創造主の謁見 ― 神の数式と、記憶なき王の逆鱗
「――ハハハハハ! 待たせたな、この世界の卑小なるデザイナーよ! 貴様が書き上げた退屈な台本を、オレという名の爆弾で木っ端微塵にしてやる!」
大扉を蹴破った先。白銀の光が満ちる最上階、玉座に座る一人の男がいた。 アンドレ。 この美しくも残酷な世界の設計者であり、全人類を単一の計算機に統合しようと目論む「神」だ。
「……来たか、No.9。いや、真白悠真と言った方がいいか。……いや、もうその名は空っぽか」
アンドレの冷徹な声が響く。彼の背後では、巨大なホログラム――**【世界演算核】**が、この世界の終焉に向けて秒読みを開始していた。
「フッ、名など単なるラベルに過ぎん! オレを突き動かすのは、貴様のツラを殴り飛ばせという魂の叫びよ! 【覇道展開・無限の剣座】!!」
私は迷いなく、周囲に数千の魔力剣を具現化させ、神の玉座へと一斉射出した。 だが、アンドレは指一本動かさない。私の剣は、彼の周囲数センチの場所で、まるで最初から存在しなかったかのように消滅していく。
「無駄だ。この場所の物理法則は私の思考そのもの。……お前の攻撃は、私の『許可』なくして成立しない」
「許可だと? 笑わせるな! 王の往く道に、他者の承認など不要! ならば法ごとブチ抜くまでよ! 【概念破壊・超絶王の雷(超越者の雷撃)】!!」
蒼き電光を纏い、私は拳を叩きつける。 空間が歪み、アンドレの絶対障壁に亀裂が走る。だが、奴は眉一つ動かさず、ただ静かに右手を掲げた。
「エラーの排除を開始する。【全事象停止】」
瞬間、私の身体が、思考さえもが凍りついた。 時間が止まったのではない。私の存在そのものが、システムの「書き込み禁止領域」に封印されたのだ。一ミリも動けない。指先一つ、魔力一つ。
「フィリップ! 悠真!!」
背後で叫ぶ声が聞こえる。セラフィーヌだ。 私は彼女を思い出せない。彼女との記憶は、先刻のバトルで全て燃やし尽くした。 ……はずだった。
「No.9よ。お前が守ろうとしたその娘こそが、私の計算を最も狂わせる『最大級のノイズ』だ。ここで消去し、世界を完璧なハッピーエンドへと導こう」
アンドレの指先から、死の光線が放たれる。ターゲットは動けない私ではなく、私の後ろで泣き崩れているセラフィーヌだ。
(……やめろ)
脳内ログは「該当データなし」と告げている。 だが、記憶ではない場所――真白悠真が最期に遺した「否定のコード」が、真空の心臓の中で狂ったように脈打ち始めた。
『――緊急警告。存在しないはずの「感情エネルギー」の逆流を確認。王子様……あなた、記憶を燃料にしたんじゃなかったんですか!? 何を燃やしているんですか!?』
(うるさいジュージュ! 記憶がなければ、今ここで『新しい愛』を作ればいいだけの話だ!)
「オレの……オレの目の前で、その娘に触れるなと言っているんだッ!!」
ドォォォォォンッ!! 停止していたはずの世界が、私の怒りによって無理やり再起動させられた。 蒼い炎が全身を包み、私はアンドレの停止命令を物理的に焼き切って立ち上がった。
「なっ……! システムの根本命令を力技で上書きしたというのか!?」
「フハハ……ハハハ! 驚いたか、神様! これが貴様の計算機には決して載らない、人間の『予測不能な意志(恋)』の力だ! 【真説・王道覚醒】!!」
私はセラフィーヌの前に立ち、迫りくる死の光線を素手で握り潰した。 振り返り、彼女を見る。 名前は思い出せない。共有した過去もわからない。 だが、今、彼女の涙を止めてやりたいという衝動。それだけで、神を殺すには十分だ!
「セラフィーヌ! 安心しろ、オレがここにいる限り、この世のどんな数式も君を傷つけることはできん!」
「……っ、バカ! 本当に、大バカなんだから……っ!!」
彼女が笑いながら泣いた。 その瞬間、世界演算核が激しく火花を散らす。 神の計算が、一人の少女の笑顔によって完全に破綻したのだ!
「往くぞ、アンドレ! 貴様の『完璧な静寂』というハッピーエンド、オレが最悪の『騒がしい夜明け』に書き換えてやるッ!!」
私は右拳を天に突き上げた。 秘密の館の天井を突き抜け、聖地全体の魔力が私の一撃に集束していく。 王は記憶を失い、だが「意志」を手に入れた。 創造主との最終決戦、その火蓋が切って落とされたのだ!




