表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
岩山から落ちて  作者: 寿和丸


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/15

第7話 予兆

ケンの弓の改良とツムの弓の練習はそれからも続いていたが、どちらもすぐにうまくいかない。

「ちぇ、また外した」「腐るな。先日よりずっと上手くなっている」

ツムはぼやくがケンは穏やかに見守っている。

そして、ケンの弓づくりも芳しいものではない。

木製の弓つくりには慣れたが、性能が上がったかと言うと首をかしげる。

「どうもな。やはり竹と木の板を張り合わせて作ればよいのだが、上手く貼りあわせない」竹と木を張り合わせるのににかわが欲しい。

だが、膠なんて山崎航も見たことも触ったこともない。だから獣の皮を削いで煮詰めてみたのだが、いまいち粘着力がない。

「うーん何がまずいのか。それとも膠なんてこんなものなのか」

試行錯誤の連続だった。

ただ、たまにツムも獲物にたまには当たることもある。

「お、当たった」「まぐれ、まぐれ。」

「次も当てたら、次の水汲みを免除してやる」

だが、次の獲物にはあたらない。

「ああ、残念だな」「やっぱりさっきのはまぐれだった」

大人たちの励ましともけなしともつかない言葉にツムは一段と頑張るのだった。

その状態が半年続く。


今日も、十分な獲物を捕り、女たちを喜ばすことが出来た。

皆で焚火を囲み、一緒にたらふく食べ語り合い、眠りについた。

「ああ、今日も良い日だった。猟もうまく行き、獲物もたくさん捕れ、食事もうまかった。これが明日も続くと言い。」誰もがそう思った。

深夜、皆が寝付いていた時だ。風の過ぎる音、川のせせらぎ、梟の泣く声が遠くで聞こえるだけ。


「うわーん」いつものように一緒に寝ていたミイが突然泣き出した。

「どうした?」

「おにぃたん、怖い」しがみついてくる。

ミイが夜中になくことはあっても、こんなことは初めてだ。抱き抱えながら中の様子を探る。

(中に異変はない、外か?)立ち上がり、外を窺う。

異常に外が明るい。(富士に何かあったか?)疑心を覚える。

富士を見上げると、真っ赤になっている。

(これは、富士が爆発するのではないのか?)縄文の頃、富士から火砕流が発生し、麓にあった集落が全滅したことがある。

この知識だけでは行動に出なかっただろう。でも勘の良いミイがこんなに泣き叫んでいる。

(きっとミイは富士の異変に気付いたに違いない。火砕流が起きたらここはひとたまりもないぞ)

この集落は山間にある。山崎航の知識ではどこまで火砕流が押し寄せたか分からないが、ここが危険地帯なのは間違いなかった。

急いで小屋に戻り、皆を起こす。

「みんな、起きろ!小屋を出ろ!」

家族は半分、寝ぼけていたが、それでも素直に立ち上がる。

「どうした?」サクが聞いてくる。

「富士の山がおかしい。早く高い所に逃げろ!」

その声に全員、真顔になる。


「ケン。皆を連れて、山を駆け上がれ!俺は他の連中を叩き起こす!」サクはこの集落のリーダーだ。他の小屋の連中を見捨てられないのだ。

それを聞いて、決意する。

「ミイ。俺に負ぶされ。イサとレンは母ちゃんと一緒に、俺に着いて来い!」もう、逃げることしか頭になかった。急いで駆け出す。

山への尾根道の入り口に着いた。振り返るとまだサクが隣の人たちを叩き起こしていた。

隣家ではまだ何が起きたのか分かってないのだろう。もたもたしている。ミイと同じかもっと小さい子もいて手がかかるはずだ。

それでなくても、どの家も乳飲み子を抱えているのだ。危険が迫っていると言われても、なにかと必要なことがあって、手間取るのも無理ない。

「何をしているんだ。早くしないとみんな死んじまうぞ!」怒鳴りたくなる気持ちだった。


でも、いつまでも後ろを見ている訳にはいかない。

「ここにいては焼け死ぬ」ミイを負ぶったまま、必死に山を駆け上がる。

暗い道は足元がまるで見えない。

見ればいくつもの光る瞳に囲まれていた。イノシシ、ウサギ、タヌキなども次々と逃げ出している。獣の本能で危険が迫っていることに気付いているのだ。

一層、逃げることに懸命となった。真っ暗な山道で危険極まりないがそんなことは気にしてられない。

小さい時からよく遊びに来ていた山だ。道が見えなくても登れる。

強引に藪を掻きわけて進むと細い枝が顔に当たる。でもそんなことなど気にならない。血が出ようが、傷つこうが構わない。

何度か、木の根っこに足を取られ転びそうになるが、なんとか堪える。(ミイを負ぶっているんだ。転ぶことなんかできない)

どれだけ足掻き、手をついて進んできたのか。もうどれだけ時間が経ったのか分からない。

「はあ、はあ」息が切れかかるが、もう逃げることしか頭にない。

ようやく、なんとか山の天辺まで着いた。ここなら大丈夫だ、やっと一息がつく。

「ミイ、平気か?」「うん」ミイの体温が伝わる。母ちゃんもイサとレンも無事に付いてきている。

(ふう、なんとか逃げきれた!)ようやく後ろを振り返る余裕ができた。

富士は一段と赤くなっていた。その火でこの周囲も照らされうすぼんやりに見える。

だが、サクの姿はまだ見えない。

(お父、早く来てくれ!)叫びのような思いだった。


いやぁ、何故か筆が進むようになりまして、一日で一話を軽く書き上げています。自分でもどうなったのか分かりませんが、今少しこのペースで投稿していきます。

どうかお付き合いください。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ