冷蔵庫が開かない!
身の毛もよだつ恐怖は、いつも日常のすぐ隣に潜んでいる。
何気ない真夜中のどく渇きが、決して開けてはならない扉へとあなたを誘う。一人の部屋で起きた、静かで致命的な変貌の物語。
「カチャ」
夜中の2時。喉の乾きを覚えて台所に立った俺は、冷えた麦茶を取ろうとドアノブを引いた。
しかし、指先に力を込めても、いつもならすんなり開く冷蔵庫のドアが微動だにしない。
密閉のゴムパッキンが吸い付いているのとは違う。ドアの向こう側から、誰かが強烈な力で「引っ張り返している」手応えがあった。
「なんだこれ……」
両手をかけ、体重を乗せて引き剥がそうとする。
**ズズ……**と数ミリだけ隙間が空いた。
そのわずかな隙間から漏れ出してきたのは、冷気ではない。
ぬるく湿った、強い生臭さ。
そして隙間の闇の奥から、くぐもった女の声が聞こえた。
「まだ、入っちゃ駄目……」
背筋に激痛のような悪寒が走る。
パッと手を離すと、ドアは吸い込まれるようにバタンと固く閉まった。
パニックになりながら、ふと冷蔵庫の横に目をやる。
そこには、昨日まで一人暮らしだったはずの俺の部屋に、見たこともない大きな黒いボストンバッグが転がっていた。
バッグのファスナーは、内側から引きちぎられたように破れている。
……中身は、空だった。
【了】
日常の隙間に潜む異物感と、五感で感じる恐怖をテーマに執筆しました。
破れたバッグと冷蔵庫の中身を結びつけたときの本能的な絶望感を楽しんでいただけたら幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました




