聖域の戦鳴 ― 震える世界と、王道の宣戦布告
「……来たわね。この嫌な予感、帝都の追手なんてレベルじゃないわよ!」
セラフィーヌがアルカディアの展望台から、北の空を指差して叫んだ。 平穏だった聖域の空が、不気味な赤紫色の雲に覆われていく。それは自然現象ではない。何者かが世界の理を強引に捻じ曲げ、空間そのものを腐食させている証――**【時空侵食】**だ。
「フッ、案ずるなセラフィーヌ。奴らはオレという太陽の輝きに耐えかねて、闇を呼び寄せたに過ぎん!」
私は蒼の外套を翻し、震えるイナクティフたちの前に立った。 腰の『王の証』が、脈打つ鼓動のように激しく、そして熱く共鳴している。
『――警告。複数の使徒反応を検知。接近しているのは、使徒No.4及びNo.5。彼らは聖域の完全消去を目的としています。王子様、ここは逃げるのが「最適解」ですよ?』
(黙っていろジュージュ。逃げる道など、オレの地図には最初から記されていない!)
その時、空が割れた。 赤紫の雲の中から、巨大な魔導爆撃機――**【裁きの天秤】**が姿を現したのだ。 それはアンドレが作り出した、文明を灰にするための処刑装置。
「イナクティフの諸君! 目を逸らすな! これが、既存のシステムが貴殿らに突きつけた『絶望』の正体だ!」
私は高らかに声を張り上げ、右手を天空へと掲げた。 怯えていたカイトやハンスたちが、息を呑んで私を見上げる。
「だが、案ずることはない。貴殿らがこの地で築き上げた『無駄』という名の自由、そしてこの少女の笑顔……それらすべて、オレがこの命に代えても守り抜いてみせよう! なぜなら、オレこそが――この世界の運命を上書きする、唯一無二の**【真なる王】**だからだ!」
天から降り注ぐのは、数千発の魔力弾。 アルカディアを塵に変えようとする光の雨に対し、私は一切の躊躇なく、自らの魔力回路を全開にした。
「見せてやろう、王道の神髄を! 展開せよ、全方位自動防衛結界――【約束された勝利の円卓】!!」
瞬間、アルカディア全体を包み込むほどの巨大な蒼き半球体が、私を中心に発生した。 降り注ぐ魔力弾が結界に衝突し、花火のような爆辞が空を埋め尽くす。だが、私の結界は微動だにしない。
「な、なんて魔力なの……! アルカディア全体を守るなんて、そんなの人間ができることじゃないわよ!」
「フハハハハ! 人間にできぬのなら、神のアルゴリズムを超えれば良いだけの話よ! セラフィーヌ、これがオレの……オレたちの歩むべき**【王道】**だ!」
だが、攻撃はそれだけでは終わらなかった。 魔導爆撃機の甲板に、二つの禍々しい影が降り立つ。
「使徒No.9、フィリップ……。随分と派手な真似をしてくれるじゃない。でも、その『王の証』、私たちが回収してあげるわ」
「アンドレ様の計算通りに死ねない不純物は、ここで土に還れ」
現れたのは、双子の使徒。 冷酷な微笑みを浮かべる少女と、沈黙を守る大男。彼らが放つプレッシャーは、先刻のボルドなど比較にならない。
「フィリップ、あいつら……!」
「構わん。まとめて来い! 貴様ら双子が放つ絶望など、オレの熱き魂で一瞬にして蒸発させてやろう!」
私は左足で地を蹴り、空中の敵へと肉薄した。 内なる悠真の意識が「エネルギー残量15%。これ以上の出力は人格の崩壊を招く」と絶叫している。だが、そんな警告は、加速する私の闘志にかき消された。
「覚悟しろ! これが聖域を汚す者への、王からの制裁だ! 【極大奥義・星穿つ王の咆哮】!!」
私の右拳から放たれた極太の光条が、魔導爆撃機の翼を掠め、夜へと戻りつつある空を白銀に染め上げた。 戦いは、まだ始まったばかりだ。 使徒の戦争は激化し、世界の滅亡までは、もはや一刻の猶予もない。 私は爆炎の中で、不敵に笑い続けた。 たとえこの先に待つのが、真白悠真という存在の完全な消滅であったとしても。 「さあ、セラフィーヌ! 瞬きするなよ! オレがこの世界のエンディングを、最高のハッピーエンドに書き換えてやるからな!」
蒼い外套が、戦火の風に激しくたなびく。 フィリップの凱歌が、震えるアルカディアの空に響き渡った。
『――事象の臨界突破を確認。プロットは予測不能な領域へ。……あはは、本当にバカな人。でも、嫌いじゃないですよ、悠真』
ジュージュの笑い声が、激しい戦闘音の中に溶けて消えた。




