第1話 岩山に登る
縄文時代は1万6千年も続き、弥生時代から現代よりもはるかに長い。
遺跡の数も1万を超えていますが、正直分からないことも多くあります。
縄文時代に人々が同様な言葉を話し、どのような人々だったのかも不明です。
ただ、日本人の原点がこの時代から始まったのは間違いないようです。
そんな縄文の人々の生活を想像しながら、話をします。
私は朝起きて外の景色を見て呟いていた。
「天気はどうだ?」
外は昨夜の雨で庭の木々は鮮やかな緑をしている。ぐっと窓から乗り出して山の方を見ると、そこは、霧が立ち込めて遠くの山の頂は全く見えない。
「よかった、雨は降ってない。これなら山に入れる。」
生憎の天気だが、霧程度なら大丈夫と踏んだ。
人によって考えは違うものだ。雨を全く気にしない人、折角山に来たのだから引き返すのは惜しいと思う人、天気が良くないと絶対に登らない人、様々だ。
私は雨が降れば山に登らないと決めている。
雨に降られながら山に登るのは少しも面白くない。景色が見えないし、何より服が濡れて、肌寒いし、肌にべとつき気持ち悪い。
山に登らない人には分からない気持ちかもしれないが、山に登って楽しいから山に登るのだ。
イギリスの登山家が“なんで山に登られるのですか”と問われ、「そこに山があるからだ。」と名セリフを言った。
私の場合はそんな恰好のいいものではない。
ただ、一人になりたいからだ。
「あんな重い荷物を背負って、苦しい思いまでして、山に登る気が知れない。」そう思う人も多いだろう。
まるで苦行僧のようにつらい思いをしてどうして山なんかに登るのか、分からない人の方が多いだろう。
でも山の天辺に着いた時、周囲は下界になり、山を征服した気分になり、やり遂げた思いになる。
苦しいから山に登る。頂上に着いた時、苦しさから一気に解放される。
見晴らしの良い場所から下界を眺めると、心が晴々する。全ての苦楽から解放される。
この気持ちは、山に登った者でないと分からないだろう。
泊まった宿は登山客に慣れていて、朝早いのに嫌な顔もしないで朝食を用意してくれた。
焼き魚、焼きのり、納豆、お新香に味噌汁。なによりも白米が嬉しい。お代わりを欲しいのだがここはぐっと我慢だ。
満腹では山登りが苦しくなる。腹八分目と自重。
「はい、おにぎりね」女主人が包みを渡してくる。
「ありがとうございます。行ってきます。」
「気を付けて、行ってらっしゃい。」
見送られ、宿を出た。
今日、目指す山は魔の山と呼ばれる、遭難者が桁外れに多い危険な山だ。険しく垂直に近い岩壁、ここに挑んだ多くの登山家が滑落し、命を落とした。
この山でこんなに人命が失われたのは、まず手軽に行けるからだ。
駅から歩いて行ける。しかも国道まで近くを通っており、車で入り口近く着ける。
エベレストやマナスルなど世界の最高峰、危険極まりない山は、交通機関はほとんどなく、しかも入山制限さえあり、入り口に立つのも難しい。
いや国内においても、もっと危険な山はいくつもある。だが、こんなに鉄道駅からすぐ来れて、車で入り口に横付けできる山はまずない。
それに比べ、この山は誰でも簡単に入れる。だから登山者が多く来て、遭難者を多くした。
更に、この山の岸壁は、登山家の挑戦心をくすぐるのだ。
ほぼ垂直にそそり立つ岩肌を見上げると、登山家に登りたいと思わせるのだ。
「ちょっと、危なそうだけど登ってみたい」そんな気持ちにさせる。
簡単に行け、登山心をくすぐり、そして命が失われる。本当に厄介な山だ。だから魔の山なのかもしれない。
ただ、それは危険だから面白いと感じる登山家の選ぶルートだ。この山にも初心者におすすめの道がある。
私の選んだルートは沢や窪地が続く、安全な道。一歩ずつ、着実に頂上を目指す。
期待外れの空模様を見て、同好者たちの多くは諦めたのか、今日は私以外、誰一人いない。貸し切り状態だ。
一人占めの気分となり、入り口から足取りは軽かに進んだ。
そして、2時間ほど登って来て、ようやく少し開けた平場の場所に出る。
見晴らしも良い場所で、いつもなら下界を遠くまで見渡せるのだが、今日は霧が目隠しをして、近くの距離しか見えない。
「やっぱり、今日は景色を期待できないな」そう諦めるしかない。
ただ、ここはいつ来ても気持ちが良い。
誰にも遠慮せず、堂々と己の息子を、ズボンから剝きだして空に突き出し、宙に向って放尿する。
己の描く放物線のなんと爽快なことか。
これが男である。それを証明した気分であった。
用を済まし、そのまま下界を見下ろしていた時だった。ふいに眩暈かのような気分に襲われ、周囲に異変を感じる。
「ド、ド、ド、・・・」山が不気味な声を上げる。崖が揺れ、歪む。
思わず「地震?」と思った。
だが、地震とは何か違っている。
そして私は身体を何かに掴まれたように感じると、足から地面が離れ、空に放り投げられる。
「落ちる」恐怖に陥る。ここからなら一直線に300mは落下するはず。地面に叩き落されれば私の体などグチャリと潰れる。
私は死を覚悟した。自然と目を瞑ってしまった。
10秒。1分、2分。そんなに経っても私の体は落ち続けている。
(何か変だ、おかしい。こんなに落ちていくはずがない)どこかに不自然さを感じ、奇妙な気持ちが芽生える。
5分。それでもそのままだ。ただ、私は落下を続けてないように感じた。
さっきまでは確かに頬に風が当たり、落ちていく感覚だったが、なぜか今は浮いたままでいるようだ。
瞑っていた目を開けてみると、何もかも白だらけ、色のない世界だった。
山も崖も、そして地面もない。ただ、ただ白い。それは霧だらけの場所に似た雰囲気。
しかし絶対霧の世界ではない、山で霧に囲まれた経験から霧の為、何も見えないこととは違う。霧ではないと分かる。
それは経験したことのない、白い世界だった。
何も見えない世界かと思っていると、目の前に人らしき影が現れる。
それはゆったりとしたローブを纏い、目も口も、顔全部が、髪、頭、そして体全体が白だった。
白の世界で白い体。私はすぐに気づかなかった。そこには天上より光があふれてもいる。
わずかに陰影があり、なんとか顔や体の輪郭が分かる。白粉やペンキを塗って白いのではない、明らかに地の色と分かる。
「ようやく気付いたようだな。」それが言う。
「あなたは?」
「お前たちの認識では神に近い者だ。」
神の力は強大すぎて、何もかも解決してしまい、話が終わることになります。あまり神を登場して欲しくなかったのですが、冒頭だけ出てもらいました。
これから主人公に夢あり、苦難ありの冒険を繰り広げるよう、話を綴っていこうと思います。
ご期待ください。




