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魔導列車の狂騒曲 ― 集え、愛すべき異端児(ノイズ)たち

「ヒャッハーー! 見てよフィリップ、この速さ! 風が笑ってるわよ!」


 セラフィーヌが魔導列車のデッキで、ポニーテールを激しくなびかせながら叫んでいる。  私たちは今、帝都の包囲網を間一髪で突破し、東の聖域へと向かう大陸横断列車『リヴァイアサン号』の特等席(といっても、不法侵入した屋根の上だが)にいた。


「フッ、当然だ。風さえも王の門出を祝福しているのだからな!」


 私は蒼の外套をはためかせ、猛スピードで流れる景色を睥睨した。  内なる悠真が「風圧で転落する確率87%だ、中に戻れ」と理屈を並べてくるが、黙らせる。今は計算よりも、この胸を貫く**【加速する鼓動ターボ・ハート】**を優先すべき時だ!


「おいおい、屋根の上でカッコつけてる兄ちゃんに、威勢のいい姐さん。あんた等、派手にやってくれるじゃねえか」


 突如、列車の連結部分からひょいと顔を出したのは、奇妙な風体の三人組だった。  ボロボロの魔導ゴーグルをかけた少年、巨大なレンチを担いだ屈強な大男、そして気怠げに通信盤を弄る少女。


「誰よあんたたち! まさかアンドレの追手!?」


 セラフィーヌが身構える。だが、彼らから放たれているのは、帝都の騎士たちの冷徹な魔力ではなく、もっと雑多で、生気に満ちた――**【混沌の魔力カオス・エナジー】**だった。


「追手? 勘弁してくれよ。俺たちは『イナクティフ』……まあ、帝都の連中に言わせりゃ『役立たずのニート』ってやつさ」


 ゴーグルの少年がニカッと笑う。  イナクティフ。それは、システムの適性検査から漏れ、社会の歯車になることを拒絶した自由人たちの総称。


「オレはカイト。この列車の『非公式』な整備士だ。あんたが昨夜、広場で騎士団をブッ飛ばしたフィリップだろ? 噂はもう、俺たちの地下ネットワークに流れてるぜ。……『全裸で降臨した伝説の使徒』ってな!」


「……っ!? その話はもういいってば!」


 セラフィーヌが顔を真っ赤にしてカイトに飛びかかる。  私は腕を組み、不敵に笑った。


「カイトと言ったか。オレの勇姿が既に知れ渡っているとは、情報の伝達速度も王道級だな。だが、ニートだと? 否定しよう。貴殿らは無能ではない。既存のシステム(枠組み)に収まりきらぬ、**【無限の可能性アンリミテッド・ポテンシャル】**を秘めた原石だ!」


「……へっ、変わった奴だな。だが、その言葉、気に入ったぜ!」


 カイトが差し出してきた拳に、私は迷わず自分の拳を叩きつけた。  その瞬間、ジュージュが激しい通知を鳴らす。


『――新規データ受信。対象個体:カイト、ハンス、ミラ。システム上の登録は「破棄済み」。……やれやれ、これ以上イレギュラーを増やしてどうするつもりですか。予測演算が追いつきませんよ』


(黙って計算してろ、ジュージュ。これこそが物語を加速させる最高のスパイスだ)


 私たちはカイトたちの案内で、列車の隠し貨物室へと移動した。  そこには、帝都の整然とした街並みとは対照的な、雑多だが温かい「生活」があった。  盗んだ魔力バッテリーで動くジュークボックス。違法に改造された調理魔導具。   「ここならアンドレの監視のアルゴリズムも届かない。俺たちが開発した**【遮蔽術式:情報の聖域サイレント・フィールド】**が展開されてるからな」


「すごい……! 帝都の外には、こんな世界があったのね……」


 セラフィーヌが目を輝かせて、ミラが差し出した「配給品じゃない本物の林檎」を齧る。  その光景を見て、私の胸の奥で、悠真の意識が微かに震えた。   (悠真、見ているか。これが、お前が切り捨てようとした『無駄』の正体だ。管理されない喜び、計算外の絆。これこそが、絶望を塗り替えるための絵の具になるのだ)


 だが、安らぎは長くは続かなかった。  突如、列車全体を揺るがす巨大な衝撃が走る。キィィィィン! という鼓膜を突き刺すような金属音が鳴り響き、緊急ブレーキがかかった。


「何だ!? 脱線か!?」


「いや……上だ! 何かが降ってきやがった!」


 カイトがゴーグルを叩く。  貨物室の天井が、まるで紙細工のように無残に切り裂かれた。  差し込む月光。その逆光の中に立っていたのは、漆黒の翼を背負った、死神のようなシルエット。


「――見つけたぞ。不純物ノイズども」


 その声は、氷のように冷たく、絶対的な「序列」を感じさせた。  ジュージュの警告音が、これまでにないボリュームで鳴り響く。


『緊急警告! 最高警戒対象を検知。使徒No.10、【静寂の処刑人ジャック・ル・マジョール】。因果律の収束ポイントが、予定より47時間前倒しで発生しました!』


「ジャック……ル・マジョール……!」


 私はセラフィーヌを庇い、前に出る。  敵は、使徒の中でも一線を画す戦闘特化型の怪物。   「フィリップ、逃げて! あいつ、今までの連中とは魔力の質が違いすぎるわ!」


「逃げる? フッ……断る! 強敵の出現こそ、英雄が更なる高みへと昇るための階段! カイト、仲間を連れて下がっていろ。ここは……オレの**【独壇場ステージ】**だ!」


 私は右手に魔力を集束させ、眩いばかりの光を放つ。  時速200キロで爆走する魔導列車。その屋根の上で、世界を賭けた「使徒の戦争」が、真の火蓋を切って落とそうとしていた。


「来るがいい、処刑人! オレの王道が、貴様の静寂を爆音で上書きしてやる!」


 蒼い閃光と漆黒の翼が交差する。  リヴァイアサン号の咆哮とともに、物語は運命を置き去りにして加速し始めた。

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