エルフの聖女と優しい死神 後編
修正完了
さらっと伏線回収。
~ティファニア視点~
アキラさんが泊まり込みで修行に来て数週間が経ってから、
懺悔室が盛況になりました。
誰の相談を受けたのかは言えませんが…
時には、
『子供たちが俺の事をお兄さんではなく、おじさんという。どうしたらいい?』
「あの子達は親を亡くしていますし、マグドレア神父は見た目はお若く見えますからお兄さんという感じですし……その、父親替わりとして慕われているんですよ。」
『……それ、フォローになってないんじゃ?』
と助言し。
時には
『娘が可愛すぎるんだけど、どうしたらいいのだろうか?』
「取り敢えず、仕事に戻ってください。
娘さんにも嫌われますよ?」
『!?』
と、親バカ化し、仕事を放棄している神父さんを窘め。
時には、
『えっとですね?
年上で黒髪でちょっと怖いけど、本当は優しいおにいさんと結こ
…じゃなくて、えと…その…気になって……
えと、お付き合い…じゃなくて、もう少し仲良くなりたいんです。』
「調理や調合の時に、お手伝いにいけば、仲良くなれる時間が増えますよ」
『あ、ありがとうございます。』
微笑ましい恋を応援したり。
『最近、クレアの周りにいる黒い男をとにかくぶん殴りたい…』
「…えっと、暴力で解決しては好きな娘に嫌われますよ?
邪魔者を排除するのではなくて、此方に振り向いてもらうように努力した方がきっと女の子も振り向いてくれます。」
『……わかった。』
と、古代人の末裔?の少年の暴走を止めたり。
『なんだか、運命というかすれ違いというか…会いたい人とニアミスばっかりしてる気がする。』
「大丈夫です…本当に逢いたい人ならきっといつか巡り逢えますよ。」
と、いつもの女神さんの愚痴を聞き、勧誘をやんわりと断ったり。
時には、
『最近、姉分と妹分の胸のサイズがまた大きくなって恨めしい……というかどうやって育てたの?』
「そ、育ててません!!」
『ほう…余裕か?それが、王者の余裕か?』
「ひう、あ、あの!!」
などと忙しい日々が続くのですが、ある日、事態が急変しだしました。
アキラさん、神父、クレアちゃんの三人が霊気を纏い始めたのです。
◆◆◆◆◆◆
命に宿り、白魔法や武術の際に消費する『生命力』
万物に宿る魔素で理を捻じ曲げ、黒魔法に使う『魔力』
そして、それらを融合させる精霊の力『霊気』があります。
霊気とは精霊の力とも呼ばれ精霊、霊獣(召喚獣)、妖精が持つ力であり、精霊魔法の源でもあります。
霊気を持つ者は黒魔法、白魔法を超越する技法を持ち、相反する力を融合した力である霊力故に、魔力、生命力共に高く。
不老、無詠唱、呪いの無効化、無尽蔵のスタミナなど様々な特徴を持ちます。
そして、最も恐ろしい霊気の使い手は精霊でも、霊獣でも私たちエルフでも無く、ヒュムです。
ヒュムが霊気を纏いだしたのも、霊気を持つ者たちに対抗する為に光属性と闇属性魔法に磨きを書け、様々な実験や研鑽、修行を積んだことが始まりとされています。
その為、生まれながらに霊気を持つエルフや精霊と異なり、ヒュムは長い歴史による血の積み重ね、交配、隔世遺伝、長年の修業の極地の果に霊気を体得するケースが多く、その力を戦いの手段として練度を上げてきた為、並みの使い手と比べ、強大な力となって顕現する例があるのです。
その為、霊気を持つヒュムは歴史上で英雄、賢者、仙人、天才等と呼ばれます。
その中でもガリア、ブリタニアの王族であるクルトの民は
霊気を持つ精霊、霊獣を自身に憑依させ戦う術
『精霊化』『悪魔化』を使い、一人で国家を相手に出来る程の力を有したと聞きます。
霊獣の系譜の者は【獣化】という先祖返りに近い、変身能力を持ち召喚獣に匹敵する戦闘力を行使出来ます。
他にも武器や道具に意思や魂を込められた霊具、神器、魔道具を霊気の力で高め、引き出す技能をロマリアの高い霊力と強力な固有スキルを持った聖人は、時に【勇者】として崇められたりします。
ヒュムの身で霊気を操る術は大きく分けて三種類
1.霊力を持つ者と契約関係を持つ。(召喚師、精霊巫女が該当)
2・精霊因子を体内に宿す。(大精霊、霊獣の子孫 クルトの民、聖人、人狼)
3・悟りを開くほどの修業、経験を積む(賢者、達人、仙人)
クレアちゃん1と2が該当する為、今迄も無意識に使っていました。
神父は元、武闘派の神官で、過去、色々な事を経験し悟りを開いていた為、不完全ながら反発せずに黒魔法、白魔法を扱えていました。
今回のアキラさんのアイデアでヒントを掴み、霊気を御せる様になったのでしょう。
問題はアキラさんです。
精霊因子も無ければ、契約した痕跡もありません。
通常、契約して得た霊気はその精霊、霊獣の属性を表す色があります。
ですが、アキラさんの霊気は無色、湯気のような透明な何かです。
これは彼自身が契約して得た霊気ではなく、自身で編み出した霊気である事の証です。
精霊因子の有無ですが霊気を持つ者ならある程度、『霊感』が働きますし、『霊視』で見分けれます。
何せトゥールーズのギルドに所属する上位メンバーは
エルフ
霊獣の系譜
クルトの民
賢者
これらの霊力を持つないし、潜在的に霊力を持つ者が多く所属し、そのメンバーの裏の仕事に霊視、霊感で精霊因子の保有能力者…とりわけクルトの民を見つける任務を全員が負っているのです。
つまり彼がギルドに登録し、教会の仕事など雑務に就いているということはクルトの民であるリィーンさんの『霊視』とギルドカードで既に精霊因子があるかどうかを測定済みの筈です。
他にもハーフとはいえ、エルフである私も感知できない以上、エルフでもありません。
霊獣の子孫であるナタリアさんや霊獣の系譜のガコライさんが反応しないため、霊獣の系譜でも無く…
賢者であるアニさんは……彼とその料理、調合した薬に興味を持っていますが、霊力を持っているという報告をギルドにしていませんので、賢者ではないでしょう。
なにより、黒魔法、白魔法を習得せず、魔力量が少ないアキラさんではアニさんでも感知できなかったのでしょう。
ガリアは表向き死都、王墓、魔の森、黄泉の入口、竜の墓場といった霊的な力の強いダンジョンなど優秀な狩場がある国と認識されていますが、実際はレベル上げの他に、悪霊や精霊、不死者など、霊的な力を有するダンジョンの探索、調査依頼をギルドが管理するのも、霊気を持つ者を選定し、霊気持ちの人材を強化、育成する為の巨大な修練場でもあるのです。
只の雑務クエストですら、
潜在的に霊気を持つ者を調べる為に大精霊の血を引く聖人の一族が運営するマグドレア教会での仕事を紹介するのですから徹底しています。
なのに、リィーンさんはアキラさんに何か霊感に引っかかりを感じたのか、軽い監視を行う程度の対応。
クルトの民の可能性は極めて低い…でも、潜在的に霊気を持っているか、余程、強力な固有スキルを持っていると見て、裏任務に当たる物にそれとなく注意を呼びかけています。
霊感に今迄かからなかった事から考えれば…
3 潜在的賢者
つまり、修業乃至それに準ずる経験を積んだとで悟りを開き、賢者へと至ったという結論に至ります。
でも、長年、魔道に携わり、色々人生を悟った老いた老魔道士ですら賢者になれないのに、魔術を習ってひと月も経たず、初級魔術を習得したばかり(それでも異常な習得速度ですけど)の彼が賢者になれる筈がありません。
……過去に悟りを開くような凄惨な経験をした?
懺悔室ではアキラさんは老け顔を少々、気にしていましたが、声音からそんなに気にしていないのは感じましたから、それはありません。
グレアム神父も、ロマリアで当滅者、異端審問部所に在籍していた為、壮絶な過去を経験しているのは想像に難くありません。
そんな彼よりも、若いのにも関らず三人の中でも強力な霊気を宿しているアキラさん。
額に刻まれた憤怒の跡の様な皺と鋭い眼光。
その瞳は懺悔室にくる人が時折見せる絶望の色が時折みえるのです。
一体、過去にどんな経験をしたのか……でも私から聞き出すことはできません。
彼が話してくれるまでは……
普段みせる彼の笑顔は語らず。
只々、悲しい程に強力な霊気と目の色だけが彼の過去を物語るようでした。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆
~???視点~
怪我を負った。
再起不能となる程の負傷。
周囲から哀れみの視線に嫌気が差し、俺は現実から目を背ける為にゲームや小説など二次元に逃げた。
代わりになる物として求めた結果だったし、次第に心の傷も癒えるかと思った矢先に悪夢を見出した。
読んできた創作物の影響か、夢の中では俺は異世界ファンタジーの主人公で、何でも出来、周囲からは故障する前の時みたいに賞賛を受ける日々を過ごした。
違ったのはスポーツでの功績ではなく、戦争での武勇での賞賛だった。
子供たちの憧れのヒーローというのに代わりは無かったが、人殺しに憧れ、笑顔を見せる子供たちを直視できなくなった。
そして、悪夢の始まり……
他国にいる戦友にして無二の親友が策略に嵌り
軍を率いて国を、俺を魔王として討伐する為に攻めてきた。
彼の妹との婚儀を控え、体の弱い妹を守るために、国民の笑顔を守るために、涙を流しながら戦い抜いた。
兵士を殺める度に、その家族の泣き顔が浮かび、俺の心は傷だらけになっていく。
そして、心身ともボロボロになった俺に涙を流しながら俺の胸に聖剣を突き立てる親友。
遠くで聞こえる妹と婚約者の悲鳴が聞こえる中、全てが闇に染まり、最悪な気分で目が覚める。
涙を流しながら、最悪な気分で現実の故障した俺の体を見て、余計に陰鬱な気分に陥る。
この繰り返しを何度か経験する内にゲームのコントローラーを捨て、パソコンを閉じ、何故か俺は再起不能になった体のリハビリをしていた。
全てを手に入れた後、上げて落とす、世の理不尽は現実でも夢でも変わらない。
夢さえ見させてくれないなら現実に立ち向かうという結論に至った。
血反吐を吐き、人並みに堕ちた身体能力を練習量と情報収集、奇策で立ち回り、いつしか俺は頂点へと返り咲いた。
哀れみの視線や体の呻き声、嘲笑、負け犬の遠吠え、全てを無視した結果だ。
だが、やはり世界は残酷だった。
スポーツ業界でプロ入りが決まる前日…
俺に待っていたのは華やかな世界では無く
ルール変更、規制という、事実上の追放だった。
スポーツの世界においてルールを変えざるを得ない、反則的強さを持つ者はどのスポーツの世界にも存在する。
だが、今回の改正は明らかに俺に対する敵意が込められたものだった。
自身のこれまでの再起と軌跡をあざ笑う仕打ち、契約を一方的に打ち切った企業、再び嘲笑を始める世間を見て、俺は全てを悟り……
そして卒業式の夜…浴びる程に酒を飲み干した後、
俺はこの世界を見限った。
◆◆◆◆◆◆
ティファニア視点
アキラさんと出会ってから一年が過ぎました。
彼の霊気は留まる事を知らず、複数の大精霊、霊獣の霊気、極限まで高め、臨界にまで達した魔力と生命力で練り上げられた霊気を持つにまで成長しています。
漆黒の死神 賢者 魔王 七英雄
アキラさんを指す言葉が多く出来、彼の存在が世界中に知れ渡った今でも変わらない事があります。
彼は今でもこの教会に子共達に会いに私用で訪れるのです。
『子供たちの笑顔の為に…』
その言葉はとても死神と呼ばれる者の言葉では思えません。
そんな彼を見て、以前、思った疑問を口にしていました。
きっと今の彼なら大丈夫。
だって……
「賢者になれた理由? エロ本を愛読する事かな?」
「え~オジさん、ズルしてけんじゃになったのか?」
「僕もよみた~い!」
「あたしも~~」
「お兄さん!! 俺は未だ20代だから!! あと、その本は18歳になるまで読めないから、大人になってからな?」
子供達を窘めていると、怖~い黒の女神と白の女神が彼の両肩を笑顔で…なんとも禍々しい霊気を纏わせて掴みました。
「アキラさん? 浮気ですか? この前、処分しましたよね?」
「ほぅ? 是非ともその書物の内容を知りたいものだな? アキラ」
「うぇ!? い、いや…男性にだけ効果がある書というか、女人禁制の書というか…その… 【縮地】!!」
一目散に駆け出すアキラさん。
影に溶け込み、転移して追いかけるナミさん。
光の速さで追いかけるルー様。
「アキラさん!! 逃しませんよ!!」
「アキラぁぁぁぁ!! 神罰を当ててやる!! ソコに直れぇぇ!!」
「嫌だァァァァ。もう、女体化は嫌だァァァ!!!!」
だって彼を愛してくれる人と、子供たちの笑顔に囲まれているんですもの。
明日も更新します。




