絶望のカウントダウン ― 終末の演算、あるいは鉄の雨!
「――ハッハッハッハ! 見ろ、セラフィーヌ! 敵の戦意が空を覆い、空気さえもが恐怖で凍りついているぞッ! これこそが、英雄が逆転劇を演じるに相応しい『最低最悪』の舞台よッ!」
ラ・シテ・デュ・ゼニスの外縁部。オレの哄笑は、荒れ狂う暴風の中に吸い込まれていく。 だが、オレの隣に立つ彼女――セラフィーヌの顔に色はなかった。彼女の瞳が映し出しているのは、天空を埋め尽くすジャック・ル・マジョールの艦隊ではない。空の「裏側」に浮かび上がる、無機質な幾何学模様の群れだ。
「……フィリップ、笑い事じゃないわ。見て、世界の『解像度』が落ちている。あいつ、本気でこの世界を『軽量化』するつもりよ……!」
見上げれば、青かったはずの空がモザイク状にひび割れ、その隙間から虚無の黒が覗いている。ジャックが発動した最終権限――【世界再編・最適化】。 それは、余計な「感情」や「不確定な未来」というリソースを削除し、世界を最小限の論理だけで構成された「効率的な檻」へと作り変える禁忌の法だ!
「――告ぐ。No.9、及び変数セラフィーヌ。残り時間は三百秒だ」
ジャックの冷徹な声が、全空間から直接脳内へと響く。 「三百秒後、この座標の全生命体は論理構造を分解され、新秩序のパーツへと置換される。足掻くことは許されない。これは『決定事項』だ」
「フッ……三百秒だと? 貴様、オレを誰だと思っている! オレはその三百秒の間に、三億通りの『奇跡』を叩き込んでくれるわッ!!」
オレは腰の通信盤――ジュージュを力強く叩いた。 だが、返ってきたのは聞き慣れた可愛い声ではなく、ノイズ混じりの警告音だった。
『――ギギッ……警告……システム干渉が深刻です……。王子様、アンドレの監視コードが……裏面から侵食して……。魔力出力、低下……。このままでは、王道スキルが……発動……不可……』
「何だとッ!? ジュージュ、貴様までジャックに屈するというのか!」
「違うわフィリップ! ジュージュが悪いんじゃない。この世界そのものが、私たちを『エラー』として排除しようとしているのよ!」
セラフィーヌが叫ぶのと同時、空から鉄の雨が降り注いだ。 それはただの砲弾ではない。命中した対象の存在定義を消去し、ただの「数値」へと変える絶望の礫。
「くっ……おおおおおッ!! 顕現せよ、不屈の守護障壁――【王道防壁・絶対不倒】!!」
オレは残る魔力を振り絞り、蒼白き光の盾を展開する。 だが、降り注ぐ「秩序」の圧力は、オレの腕を、膝を、そして魂を刻一刻と削っていく。背後では、セラフィーヌが祈るようにオレの背中にしがみついている。
「笑え……笑うのだ、フィリップ! 英雄が顔を伏せて、誰が明日を信じるというのだ……ッ!」
歯を食いしばり、血を流しながらも、オレは唇を吊り上げる。 たとえ世界が「無駄」だと断定しても、オレはこの隣にいる少女の熱だけは、絶対に消させはしない!
三百秒。 破滅への秒読み(カウントダウン)が、今、非情にも開始された。




