再誕の王子様!? ― 記憶喪失と、新たなる王道の第一歩!
眩しい。 まどろみの中で最初に感じたのは、頬を撫でる柔らかな風と、どこか懐かしい花の匂い。そして、私の手をぎゅっと握りしめる、小さくて温かな掌の感触だった。
「……ん、……ここは?」
「――起きた!? フィリップ、起きたのね!?」
視界が開けた瞬間、目の前に飛び込んできたのは、涙で目を真っ赤に腫らした桃色の髪の美少女だ。彼女は私の顔を覗き込み、今にも泣き出しそうな、それでいて心底ほっとしたような複雑な笑顔を見せている。
「……ええと。失礼だが、貴殿は……どなたかな?」
「…………は?」
彼女の動きが止まった。 周囲を見渡せば、そこは瓦礫の山となった聖地の外縁。かつての高度な文明の残骸が転がる草原だ。傍らには、どこか気まずそうに浮遊している小さな通信盤――ジュージュが浮かんでいる。
「……嘘。嘘でしょ。悠真、またなの!? あの時、私の名前を呼んでくれたじゃない!」
「ユウマ? フィリップ? ……ふむ。どうやらそれがオレの名のようだが、申し訳ない。今のオレには、過去のデータという名の蔵書が一切見当たらなくてね。だが――」
私はゆっくりと立ち上がり、ボロボロになった外套をバサァッ! と派手に翻した。 記憶はない。己が何者かも、目の前の少女が誰かもわからない。 だが、私の魂の奥底、空っぽになったはずの場所に、消えない「炎」が宿っているのを感じる。
「――案ずるな、ノイズの乙女よ! 名前は忘れても、オレの魂に刻まれた**【究極の騎士道】**は健在だ! 涙を拭け。貴殿のような美しい少女が泣いている世界など、オレが認めるハッピーエンドではないからな!」
「……っ。もう、本当に……救いようのないバカ。名前も思い出せないくせに、どうしてそんなに偉そうなのよ!」
彼女――セラフィーヌは、呆れたように笑いながらも、再び大粒の涙をこぼした。
『――状況診断:真白悠真の人格OS、再インストール完了。……といいたいところですが、中身は完全に「空っぽ(Null)」ですね。王子様、あなたは今、Lv.1の英雄として再誕したわけです。……やれやれ、私の苦労も増えるというものですよ』
「黙れ、口やかましい通信盤め! オレがLv.1だろうと関係ない。物語がここから始まるというのなら、オレは一歩目から**【最強の第一歩】**を刻むだけだ!」
その時だった。 草原の向こう側から、聖地の崩壊に乗じて現れた野良の魔導兵器群――**【残滓の掃討機】**が、殺気立った電子音を響かせて接近してきた。
「フィリップ、危ない! まだ体力が戻ってないんだから、ここは私たちが――」
「退がっていじろ、セラフィーヌ! 貴殿の名前、今、オレの心に深く刻んだぞ! 名もなき王の最初の戦い、特等席で見ているがいい!」
私は右手を前に突き出した。 記憶はなくとも、指先が勝手に「最適解」をなぞる。 「思い出せ、オレの魂! 運命を捻じ曲げ、絶望を上書きするあの輝きを! 顕現せよ――【新生・王道開拓】!!」
カッ! と私の手の中に、純粋な魔力の剣が形作られる。 それは以前のような完成された黄金の剣ではない。どこか不格好で、だが荒々しいまでの生命力に満ちた蒼い光の刃だ。
「はああああああっ!!」
私は一閃の下に、迫りくる鋼鉄の群れを両断した。 爆発する魔導兵器。舞い上がる火花。 その光に照らされた私は、再び彼女に向き直り、最高の不敵な笑みを浮かべてみせる。
「ハハハ! 見たか、セラフィーヌ! 記憶などという重荷がなくても、オレの剣に曇りはない! さあ、行こう。この世界のバッドエンドをすべて消し去る旅の続きだ!」
「……そうね。あんたは、どこまでいってもあんたなのね」
セラフィーヌは私の手を取り、今度は力強く歩き出した。 記憶のない王。 過去を失い、それでも未来だけを見据える無敵のバカ。 第23話。 聖地ラ・シテ・デュ・ゼニスは滅び、物語は再び、泥臭くも輝かしい「逃避行」へと原点回帰する。 ――オレたちの冒険は、まだ始まったばかりだッ!




