ある日の日常/1
どうも、ナイフと少年第二話です。
しばらくの間お付き合いください(ぺこり)
心地よい浮遊感。
眠気を誘う暗闇。
そんな中に今、俺はいる。
一生ここから出たくないね。
なんてったって、今日は気分がいい。
久々に良い夢を見られたからだ。
ナイフを使って化け物と戦う俺。……俺だったっけ?
まあいい。
とにかくこの幸福感を一生手放したくない。
惜しむらくは夢オチだったということぐらいだろう。
と、いうわけで。
おやすみ――。
「二度寝は許さん」
「ぎゃあああああ!」
突如、脛の辺りに衝撃が走る!
あまりの痛みに思わずベッドから叫びながら跳ね起きる俺。
……跳ね起きる途中に綺麗な黒髪が見えた。
見慣れた風景だ。この痛みも、もう慣れかけてる気がする。
痛みが少し引いてから、起きあがる。
――毎朝毎朝、人の脛を蹴り飛ばしてさ……。
そう、眼で訴えかける。
見た目は綺麗なのに、どうしてこの世はこんなにアンバランスなんだろう。
綺麗な容姿には暴力は似合わないと思うんだ、俺は。
「起こしても起きなかった遥人が悪いんだぞ」
「確かにそうだけどさ……。そうだけどさぁ!」
もっと優しい起こし方があったと思うんだ!
そう続けようとしたが、無理っぽい。
見つめられていると凍てついてしまいそうな静さんの視線が恐ろしいから。
しばらく黙っていると、「よろしい」と彼女の口が動き、それまでの恐ろしい雰囲気が嘘だったかのようにニコッと笑って
「まあ、トースト焼いてあるから食べときな」
なんて言葉を続けてくれる。
「いつもありがとう、静さん」
まあ、さっきのについては未来永劫忘れるつもりはないけどね。
大体、『静』って名前が似合う人でさえない。
男口調だし。
……美人なのになあ。
「おう、感謝の言葉は大歓迎だからな!24時間体制で受け付けてるぞ!」
でも、まあ……と少し声を落として静さんが続ける。
「別に、私が好きでやってることだからな。申し訳ない、とかは思わなくていいんだぞ?」
「……優しいな、静さんは」
本当に彼女には感謝している。
彼女が言うには、「君の父さんに昔世話になったから、その恩返しだ」とのこと。
父さん……どれだけ徳の高い行いをしてきたんだろう。
「じゃっ、私は仕事に行って来るから」
「あいあい」
簡単に返事をして、去っていく静さんを見送る。
側に置いてくれていたトーストを一口。
「お」
思わず、声が。
なんでだろう。
……今日も、トーストが美味かったから、かな。
読んでくれてありがとうございました。