祭りの主役達
前章のあらすじ
洗脳勇者が死神に呪いを掛けた。
死神は勇者の能力を封じた。
死神は羊飼いの女性と合コンに出かけた。
死神は悪巧みを始めた。
―――迷宮は千年の眠りから覚めた。
―――主役不在の幕間劇は終わりを告げる。
―――舞台は真実を隠す迷宮
―――守護者は一人
―――宝は一つ
―――最深部にて賢者を待つ。
―――さぁ千年前の続きを始めよう。
◆◆◆◆◆
---アキラ視点---
活性化シーズン到来!!
ガリアの宿場町は例年以上に観光客や冒険者、商人で賑わっている。
魔物には発情期に近い活性期がある。
夏の終わりから秋の始まりに掛けて一部地域では魔力濃度が上昇する時期がある。
その際、魔力を多分に含んだ霧や塵が大量に発生して魔物の数と獲得経験値が大幅に増加する。
ゲームで言うところのボーナスステージか、初心者救済の経験値増加イベントだな。
だが、現実でやられると災害以外の何者でもない。
その災害を収穫祭に変えてしまうのだから、この世界の人間は逞しいな。
そして特に活性化が激しい国が2つある。
ガリアとロマリアだ。
ガリアは豊富な魔石の鉱脈を持ち、この時期、良質な魔石も採掘される。
加えて迷宮からなる狩場も豊富なので主に冒険者が参加する。
ロマリアは修練場と闘技場で修練者と騎士が参加する。
狩場で上げたレベルの腕試しを行う為、毎年この時期はどちらの国も騒いでいるそうだ。
冒険者や騎士は優れた経験値、優れた武器と名声を手に入れる為に狩猟祭と
商人や職人は狩猟祭で集まる素材と武具の制作技術の発表会
冒険者が狩猟祭で集めた素材で武器商は装備を作り、
その装備を闘技大会の参加者に渡して自分の店の宣伝も行う。
更に優勝者には賞金と店から預かった武器が送られる。
武器商は他の参加者が持っている武器を全て送られ他の店の武器製造技術を独占出来る。
因みに昨年までガリアの優勝者の剣を提供しているのはルー達『白い悪魔』だそうだ。
彼女達は表向き、武器商人として動いている。
ルーは勇者の武具の第一人者なのだから毎年、伝説級の武器を出すらしい。
それらを求めて、世界中の冒険者や商人が集まるそうだ。
まぁ、結果的に白い悪魔の面々がローテーションで武器と選手を毎年変えて出場する。
そして優勝と参加者の武具を掻っ攫っていくそうだ。
ガリア側では優勝の常連さんだ。
因みに帝国でも似たような催しがあったそうだが、割愛する。
ただ、カグヤのお膝元ではしゃぐ命知らずの魔物は巣ごと絶滅したとだけ、言っておこう。
そして俺はというと昨年シーズンはどれも不参加だ。
去年はコソコソ暗躍したり、レベルも上げ終わっていた為、狩猟、武闘大会には参加せず
金も名誉も特に欲しくないのでパスした。
去年の大会も戦争ムードだった事もあってそれ程、魔物駆除、戦力増強の為に狩猟祭は行われたが、
戦力を隠すために参加者のレベルが下がり、闘技大会はあまり賑わなかったらしい。
だが、今年は俺の活躍で停戦条約が結ばれた為、昨年の鬱憤を晴らす様に猛者が集っているそうだ。
そう、活性化シーズンはお楽しみが満載な時期なのだ。
冷戦中でも各国を牽制する意味合いで猛者が出てくるのだ。
そして猛者と同時に選手や観光客の中には美女も世界中から大勢集まる。
魔族や魔女、ガリア系クルト民族に対して偏見を持つロマリアを避けてガリアにやってくる。
現在は活性化中、大会の最終調整の為に各国から色んな奴らがやって来る。
最終調整済みの学園迷宮でOMOTENASHIしてくれるわ。
召喚者共め、来るなら来るがいい。
来ないなら此方から乗り込んでくれるわ。
◆◆◆◆◆
---ルー視点---
「さて、今年、我が社が出す選手はどうしようか?」
私の目の前には一騎当千の猛者が集まっている。
元・悪魔の巣窟のメンバーにして現・自由の槍の構成員にして、最強の私兵だ。
「ベル君でいいんじゃない?」
「確かにベル坊だけねぇ新人だしいい経験になるんじゃないかい?」
「いいよ、面倒くさいし」
気だるそうに机に突っ伏し辞退を申し出たのは当事者
白髪褐色の肌、王立学園の制服を纏った美少年、我が社の新戦力、ベルゼ君だ。
潜在能力は七英雄に匹敵するんだが、
現在、スランプ中というか壁にぶつかっている。
ま、原因は知ってるけどね。
ウチの専務であるアキラが原因だ。
夏の終わりにアキラがいきなり上司になり、夏のバカ騒ぎでアキラに負け、
学校の方の訓練でも体術訓練で負けてちょっと不貞腐れている。
止めに自分の好きな娘が自分の上司に惚れてたらね~
でも、この子の成長の為にも焚きつける事にしよう。
「んふふ~ そんなベル君に朗報です。 なんと優勝したベル君には豪華、二泊三日ブリタニアの離島旅行ペアチケット~
クレアちゃんと二人きりで行けるようにセッティングしてあげよう~」
「……丁度、暇してたし、いいよ。」
うん、子供は素直でイイね。
「はっはっは専務に恋路で負けるなよ!! ベル坊!」
「つーか、専務は誰を出すんだ?」
「専務はあれだよ、自分の弟子を出すって話だ。」
「あ~マイヤールの姐さんとこの妹ちゃん?」
「ベル坊でも専務の弟子じゃ分が悪いか?優勝しねーとデートはオジャンだろ?」
「俺はベル坊の優勝に今月の給料を賭けるぜ」
「おお、じゃあ俺は専務に銀貨5枚」
何時もどおり、専務と新人で賭け事を始める社員たち。
「さて、そんなベルゼ君の為に私から選別だ。」
そう言って、白い小手をベルゼに渡す。
見た目は素朴でシンプルな品だが、今のベル君にはぴったりの装備だ。
「先ずは狩猟祭だよ、しっかり修行して素材を集めて我が社に貢献してくれたまえ、ベル君」
「分かった。」
さて、ベル君の恋路の応援はともかく、問題は勇者一行だな。
彼らはどう動くことやら。
◆◆◆◆◆◆
---???---
『出番だよ。■■』
主様がボクの名前を呼んでる
ふるふると首を振る。
外は怖いものばかりだ。
――出たくない
ここでモクモクと仕事に勤しんだほうがいい。
そう主様に訴えかける。
『■■、確かに外は怖いものでいっぱいだ。でももうすぐ祭りが始まるんだ 千年越しの祭だ。』
――お祭り?
『ああ、楽しい事で一杯だ。しばらく仕事も休んでいい。』
――いいの?
『嘘はつかない、だってお祭りなんだから主役がいないと始まらないだろ?』
――主役? ボクが?
『ああ、これはご褒美だ。君が望んでやまなかった世界を楽しんでおいで。』
――でもお仕事が。
『ノルマは充分集めたよ、だからその分、しっかり遊びに行きなさい。』
主様のその言葉を信じて、ボクはオズオズと外へと歩き出す。
『いい子だ。 ■■。』
扉を開けると、主様が何時もどおりに微笑んでボクに向かって手を伸ばしていた。
視界にはいっぱい、人がいる。
『――さぁ千年前の精算をしようか、勇者と修練者』
主様のそんなつぶやきが聞こえた様な気がした。




