絶望の遺産 ― 終末プログラムと、無意識の英雄!
「――ハハハハ! 良い夜だ! 星々が瞬き、風が語らい、そして……空気の読めぬ鉄クズ共が、オレの眠りを妨げようとしている!」
静寂は、一瞬にして電子の断末魔に塗り替えられた。 地平線の向こうから押し寄せるのは、アンドレが死の間際に起動した最終防衛プログラム**【黙示録の執行者】**の軍団。かつての執行者たちを遥かに凌ぐ、自律進化型の殺戮機械だ。
「フィリップ、下がって! まだ体力が戻ってないのに、こんな数、相手にできるわけ……!」
セラフィーヌが叫び、魔導杖を構える。だが、私は彼女の前に一歩踏み出し、ボロボロの外套を月夜に翻した!
「案ずるな、セラフィーヌ! 記憶などという『過去のデータ』がなくとも、オレの魂は既に結論を出している! すなわち――君を傷つける不条理は、このオレが、一欠片も残さず粉砕するという結論だッ!!」
『警告:王子様、記憶の再構築が完了していません! 今のあなたが魔力を引き出せば、人格の基盤が完全に消失する恐れがあります!』
「ハッ、消失だと? 構わん! オレという存在が消えようとも、オレの拳が描く『王道』は永遠に不滅よ! 魂の深度、限界突破! 起動せよ――【全自動・無意識王道】!!」
ドォォォォォンッ!! 私の身体から、かつてないほど濃密な、蒼白き魔力が噴き出した。 記憶はない。技の理屈もわからない。だが、細胞の一つ一つが、神を殺したあの感触を覚えている!
「往くぞ、亡霊共! 王の眠りを妨げた代償、その身をもって償うがいい! 【無尽蔵・星屑の斬撃】!!」
私は光速の踏み込みで敵軍の真っ只中へと飛び込んだ。 目視は不要。システムログさえ不要。迫りくる熱線を紙一重で回避し、剥き出しの拳で機械の装甲をバターのように引き裂いていく。
「……すごい。記憶がないのに、動きが前より鋭くなってる……!?」
セラフィーヌが驚愕に目を見開く。 当然だ。今の私を動かしているのは論理ではない。彼女を守りたいという、ただ一つの「ノイズ」が、私という演算装置をオーバークロックさせているのだ!
「これで終わりだッ! 神の遺産ごと、無へと帰れ! 【王道終焉・極大銀河砲】!!!」
私の右拳から放たれた極大の光が、草原を埋め尽くしていた殺戮機械たちを、その因果律ごと消滅させた。 轟音。爆炎。そして、訪れる静寂。
「――フゥ。やれやれ、少しばかり張り切りすぎたようだな」
私は膝をつき、肩で息をする。 魔力の残滓が蛍のように舞う中、駆け寄ってくる彼女の足音が聞こえた。
「フィリップ! バカ、無理しすぎよ! 顔色が真っ白じゃない!」
「ハハハ……。美しい乙女に心配されるのは、王の特権だ。……だが、不思議だな。記憶はないはずなのに、君が駆け寄ってくると、なぜか胸の奥が温かくなる」
私はおどけて笑い、彼女の桃色の髪を優しく撫でた。 第25話。 王は過去を失い、だが「今」を掴み取った。 聖地編、真のクライマックス。 瓦礫の山を越え、記憶なき王と最大級のノイズ(少女)の旅は、いよいよ世界の再構築へと向けて加速していく!




