黄金の残光 ― 瓦礫の空と、約束のパンケーキ
「――ハハハハハ! 見ろ、セラフィーヌ! このオレが焼き上げたパンケーキの完璧な円を! もはやこれは料理ではない、銀河の運行を模した一種の宇宙論だッ!」
聖地ラ・シテ・デュ・ゼニスが崩壊し、あの傲慢な主塔が塵に帰してから、一週間。 私たちは帝都の追っ手が及ばない東の果て、緑豊かな丘陵地帯に小さなキャンプを構えていた。 記憶を失い、魔力の出力調整もままならない今の私だが、魂に刻まれた「王道」の華やかさだけは健在だ! 焚き火で焼いたパンケーキを、私は騎士の剣を振るうが如き鮮やかさで皿へと盛り付けた。
「はいはい、凄い凄い。でも、パンケーキに『覇道の蜂蜜』をかけすぎるのはやめてよね。甘すぎて喉が焼けちゃうわよ」
隣で呆れ顔を見せるのは、桃色の髪をなびかせるセラフィーヌ。 彼女は私の記憶がないことを、もう悲しんではいない。むしろ、新しい思い出を一つ一つ積み上げることを、何よりの楽しみにしているようだ。
『……王子様。計測不能な魔力を使用してパンケーキを焼くのは、演算資源の無駄遣いだと何度言えばわかるのですか。……まあ、味の再現率だけは、私のデータベース上でも「最高ランク」と認めざるを得ませんが』
宙に浮く通信盤、ジュージュも、以前のような冷徹さは消え、どこか毒気のない「小姑」のような役割に落ち着いている。 神殺しの戦いは終わった。管理された幸福は消え、私たちは今、自分たちの手で空腹を満たし、自分たちの足で歩く自由を手に入れたのだ。
だが、穏やかな風が吹く草原の向こう側――。 私は、地平線の先に揺らめく「黒いノイズ」を、本能的に感じ取っていた。
「……セラフィーヌ。世界は上書きされた。だが、アンドレが遺した『システム』の残滓は、まだこの世界のどこかで、次の主人を待っている気がするのだ」
「……悠真。もしそうなっても、今度は私たちが、自分たちの力で追い払うだけでしょ? あんたがまたバカみたいに突っ走るなら、私が後ろから杖で叩いて正してあげるわ」
彼女は私の手をぎゅっと握り、不敵に笑った。 記憶はない。だが、この温もりこそが、新しい世界の羅針盤だ。
「ハハハ、言うようになったな! ならば、この平和を乱す不届き者が現れたその時は、オレという名の『最強のノイズ』を再び世界に轟かせてやろうではないか!」
私たちは、まだ見ぬ明日へと続く草原を歩き出す。 聖地の亡霊は去り、平穏という名のプロローグが静かに幕を開ける。 だが、その裏側で、新たな「秩序」を求める鋼鉄の足音が、刻一刻と近づいていた。




