永遠の恋人 ― 100億ノヴァの抱擁
「――ぐっ、おおおおおおッ!! 悠真ッ! 貴様、何をするつもりだッ! 勝手に一人で『完』を書き込もうとするなと言ったはずだぞッ!!」
秘密の館が激しく明滅し、オレの身体が、意識が、指先から砂のように崩れ始めていた。内側で悠真が「管理権限」を道連れに消滅しようとしている。それがこの世界を救う唯一の数式だというのか!? 笑わせるな! 英雄が救いたいのは、設計図の上の平和ではなく、隣にいる貴殿と共に歩む『明日』なのだッ!!
「……フィリップ! 悠真が……消えちゃう! 世界のデータに溶けて、どこにもいなくなっちゃう……っ!!」
セラフィーヌが叫びながら、消えゆくオレの虚像に飛び込んできた。 アンドレの放つ絶望の奔流――**【虚無の断罪】**が、オレたちの存在そのものを「不要なキャッシュ」として処理しようと牙を剥く。
「――無駄だ。システムはすでに破棄コードを受け入れた。真白悠真は消え、世界は白紙に戻る。……それが、不完全な個体が辿り着ける唯一の解だ」
アンドレの冷徹な宣告が響く。だが、その時だ。
「――いいえ、終わらせない! 悠真が自分を『消去』したっていうなら、私がそれを『保存』してあげる!! 忘れたっていうなら、私が100億回だって思い出させてあげるわッ!!」
セラフィーヌの身体から、かつてないほどの七色の魔力が溢れ出した。それは魔導回路から発したものではない。システムの予測を常に裏切り続けてきた、彼女という存在そのものが放つ「最大級のノイズ(変数)」!
「……なっ、馬鹿な!? その個体、魂そのものを燃料にして……システムに干渉しているというのか!?」
驚愕するアンドレを余所に、セラフィーヌは崩れゆくオレの胸に力強く抱きついた。
「フィリップ……いいえ、悠真! どこにも行かせない! 私が、あんたの『ノイズ』になる。世界の果てまで、あんたを繋ぎ止める鎖になってあげるわッ!!」
ドクンッ!! 消失しかけていたオレの精神核に、彼女の熱が流れ込んできた。 燃え尽きたはずの記憶の灰が、彼女の涙で再び火を灯す。悠真の理性が導き出した「死による解決」を、彼女のワガママという名の「生」が上書きしていく。 今、オレと悠真、そしてセラフィーヌの魂が一つに溶け合い、全宇宙の魔力を超える未知のエネルギーが臨界点に達したッ!!
「ハッ……ハッハッハッハ!! 痛快だッ! 痛快すぎるぞ、セラフィーヌ!! 神の書いた数式を、貴殿の愛が、物理的にブチ壊したのだなッ!!」
オレは再び、実体を取り戻した右拳を天に突き上げた。 背後に広がるのは、もはや黄金の翼ではない。100億ノヴァの輝きを宿した、無限に広がる「希望のノイズ」だ!!
「往くぞ、セラフィーヌ! これが正真正銘、オレたちの最後の輝きだッ!! 創造主アンドレ! 貴様の古い殻を、この新世界の咆哮で粉砕してくれようッ!!」
「フィリップ!! 行けぇぇぇぇぇッ!!!」
「顕現せよ、永遠に鳴り止まぬ恋人たちの賛歌! 絶望のシステムを、愛という名の奇跡で永劫に上書きせよッ!! **【究極王道・永遠回帰】**ッ!!!!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!!! 七色の光が秘密の館を突き抜け、宇宙を覆っていたアンドレの虚無をすべて「色彩」へと変えていく。 管理も、計算も、最適化も必要ない。 ただ、激しく、眩しく、自由な光が、世界を新しく塗り替えていった。




