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砂上のアルゴリズム ― 綻びゆく秩序、あるいは設計者の矜持

視界の端で、赤いアラートが激しく明滅している。  フィリップが叫び、盾を掲げ、必死に「300秒」を稼いでいる間、俺――真白悠真の意識は、加速する思考の深淵へと潜り込んでいた。


(……聞こえるか、ジャック・ル・マジョール。お前の演算は、あまりにも「綺麗」すぎる)


 上空から降り注ぐ消去プログラム「鉄の雨」。それは確かに、この世界の無駄を削ぎ落とし、純粋な論理体へと昇華させる完璧なリファクタリングに見える。  だが、元・システム設計員としての俺の眼は、その完璧な幾何学模様の中に潜む、致命的な「型落ち」を見逃さなかった。


『――悠真、解析完了。ジャックが使用している再編コードの根幹、それはかつてあなたが設計局で放棄した「プロジェクト・ゼニス」の残骸です。……彼は、あなたが捨てたゴミを拾い集めて、新世界を作ろうとしている』


 ジュージュの報告に、俺の唇が自嘲気味に歪む。  かつての俺は、世界のすべてを数式で管理できると信じていた。だが、セラフィーヌという「最大級の変数」と出会い、俺はその設計図を自ら破棄したはずだ。人間というノイズを許容できないシステムは、いつか必ず自重で崩壊するからだ。


「……ジャック。お前は、俺が恐れて捨てた『静止した完成』を求めているに過ぎない」


 俺はフィリップの肩越しに、空を覆う艦隊を見据えた。  彼の「300秒」という宣告。それは自信の現れではなく、システムが「ノイズ(俺たち)」を処理しきれなくなるまでの、限界時間ではないのか。  俺たちは、排除されるべきエラーではない。  システムが、俺たちの熱量を計算できずに「オーバーフロー」を起こしかけているのだ。


「フィリップ、あと120秒耐えろ。……ジャックのアルゴリズムには、致命的なバグがある。奴は『自分自身の存在』を計算に入れていない」


「ハッ、120秒だと!? オレを誰だと思っている、悠真! 1200秒でも耐えてみせるが……貴殿がそう言うなら、最高の瞬間にそのバグをブチ抜いてやろうじゃないかッ!」


 フィリップの魔力が、限界を超えて再点火される。    風景が、歪んでいく。  ジャックの最適化が進めば進むほど、世界からは「遊び」が消え、極限まで緊張した糸のように脆くなる。  その糸の一箇所に、予測不能な衝撃を加えれば――。


(……だが、それには莫大なエネルギーが必要だ。この世界の物理法則を根底から書き換えるほどの、「死」さえも演算に組み込んだ禁忌の一手が)


 俺は決意を固めた。  ジャックが「生」を管理しようとするなら、俺たちは「死」を使って、その秩序を上書きしてやる。


 残り、80秒。  俺たちの鼓動が、不協和音を奏でながらシステムの心臓部へと突き刺さる。    次の一秒。  俺は、俺自身を「破棄コード」として定義する。

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