赫奕たる反証 ― 偽りの平穏と、真実の咆哮!
「――ハッハッハッハ! 見ろ、セラフィーヌ! 敵艦はすべて塵となり、空には再び眩いばかりの『自由』が満ち溢れている! オレたちの勝利は、もはや疑いようのない確定事項となったのだッ!」
穏やかな陽光が降り注ぐ草原。そこはかつて、ジャックに敗れた際に迷い込んだ東の聖域「アルカディア」と酷似していた。 ジャックとの激闘の最中、オレたちが辿り着いたのは、傷一つない仲間たちと、平和な日常が約束された「完璧な世界」だった。記憶を失ったオレにとって、ここがどこなのか、なぜ戦っていたのかは重要ではない。ただ、隣で微笑むセラフィーヌが幸せそうであれば、それでいい……はずだった。
「そうね、フィリップ。もう戦わなくていいの。記憶なんてなくても、ここで新しく作っていけばいいじゃない」
セラフィーヌが、慈愛に満ちた表情でオレの手を握る。 だが。その温もりを感じた瞬間、オレの魂の深部――意識を共有し始めた悠真の理性が、激しい既視感と共に警告を吐き出した。
(……待て。第45話のログに残っている。これは、一度オレたちが否定したはずの『止まった時間』だ。ジャックの奴、オレの記憶が欠落しているのをいいことに、同じ手口を『最終解』として再利用していやがるのか……!)
「――気づいたか、No.9。いや、『記憶のない王』よ」
虚空から、ジャック・ル・マジョールの冷徹な声が響く。 「かつての貴様なら、この偽りに容易く気づけた。だが今の貴様に、この『正解』を拒む理由は残っているか? 傷ついた少女を、再び灰色の戦場へ連れ戻すことが、貴様の言う『王道』か?」
草原の風景が揺らぐ。目の前のセラフィーヌは、かつての「システムの人形」よりも遥かに精巧で、温かい。
「フッ……ハハハ……。ジャック、貴様は本当に何も分かっていないようだなッ!」
オレは、握られていたセラフィーヌの手を、あえて力強く振り払った。
「フィリップ!? どうしたの、せっかく幸せになれるのに……!」
「否ッ!! 幸せとは、与えられるものではないッ! 泥を啜り、絶望に抗い、自分の手で掴み取るものだッ!! オレが救いたいのは、こんな計算機が用意した『完璧な模範解答』ではないッ!!」
オレの咆哮と共に、右手に蒼白き炎が宿る。 記憶はなくとも、魂が覚えている。この「心地よさ」こそが、オレたちの明日を奪う最大の敵であることを!
「顕現せよ、真実を暴く叛逆の灯火! 理想の檻を砕き、不条理な現実を呼び戻せッ!! 【真説・境界破壊】!!!」
ドォォォォォンッ!! オレが地面に拳を叩きつけた瞬間、美しい草原が硝子のように粉々に砕け散った。 剥き出しになったのは、崩壊し続けるラ・シテ・デュ・ゼニスの無機質な鉄。 そして、傷だらけになりながらも、必死にオレの服の裾を掴み、涙を流している「本物の」セラフィーヌの姿だった。
「……バカっ……バカ王子! やっと、起きた……ッ! 変な夢、見せてごめん……っ!!」
「……フッ、謝る必要はない。この涙こそが、オレにとっての真実だ。……往くぞ、セラフィーヌ! 偽りのハッピーエンドなど、オレたちが今ここで『上書き』してやるッ!!」
オレたちは立ち上がる。 世界は再び、灰色の戦場へ戻った。だが、オレの胸には、どんなシステムもシミュレート不可能な「不屈の魂」が、かつてないほど激しく燃え上がっていた。




