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再来/Re:?

急展開超展開、大変お見苦しい展開になっております。

気が向いたらどうぞ。

 夜が更けていく。

 眠れたのはほんの数時間だけだった。

 深夜、三時。

 目は冴えてしまった。

 ああ、これからどうしようか。

 ……そうだ、外へ行こう。

 ただ、既知感を振り払いたくて、色々な悩みを吹っ切りたくて。

 家を出て、人気の無いほうへ。

 まるで吸い寄せられているかのように、俺は歩いてゆく。

 ……ああ、またか。

 最近の俺はどうも、レールの上をただ走っているって気がする。

 まあ、これが俺の人生だっていうんなら。

 もし本筋みたいなものに吸い寄せられているんだったら、このまま流され続けたっていいかもなんて俺考えていた。

 きっと、悩みを忘れるにはそれが一番いい。最適な人生、進むべき道へ、勝手にレールの上を走っていだけでいいんだから。

 さあ、この流れに身を委ねよう――。

 月が照らす夜道。光の道を、ただ既知感に任せて流れてゆく。

 ……そして、たどり着いた先は。

 「なんだよ、あれ……」

 抱き合っているかのような格好で、化物と人が路地裏にいた。

 人の首筋に噛み付いている?

 はは、まさか。

 そんなヤツ、存在するわけが――。

 (はあ、この期に及んでまだそんなこと言ってんのか……。アレはな、――だよ。お前が――べき相手だろう?)

 また。また強烈な既知感。

 頭の中に、情報が溢れかえっていく。

 ぎろり、と化物がこっちを見る。 

 恐怖なんかより先に その視線に反応したのは、

 「ぐああ……っ!」

 俺の胸だった。

 胸が……痛い……っ!

 ああ、なんでだろう。

 俺は、この化物を知っている。

 確か、あの夜に俺が殺されかけた――。

 ズキン、とした痛み。それに呼応するように撥ねる鼓動。

 あ、れ……?

 おかしいな、血が、チが、ちが、出てる。

 胸の辺りがぬるぬるしてる、あれ、おれ、ココで死ぬのか……?

 ……は、はは、ははははは。

 そう。少し前の夜、俺はこの化物に胸を裂かれて死にかけたんだった。

 一日記憶も飛ぶわけだ。こんな経験、誰だって忘れなきゃ普通に生きていけないだろうから。

 化物は、もうさっきの人間を投げ捨ててこっちに歩いて来てる。

 こつん、こつん、と路地裏に響く死神の足音。

 ああ、あの夜の忘れ物を取りに来たんだな。

 きっと、俺はここで、死ぬ。

 ……こいつに、殺されて。

 そうある種の諦観を抱いたその瞬間、頭の中にあの声が響いた。

 (死ぬわけ無いだろ、この馬鹿)

 (お前は、この傷の報復をしなきゃならないはずだ)

 (それまで……死ねない。そうだろ?)

 (――なあ……七瀬遥人?)

 「――ッ!」

 我に帰る。

 こちらに歩み寄ってきていた化物は――。

 視界がぶれ、背中に衝撃が走った。

 「が……ッ!」

 げほ、ごぼっ、と色々な物を吐き出してから、ようやく悟った。

 この化物は片腕で俺の襟首を掴み、行き止まりのほうへ投げたんだ。

 「小僧……見たな?」

 圧倒的な力の差。

 殺意。死の匂い。掠っただけで絶命する、それを本能が感じ取っていた。

 今のはきっと、俺を弱らせて確実に仕留めるための行いだったんだろう。

 じゃないと、俺が無事でいられるわけが無い。

 っていうことは……次の一撃で俺は、死ぬのか?

 あの夜、俺は助けられた。

 誰だかは分からない。

 ただ、誰に助けられたかは問題じゃない。

 その答えは、どうでもいい。

 俺は、生きている。あの夜を越えて。

 なら、導き出される答えは一つ。

 「――ああ……俺は、死ねない」

 殺されてたまるか。

 動け。動け。動け。

 命の在る限り動き続けろ。

 戦えとは言わない。

 ただ……足掻け。

 死にたくないなら、やるコトは一つだろうが――っ!

 直後、ズガン、と耳元で何かが爆ぜた。

 (避けた……!)

 俺は首を捻って避けたらしい。

 実感はないが、この首が繋がっているのが何よりの証拠だろう。

 反射的に横へ飛ぶ。

 今の攻撃ぐらいなら、死ぬ気で回避に専念さえすれば避けられる。

 威力は洒落にならないが、避けられない速度じゃない。

 ああ、こうなったらやるしかない。

 「今のをかわすか、小僧……。ははは!狩りはこうでなくてはな!」

 にいっ、と口を歪める化物。

 逃げ出す、なんて選択肢はとうの昔に消えている。

 (――大体、お前が吹っ掛けた殺し合いなんだからな)

 「……ッ!」

 頭に声が響く。

 俺が吹っ掛けた殺し合い?

 そんなわけあるもんか、俺は巻き込まれてるだけだ!

 「小僧……さて、この狩りはいつまで続くかな」

 肩で息をする俺に声をかけてくる化物。

 「はあっ、はあっ……殺されるつもりは、……ない……っ!」

 ゆっくりとこちらへ歩み寄ってくる化物。

 どうする?考えろ、考えろ、考えろ――!

 ポケットにはナイフ。

 一振り、静さんに貰ったナイフがある。

 武器になりそうなのはコレしかなかった。

 怖い。怖い。怖い。

 足が竦む。震える。下半身だけが自分のものじゃないみたいな感覚。

 だけど、思考を止めるわけにはいかない。

 ああ、考えろ。

 これだけでは心もとない。

 少なくとも、この状況は覆せない。

 ……いや、この場合は倒すことを視野に入れちゃダメだ。

 なんとか、アイツの隙を作って……。

 (今のお前には、まだ早い。逃げろ。それが『正解』だ)

 そう、逃げるんだ。

 隙を作れ。

 死中に活路を見出す作業だけを行うんだ。

 迷うな、恐れるな。

 ただ、冷静に――。

 (――そうだ。フォローなら俺がしてやる)

 胸の開いた傷が痛む。

 どくどくと現在進行形で血があふれ出している。

 背中も痛い。動けば動くほどに、俺の身体は悲鳴をあげる。

 早くケリをつけなくちゃ、コレはマズいだろう。

 「小僧。覚悟はできたか」

 あと5メートル。

 ナイフに手をかける。

 (――殺傷は望むな。怯ませるだけでいい)

 ああ、分かってるよそんなことは!

 コイツは正真正銘、人外の化物だ。

 彼我の戦力差は圧倒的。

 戦いにさえならない実力の差。

 正面からぶつかっても勝てない。

 そして、取れるルートは一つのみ。

 ……正面突破。それしか、ない。

 竦む身体に喝を入れる。

 退くな。退けば死ぬ。

 ただ、前に進め。

 この化物をなんとかして出し抜く手を考えろ。

 弱点を一つ。

 どんな生物でも等しく弱点となりえる箇所。

 探せ、探せ、探せ!

 心臓?ダメだ。俺の力で貫ける自信が無い。

 半端なダメージじゃ、きっと殺される。

 頭?いやだめだ、正解はココに無い。

 (――眼、だろう)

 そう、眼だ。

 いくら化物でも、目なら少しは刃は通るに違いない。

 そこから活路を開いてみせる……!

 無限に感じた刹那。

 有り得ないほどの速さで展開されていた思考は終わる。

 「さあ、足掻いてみせろ小僧!」

 野獣の咆哮めいた叫びとともに、化物がこちらに右手を繰り出してくる。

 左だ。冷静に、眼だけを狙う。

 胴が捻じ切れるのではないか、というぐらいの勢いで身体を捻り、前へ進みながら攻撃を回避する。

 「避けたか……!」

 化物の舌打ちとともに、言葉が聞こえた。

 ダメだ、他の音が聞こえるほどの集中力じゃあ。

 ナイフは右手に。

 視線は相手の左眼に。

 ただ、目標とそれを結ぶ道具に全意識、全機能を集中させる!

 「あああああああああああっ!」

 避けたが、胸が痛む。

 集中しろ。この一瞬だけでいい。気が狂ってもいい。

 ただ、生きるために――!

 (――ああ、そうだ。それでいい)

 右手のナイフを、化物の目に向かって振り切る!

 逆手に持ったナイフが左目をなぞる。相手の瞳が裂ける瞬間を確認。

 化物の咆哮を背に受けて、その後はただ走り続けた。

 路地を抜けて、商店街を抜けて。

 家の前にたどり着いて、玄関のドアを開けて――。

 ――視界は黒に。

読んでくれてありがとうございました。


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