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破棄コード:真白悠真 ― 虚像の終焉、あるいは真実の署名

思考が、白く発火している。


 フィリップの熱狂がアンドレの「神の論理」を押し留めているその内側で、オレ――真白悠真は、かつてない高解像度で世界の構造を俯瞰していた。  視界を埋め尽くすのは、秘密の館を構成する膨大な実行ファイルと、その根底に流れるアンドレの絶望だ。彼はこの世界を愛していた。愛しすぎるがゆえに、完璧でない「今」を許せず、すべてを初期化リセットしようとしている。


(……だが、アンドレ。お前は一つだけ致命的なミスを犯した)


 この世界の「管理権限」の所在だ。  彼は使徒たちを戦わせ、その頂点に立った者にリセットの権利を与えた。それは、最後の一人が「管理者」としての資格を持つことを意味する。  そして今、その権利を持つ「王」は、このオレだ。


『――警告。悠真、何をするつもりですか。あなたが今アクセスしている領域は、ユーザーの「存在定義」そのものを書き換える禁忌のディレクトリです。……そこに触れれば、あなたは「人間」としても「使徒」としても、完全に消滅します』


 ジュージュの警告が、脳内で警告灯のように赤く明滅する。  分かっている。アンドレを止めるには、彼が構築した「リセットの論理」そのものを、内側から食い破る「破棄コード」が必要だ。  そして、この世界で唯一、アンドレと同じ言語コードを操り、かつシステムの外側にある「愛」を知る存在。……それは、元設計員であるオレ自身をおいて他にない。


「……セラフィーヌ。すまない」


 激闘の最中、オレの意識の端で彼女の声が聞こえる。  「フィリップ!」と呼ぶ彼女の声。  オレは、フィリップという「理想の英雄」を維持するための演算リソースを、静かに、だが確実に「自己消去プログラム」へと回し始めた。


(……英雄は、世界を救って消えるのが王道だと、あいつなら笑って言うだろうか)


 俺の指先が、精神世界に浮かぶ黄金のボタン――ジュージュ・システムの「全消去」へと伸びる。  だが、俺が打ち込むのは「リセット」ではない。   [Command: Override "World_Reset"] [Source: Mashiro_Yuma_Identity_Core] [Value: Infinity_Noise (Love)] [Action: Delete "Admin_Authority" and Open "Future_Access"]


 俺という存在のすべてを燃料にして、この世界から「管理」という概念そのものを永久に削除する。  アンドレも、ジャックも、そして俺という設計員さえもいない。誰もが不自由で、誰もが予測不能な、ただの「明日」を。


「……これで、終わりだ」


 風景が、砂のように崩れ始める。  俺の記憶が、指先から、足元から、データ化されて宇宙へ溶けていく。  セラフィーヌと出会ったあの日の、眩しすぎる全裸の王子の記憶。  二人で食べた不味い携帯食の味。  彼女が俺を呼ぶ、震える声の響き。


 それらすべてが、世界の「呪い」を解くためのパスワードとなって消えていく。


(……フィリップ。あとは、頼んだ。……最後の一撃、お前の得意な『王道』で、この幕を閉じてくれ)


 真白悠真という人格の輪郭が、完全に消失する。  後に残されたのは、管理者の特権をすべて捨て去り、ただ一人の少女を守るために「世界そのものを書き換えた」という、一筋の光の航跡だけだった。

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