断罪の回廊 ― 鋼鉄の洗礼と、王の孤独なる進撃!
「――ハッハッハッハ! 見ろ、セラフィーヌ! 偽りの空が剥がれ落ち、ようやく拝めたこの『地獄』こそ、オレたちが血を流して勝ち取った真実の荒野よッ!」
ジャック・ル・マジョールが構築した「都合の良い理想郷(箱庭)」を自ら粉砕し、オレたちは再び現実へと帰還した。 だが、目前に広がるのは安息ではない。新秩序政府の中枢「ラ・シテ・デュ・ゼニス」へと続く、無数の魔導砲台が整然と並ぶ鋼鉄の回廊――死の滑走路だ。
「フィリップ、強がらないで! 魔力出力がさっきから滅茶苦茶よ。あんたの身体、もう……あちこちが透け始めてるじゃない!」
セラフィーヌがオレの腕を掴む。その震える手、必死な声。 彼女の言う通りだ。オレの人格を維持するための「精神基盤」は、偽りの世界を壊した衝撃で、すでに修復不能な亀裂が入っている。視界には、内なる悠真の冷徹な警告ログが、ノイズ混じりに溢れ出していた。
『……警告。存在保持率、臨界点を突破。真白悠真の自意識が、英雄人格の熱量に耐えきれません。これ以上の戦闘行使は、精神の完全な揮発、および存在定義の消滅を招きます。……悠真、これ以上は「人」の領域ではありません』
「黙っていろ、ジュージュ! 人の領域だと? そんな狭い場所で満足しているなら、オレは最初から神になど挑んではおらんッ! オレが止まれば、彼女の明日が消える。王の道とは、常に自らの命を薪として、闇を照らす光を絶やさぬことだッ!」
オレはセラフィーヌを横抱きにすると、爆風の吹き荒れる回廊を駆けた。 放たれる数万のレーザー。因果律を固定し、存在を「無」へと回帰させようとするジャックの冷徹な呪縛。それらすべてを、オレは**【王道再生・極光双剣】**で叩き斬り、無理やり道を作る。
一歩踏み出すごとに、オレの中から「かつての記憶」や「自分という概念」が、パズルのピースのように零れ落ちていくのがわかる。昨日の夕飯の味、設計局での退屈な日々、仲間と交わした何気ない言葉。それらが光の粒子となって後方へ流れていく。
(……ああ、構わんさ。第13話で記憶を燃やしたあの時から、オレはこうなる運命を選んでいた。大切なものを灰にしてでも、ただ一人の少女が笑う未来を書き込む。それが設計員としてのオレの執念であり、英雄としてのオレの誇りだッ!)
あの時、彼女を救うために焼却した記憶の「燃えカス」が、今、この冷徹な管理社会のシステムに致命的なエラーを吐き出し続けている。ジャックの完璧な計算式が、オレの「空虚な熱量」を処理できずに、火花を散らして悲鳴を上げているのが聞こえるぞ!
「見ろ、ジャック! 貴様の『正解』など、オレの一振りの前ではただの落書きに過ぎん! 往くぞ、セラフィーヌ! 秩序の番人共に、計算不能な『愛』の痛みを刻み込んでやるッ!!」
最深部を閉ざす巨大な重厚扉を、オレは己の身を弾丸としてブチ抜いた。 衝撃波が回廊を駆け抜け、警報音が鳴り響く。 土煙が晴れた先――そこには、世界の心臓部たる「論理の玉座」に座り、絶望的なほど静かな瞳でオレたちを見下ろす、ジャック・ル・マジョールの姿があった。
「……愚かな。自らを壊してまで『ノイズ』を肯定するか、No.9。だがその輝きも、次の一手で永久に漂白される運命にある」
「ハッハッハ! 運命だと? そんなものは、オレがたった今、スクラップにしてやったわッ!!」
オレの右腕が激しく火花を散らし、存在がさらに薄れていく。 だが、その瞳に宿る叛逆の炎だけは、神の雷よりも鋭く、玉座の主を射抜いていた。




