不可逆の黄昏 ― 奪還の咆哮と、未来永劫の片鱗!
「――ハッハッハッハ! 脆い、脆すぎるぞ新秩序政府! 鉄の規律で心を縛り、数式で明日を計る貴様らに、この胸に燃える『予測不能な情熱』を消せるものかッ!」
東の聖域「アルカディア」は今、地獄の業火と鋼鉄の嵐に晒されていた。 ジャック・ル・マジョールが発動した**【社会再編プログラム:強制帰還(リロード・市民)】**。それは、自由を選んだイナクティフたちから意志を剥奪し、再びシステムの歯車へと作り変える非道なる「処置」だ。
「フィリップ、避けて! 上よ!」
セラフィーヌの声が響く。見上げれば、雲を割って降り注ぐのは幾千もの**【断罪の光杭】**。 私は彼女の前に躍り出ると、ボロボロになった外套を大きく翻した。
「案ずるな、セラフィーヌ! 貴殿の髪一筋さえ、このオレが数式の塵にはさせん! 顕現せよ、理を穿つ叛逆の牙――【王道再生・極光双剣】!!」
手の中に閃くのは、存在そのものが「世界の穴」となった蒼き双剣。 私は光速の演武で降り注ぐ光杭をすべて叩き落とし、爆炎の中を一直線にジャックの旗艦へと突き進む。
『――警告:王子様、魔力波形が限界を突破しています。……そして、セラフィーヌさんの「実体化率」が40%を割り込みました。これ以上の魔力行使は、彼女の存在そのものを世界から消去する致命的なトリガーとなります!』
「黙れ、ジュージュ! 彼女が消えゆくというのなら、オレがその運命ごと世界を抱きしめるだけだ! 絶望の果てにこそ、真の王道は輝くのだからなッ!」
その時、旗艦の甲板からジャック・ル・マジョールが冷徹な宣告を下した。
「無意味な抵抗だ、No.9。貴様が剣を振るう度に、その少女の四肢は概念へと分解されている。世界を救う『正義』が、最愛を殺す『凶器』となる気分はどうだ?」
「貴様ぁぁッ!!」
怒りが臨界点を超えた。 視界の端で、私の魔力に呼応するように、セラフィーヌの透き通った身体から光の粒子が溢れ出す。 彼女は苦しげに胸を押さえながらも、必死に微笑んでいた。
「……いいの、フィリップ。あんたが……あんたが勝つことが、私の『希望』なんだから……」
「――否!! 貴殿の犠牲の上に成り立つ勝利など、オレは認めん! オレが望むのは、貴殿が隣で笑い、共に明日を罵る……そんな、泥臭くも愛おしい完結だッ!」
私は双剣をクロスさせ、自身の心臓部に残る「世界上書き」の残滓を強制的に励起させた。 過去の記憶、設計者としての論理、フィリップとしての誇り……すべてを一つの「ノイズ」へと圧縮する。
「見せてやろう、ジャック! 貴様の計算を微塵に砕く、第四の選択肢を! 魂の極限、未来の先取り――【王道超越・未来永劫】!!!」
ドォォォォォンッ!! 戦場全体を、黄金でも蒼白でもない、見たこともない「無垢な白」の衝撃波が埋め尽くした。 それは破壊ではない。 世界そのものの解像度を強制的に引き上げ、消えゆくセラフィーヌの輪郭を力ずくで「存在」へと固定する、神殺しの力だ。
「……何だと!? 世界の因果律を……個人の意志だけで繋ぎ止めたというのか!?」
驚愕に染まるジャックを余所に、私は光り輝く翼を広げ、旗艦の主砲を素手で握り潰した。
「ハハハ……驚くのはまだ早いぞ、新秩序! オレたちの物語は、ここからが最高潮だッ!!」
絶望の数式は、王の咆哮によって再び書き換えられた。 だが、その力の発動と引き換えに、私の意識はかつてないほどの激痛に苛まれる。 「未来」を先取りした代償。 それは、私の内側に残された最後の人格的連続性を、音を立てて破壊し始めていた。




