かった。
「加えて|乱入者が現れないとも限りません。」
「あ〜〜」
そして納得した。
その言葉にフィオナはアリシアの完全武装にようやく理解出来た。
気を引き締める。
ガリアには現在、七英雄が集結しつつある。
事が起きるのは闘技大会か狩猟祭だろうが、今、迷宮で何が起きるか分からないのだ。
以前、十階層で乱入した例もある。
そしてそれが可能な人間に心当たりが多い。
「申し訳ありません、森と違って迷宮を舐めてましたね。」
「分かってくれたらいいんです。」
〜十分後〜
ポーチから取り出した完全装備に身を包んだ戦姫が二人、十一階層に現れた。
◆◆◆◆◆
11階層からは、雑魚魔物が増えるが、罠の類は一切無くなる。
しかしそれでも油断ならないのが、アキラ仕様のダンジョンだ。
ここから先に出てくる魔物が厄介なのだ。
彷徨う鎧
動く石像
悪魔像だ。
全ての魔物が防御力が総じて高い石像系の魔物。
この迷宮ではやられても死に戻りはできる。
四肢の欠損や命を失う様な後遺症は残らない。
しかし、消耗した武器やアイテムは二度と帰ってこないのだ。
固い装甲を持つ魔物に剣は刃毀れし、最悪、折れる。
魔法攻撃主体で挑めば魔力と魔力回復薬の消耗する。
止めが、二つ目のボス部屋。
このボスの間は挑戦者の総合レベルに応じた強さのゴーレムが召喚される。
機動力を捨て、攻撃力、防御力を高めた対魔煉瓦製の土像。
腕や足を自在に剣や槍、盾に変えて襲いかかる水銀人形。
高い機動力、飛行能力を備えスキル【威圧】を持つ悪魔像。
因みにこのゴーレムの間の仕組みを聞き、
女性メンバーのみで入った場合に自分の分体である自動人形を召喚する様に申請した馬鹿がいた。
男性の方の責任者は笑いながら許可したが、女性の方の責任者が断固拒否した事は割愛する。
経験値は美味しい、しかしそれ以上に武器の消耗、魔力消費量を考えれば旨味は少ない。
硬い防御力を超える物理攻撃力を持つ。
武器を消耗させずに攻撃できる技量を収める。
しかし、生徒レベルで正面からこの魔物を超えるのは難しい。
この階層を超えた時、生徒は一段上の強さへと上がるだろう。
あらゆる面で挑戦者に消耗を強いる階層。
制作者の性格の歪み具合が眼に見えてわかる厭らしい階層だ。
如何に消耗せずに進めるかが、この階層の攻略に繋がるのだ。
故に、生徒たちは工夫を凝らす。
自分たちにあった攻略方法で、王立学園で学んだ知識と自分の力を信じて挑む。
武器を使わない徒手空拳で、能力低下魔法で、対非生物型の装備で挑む。
これが正攻法。
もう一つは邪道。
アキラが使う戦法に【裏技】がある。
ゾンビ系の魔物には回復・治療系の魔法と道具
石像系の魔物には石化治療系魔法と道具。
もし生物が毒にかかれば解毒する手法は生物を生かして毒素を消毒する事だ。
つまり毒そのものを消すならば、毒素が主成分の魔物に解毒魔法を掛ければその魔物は一撃で消滅する。
嘗てガリアの内覧時に出てきた王墓の巨像は、石化治療系の道具を打ち込まれ
石として存在出来なくなり、存在概念が破壊され、消滅した。
故にこの有名すぎる逸話を知る生徒は石化治療系の魔法か道具を便りに攻略する。
結果、少なくない魔力と資金が消耗する。
苦労して倒しても経験値から考えれば割には合わない。
これこそがアキラの二つ目の罠である。
因みに石化治療系の巻物と道具は値段が急騰している。
アキラの罠である。
この事実を知ったマリアは以下の様なコメントを残している。
「大人って金にきたねーっす。」
◆◆◆◆◆
「微温いですね。」
「油断は禁物ですが、この階層で消耗を抑えれたのは行幸でしたね。」
全く消耗せず、二十階層の入り口に辿り着いた二人組。
狩人と元・暗部である。
道中の雑魚を正面から逐一闘うのは愚の骨頂。
たたかう 武器が消耗する
まほう 魔力が消耗する
どうぐ 道具が消耗する
にげる 消耗なし
つまり「にげる」が勝ち。
戦闘せずに回廊を抜ける事が正解。
気配を消して獲物を仕留める狩人と元・暗部。
彼女たちは【隠密】系スキルを豊富かつ、高水準に習得している。
故に、二人にとってこの回廊は散歩コースにすぎない。
仮に見つかっても【瞬動術】や【縮地】といった移動系スキルで逃げてもいい。
無駄な戦闘の回避。
これにより、武器、体力、魔力、道具の消耗は比較的にゼロである。
そして温存した武器、体力、魔力を持って二十層のボスも瞬く間に突破。
「兎に角此処からですね。」
「ええ、二十一階層、此処からが狩場にして」
武器を消耗せず、魔力も消費せず、道具も使わず、体力も温存した戦姫は二十一階層へ足を踏み入れる。
―――生徒の癖に生意気だ。
そんな声が迷宮に響いた。
次回、本章の主人公,s 登場……




