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岩山から落ちて  作者: 寿和丸


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第9話 東へ

灰の中から見つかった村人は5名しかいなかった。見つからなかった者は諦めるしかない。

あまりに土の灰は膨大で重機を使っても探し出せるかわからない。人間が非力すぎる。自然の暴力が悪魔すぎるのだ。

亡骸を山頂に埋め戻し、合掌する。

簡単すぎる葬式だった。でも今はこれしかできない。なにもしてやれない。

皆が打ちひしがれていた。死の意味さえ分からないはずのミイさえ今日は泣きもしなければ、ぐずりもしない。

「くそ」ケンは自分の無力さに悔しくてたまらない。

ケンはただ深く考えることもなく、葬式を済ませ、そのままじっとしていた。

(なんで助けられなかった。もっと早く、夜が明けるのを待たないで助けに行けば良かったじゃないか)無力さと悔しさが頭の中でぐるぐる回る。


日はいつの間にか真上に登り、そして傾くまでになっている。

それでもケンは動かない、いや動けなかった。

そんな時だった、ラムが言う。

「ケン。お前がこれから家長だよ。」

「俺が?俺が家長?」

「ケンしかいないだろ。ケンが頑張らなければ皆も死ぬんだよ!」

その言葉にはっとする。

(そうだ。おれがしっかりしなければ、皆が飢え死にする)人は使命感、責任感で立ち直ることもある。

今のケンがそうだった。

「ツム。俺と一緒に来い!」立ち上がって言う。

「え、何処に?」ツムは急に呼ばれてきょとんとしている。

「水を探しに行く。竹筒を持ってついて来い」


山は子供の頃からの遊び場だ。水の出場所も知っていた。水場と言っても地面を染みらせる程度で、湧水とはとても言えない。

それでも土を掘り、辛抱強く、やっと出て来る滴りを竹筒に集める。

家から持ち出したのは3本の竹筒だけだ。ここ当たりの集落では家を出る時、竹筒を持つのが習慣になっていた。川があっても地面に潜り込むことが多く、当てにならない。湧水もあまりなかった。だから竹筒に水を入れて持ち歩くようになっていた。

そして今回慌てて、家を飛び出した時も、ケンの他に、母のラムと弟のイサは忘れずに持って来てくれた。残念ながらツムは逃げる途中で落としてしまっていた。

とにかく今はこれしか器と呼べる物がない。

皆も喉が渇いていて、夢中で竹筒に口を付けた。

「今夜はこれで、我慢してくれ」

夜中は、皆で互いに抱き合って眠った。幸い春の夜は生暖かく、藁が無くても寒さを感じないのが嬉しい。


夜明けと共に、水場に行くことにする。ツムとそれからイサも一緒だ。弟もまだ幼いからと言って、甘えさせることはできない。もうこれからは一丁前の猟師になって貰うつもりだ。

水を汲みながら、二人に言った。

「これから、ウサギを狩る。ウサギはジャンプして山の上に早く登れる。だが山を下りる時にジャンプすると、飛び過ぎて転んでしまう。だから、ウサギを下に追い込む。ウサギの巣穴の上の方から声を出して、驚かして、下に追い出すんだ」

なんとも単純な計画だった。ただ、ケンにはこの時、この方法しかできなかった。(うまく行かなかったら何度でもやる、そうしないと、皆、飢え死にしてしまう)

本来のウサギは警戒心が強くて、何かあれば巣穴に潜りこんで捕まえられない。だが今日のウサギは、火砕流の恐ろしさで本能が狂わされたのだろう。

石を投げつけ、大声を張り上げたら、巣穴に行かず、下の方に走り出した。

そうなれば、人間でも追い回せる。更にウサギにとって不運だったのは、逃げた先が灰だらけであったことだ。飛び込んだ先が灰の地では、得意の跳躍力が全く生かせない。

灰だらけになって、もがいているウサギを2羽も簡単に捕まえられた。


丸一日ぶりの食事だった。生肉だったが、石や棒で叩き柔らかくすれば何とか食べられた。空腹の時はなんでも旨い。それがすべてだ。

一息ついて皆に言う。

「これから東に行く。ここに留まっていては食料がなくなる。東で住める所を見つけよう。」

山崎航の記憶だと、富士の火砕流の跡はほとんど全方向に延びていた。今いるのは富士の東側だ。だったら、態々(わざわざ)東以外の方向に向かうのは、相当な遠回りになってしまう。それなら東に進んだ方が一番、近道だ。

「あのう、よう。俺もついて行って構わないのか?」

「あたりまえだろ。お前はもう家族だ。言っとくが俺が兄者だからな。これからは、弟として俺を立てるんだぞ」

「うへ、ケンが兄貴。それはちょっと・・・」と言って言いよどむ。

するとケンの鋭い目が光る。

「いや、俺が弟でいい」慌てて言い変える。

その言い方が面白かったのか弟たちが一斉に声を上げる。

「うわー、ツムがおにぃか」「うん、ツム兄ちゃんよろしく」「にいたん。にいたん」

イサ、レン、ミイの声が弾む。

二日ぶりの笑いがあった。


******縄文豆知識*****

ウサギは一羽、二羽と数えます。一匹、二匹と数えません。どうしてそうなったかと言うと、昔、僧侶は戒律で肉を食べてはならなかった。魚や鳥はまだしも獣の肉はご法度なのでした。でも獣の肉は魚や鳥と違う旨さがある。そこで獣の肉のおいしさを知る和尚さんは考えたのです。「ウサギは耳が長く、まるで翼を持っているようではないか。翼があるなら、きっとウサギは鳥に違いない。だから食べても問題ないし、これからはウサギを一羽、二羽と数えよう」

ということで、ウサギを一羽、二羽と数えるようになりました。

縄文の時代に仏教はまだ伝わっていませんから、そんな数え方はしていません。しかし、ここでは日本式の数え方に従いました。


筆が進んで毎日投稿が出来ています。

いつまでこのペースが維持できるか疑問ですが、もう少し続けたいと思います。

ご愛読、お願いします。

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