使徒強襲 ― 爆走する王道(ロード)と一閃の魔力
帝都の夜は、瞬く間に戦場へと塗り替えられた。
「見つけたぞ、逃亡者フィリップ! その『王の証』、大人しく差し出せば命までは取らぬ!」
商店街の噴水広場。暗闇を切り裂いて現れたのは、第一話の端役とは格が違う本物の軍勢だった。 西方帝都の治安維持部隊でありながら、その実態は創造主アンドレ直属の実行部隊――【システム守護騎士団】。その中心で、一人の男が重厚な魔導アーマーの火力をこちらに向けていた。
「使徒No.11が配下、百人長のボルドだ! アンドレ様のアルゴリズムは、貴殿のここで死を予言している!」
「予言、だと? フッ、笑わせるな!」
私は、セラフィーヌが選んでくれた蒼の外套をバサリと翻した。 内側に潜む悠真の人格が「多勢に無勢だ、逃げろ」と冷徹に囁いているが、そんな弱腰な論理、今の私には通用しない。 「ボルドと言ったか。貴殿の主が描いたシナリオは、たった今、オレが破り捨てた! 真の王が往く道に、予定調和の敗北など存在しないのだ!」
「何が王だ! 全兵装、一斉掃射!」
ボルドの合図とともに、数十の魔導銃から放たれた熱線が夜の闇を白く染めた。 逃げ場はない。広場を囲むように展開された弾幕が、一点に収束する。
「フィリップ、危ないっ!」
背後でセラフィーヌが叫ぶ。その声が、私の魂にさらなる火を点けた。 「案ずるな、セラフィーヌ! ヒロインの悲鳴は、逆転劇へのファンファーレに過ぎない! 顕現せよ、【覇王の盾】!」
掲げた掌の先に、巨大な魔法陣が何重にも重なり合いながら展開される。 降り注ぐ熱線の雨は、私の展開した盾に触れた瞬間、パリンと小気味よい音を立てて砕け散った。 「バカな!? あの火力、正規の防御術式で防げるはずが……!」
「魔法ではないと言ったはずだ! これは**【理の上書き(オーバライド)】**! オレが『通さない』と決めた攻撃は、この世界の法則から抹消されるのだ!」
驚愕に目を見開く騎士たち。 私は一歩、重厚に足を踏み出した。石畳が衝撃でひび割れ、大気が震える。
『警告:魔力出力がリミッターを超過。これ以上の戦闘継続は精神への深刻な負荷を招きます。……と、一応伝えておきますね。頑張れ、王子様』
ジュージュの皮肉めいた声が脳裏をよぎるが、構うものか。 私は腰の「王の証」――ジュージュ・コアへと意識を集中させる。 「見せてやろう。これぞ、絶望の淵から希望を掴み取る一撃! 【王道一閃・閃光の凱旋】!」
外套の蒼をなびかせ、私は目にも止まらぬ速さで地を蹴った。 騎士たちが反応するよりも早く、その懐へと飛び込む。 私の右拳に集束されたのは、純粋な魔力ではない。それは、定められた運命を拒絶し、自らの手で未来を切り拓くという、狂おしいほどの意志の奔流。
「オレの往く道を……邪魔するなああああ!」
炸裂。 放たれた衝撃波はボルドの魔導アーマーを紙屑のように引き裂き、背後の噴水を真っ二つに割り、広場の騎士たちをまとめて吹き飛ばした。 爆音の後に訪れたのは、静寂。 膝をつき、戦闘不能となった騎士たちの中心で、私は悠然と立ち尽くす。
「ふむ。……少々、派手にやりすぎたか。だが、これが王の挨拶というものだ」
「あんた……本当に、何者なのよ……」
呆然と立ち尽くすセラフィーヌ。その瞳には、恐怖ではなく、言い知れぬ期待の光が宿っていた。 「オレはフィリップ。この世界の『結末』を書き換える者だ」
私は彼女に背を向け、夜空の彼方に浮かぶ帝都の象徴、アンドレの塔を指差した。 「ボルド。貴殿の主に伝えておけ。アルゴリズムが描いた未来図など、オレがすべて燃やし尽くしてやるとな!」
その時、意識の底で悠真が冷たく笑った気がした。 ――「そんな派手な真似をして、システムが黙っていると思うか?」と。 だが、今の私は止まらない。 たとえこの先に、どれほどの計算外の絶望が待ち受けていようとも。 「さあ行こう、セラフィーヌ。この帝都はもう狭すぎる。オレたちの『王道』は、この世界の果てまで続いているのだから!」
「……もう、勝手なんだから! でも、その外套、汚さないでよね!」
彼女の小言さえ、心地よい旋律に聞こえる。 私たちは夜の静寂を切り裂き、次なる目的地――「イナクティフ」の集う東の聖域を目指して駆け出した。
『――事象確定。プロットは第1段階から第2段階へ。真白悠真の「英雄願望」の暴走を確認。……計算通り(プラン・ドーリ)です。お気をつけて、フィリップ様』
無人の広場に、ジュージュの冷たい囁きだけが残された。




