第11話:影を宿すもの
烈風のインパクト
第11話:影を宿す者
ガミジンを倒した翌々日のこと。雪山のボロ小屋に、突然学園からの超特急任務のホログラムが届いた。
『世界中で大流行している新作高級お菓子「悪魔のチョコタルト」の製造裏に、下級悪魔の密売組織が関与している疑いがある。甘楽琥珀、甘楽風船、直ちに現地へ向かい、組織を壊滅させよ』
その内容を聞いた瞬間、双子の目の色が変わった。
「ウチらの愛するスイーツを汚す奴らは生かしちゃおけない。ちょっと旅に出て、その悪魔どもを木っ端微塵に爆破してくるわ」
「お土産はタピオカね、烈風くん」
琥珀と風船は、いつになくやる気満々でゴスロリとパンクの衣装を翻し、あっという間に雪山を飛び出して行ってしまった。
こうして、戦力に二つの大きな穴が空いた俺たちだったが、ジジイはこたつに入ったまま不敵にニヤニヤと笑っていた。
「ジジイ、何笑ってんだよ。双子がいなくなって、次の三魔神が来たらどうするんだ?」
俺が文句を言うと、ジジイは鼻をすすりながら言った。
「心配するな。代わりに、面白い助っ人を一人呼んでおいたからのぅ。そろそろ来る頃じゃて」
その時だった。
ガタガタ、とボロ小屋の重い木製の扉が、微かに震えるような音を立てた。
外は相変わらずの猛吹雪。誰かが中に入ろうとしているようだが、緊張しているのか、なかなか扉が開かない。
「あぁ、きたかきたか。おい神凪の小僧、開けてやりなさい」
ジジイに促され、俺が不思議に思いながら扉へと近づき、ノブを引いた。
冷たい吹雪が室内に吹き込むのと同時に、一人の少年がもじもじしながら立っていた。
俺たちより一つ年下、中等部の制服の上に、サイズが少し大きめの黒いパーカーを目深に被っている。ボサボサの黒髪の隙間から、オドオドとした瞳がこちらを見上げていた。
「あ……あの、う、後ろ、失礼します……っ」
少年は寒さからか、それとも極度の緊張からか、小刻みに震えながらペコリと頭を下げた。
「お前、こんな雪山に一人で……。学園の生徒か?」
俺が声をかけると、少年は顔を真っ赤にして、さらに体を縮こまらせた。
「は、はい……! あの、高等部一年、Dクラスの神凪迅先輩……ですよね……っ?」
「え? 俺の名前を知ってんのか?」
「知ってる、なんてレベルじゃ……っ。あの、僕、学園の通信で聞いたんです。最低評価のDクラスの神凪先輩が、仲間たちと一緒に、あの空間を歪める三魔神ガミジンを、ただの正拳突きで粉突き破ったって……!」
少年は急に顔を跳ね上げると、拳を胸の前でぎゅっと握りしめた。その瞳には、隠しきれないほどの熱い憧れの光が宿っている。
「僕、魔力も能力も全くない無能力者で……学園ではずっと日陰者で、陰キャってバカにされてて……。だから、先輩の戦いを聞いた時、本当に鳥肌が止まらなくて! 先輩みたいに、自分の力で運命をぶち破るような、かっこいい男になりたくて……っ! ジジイ先生にお願いして、ここに、入れてもらいました……!」
もじもじしながらも、必死に熱い想いをぶつけてくる後輩の姿に、俺は完全に圧倒されていた。
「お、おう……。ありがとな。俺に憧れてくれるなんて、なんか照れるな……」
「おいおい、よかったな迅。初めてのファン第一号じゃん」
後ろからレンがニヤニヤしながらからかってくる。氷華も「ふん、物好きな子供ね」と言いつつ、どこか興味深そうに少年を見ていた。
「おい、いつまでそこで凍えておる。名前を名乗らんか」
こたつからジジイの声が飛ぶと、少年はハッとして姿勢を正した。
「す、すみません! 僕、二年補習組の夜見灰人って言います……!」
灰人は深々と一礼した後、まだ少しもじもじしながら、パーカーのポケットからゆっくりと両手を出した。
「それで……僕、さっき言った通り能力は無いんですけど……。昔、ちょっと色々あって、ある悪魔と出会って、そこから仲良くなって……」
灰人がそう呟き、すっと片目を細めた瞬間。
ボロ小屋の床に落ちる彼の影が、生き物のようにドロリと蠢き、異常な大きさに膨れ上がった。
部屋の温度が、氷華の冷気とはまた違う、おぞましい魔力によって一気に急降下する。
影の中から現れたのは、禍々しい角と、赤く光る四つの目を持った、漆黒の戦闘特化型悪魔だった。
『ふははは! 我が主、灰人よ! ついにこの伝説の隠者の隠れ家に辿り着いたか!』
悪魔が不気味な声で吠える。レンと氷華が一瞬で戦闘態勢を取り、武器に手をかけた。
「あ、あの! みんな動かないで! 大丈夫だから……!」
灰人は慌てて手を振ると、背後の巨大な悪魔をボソッと睨みつけた。
「シャドウ、うるさい。先輩たちの前で急に大声出さないで。不快だから静かにして」
さっきまでのオドオドした態度から一転、灰人の声が低く冷徹なものに変わる。すると、あれほど恐ろしい姿をした悪魔・シャドウが、シュンと肩を落とした。
『御意、我が主……。すまぬ、ついテンションが上がってしまった……』
「あ、あの……すみません。僕、人と喋るの本当に苦手で……。疲れちゃったので、部屋の隅っこにいてもいいですか……?」
悪魔を小さく影に戻すと、灰人はまたいつもの陰キャなもじもじモードに戻って、部屋の隅の座布団へと小さく収まった。
無能力者でありながら、昔出会った悪魔の力を借りるという、学園の常識を覆す異質な存在。
俺は自分の右拳をそっと見つめた。
自分を慕って、この地獄の門を叩いてくれた可愛い後輩ができたんだ。
「……よし、灰人。俺もまだまだ修行中だけど、一緒に強くなろうぜ!」
「は、はい……っ! よろしくお願いします、神凪先輩!」
一癖も二癖もある新たなる仲間、灰人を加え、俺たちの次なる特訓が静かに幕を開けようとしていた。




