新世界への飛翔 ― 聖地ラ・シテ・デュ・ゼニスと王の帰還
「……しんみりした顔はオレの道には似合わん! さあ、出発だ、セラフィーヌ! そして愛すべきイナクティフの諸君!」
朝日がアルカディアの浮遊大陸を黄金色に染める中、私はカイトたちが急ピッチで改造した魔導飛行艇『ブレイブ・フェニックス号』の船首に立っていた。 昨夜の悠真としての葛藤など、今は意識の深淵に沈んでいる。今の私は、一万光年の絶望さえも一瞬で踏み越える最強の英雄、フィリップだ!
「もう、いきなり元気になっちゃって……。さっきまで廃工場の屋上で黄昏れてたのはどこの誰よ」
セラフィーヌが呆れたように溜息をつくが、その瞳には昨日までの不安は消え、私への信頼という名の**【不滅の絆】**が宿っている。
「フッ、あれは王としての『瞑想』だ。カイト! 船の調子はどうだ?」
「最高だぜ、フィリップ! あんたが流し込んでくれた魔力結晶のおかげで、この船は今、帝都の最新鋭機すら置き去りにする**【超音速の神槍】**と化している!」
カイトが操縦席で親指を立てる。 私たちは、アンドレが「世界の終焉」を司るための最終演算装置を設置したと言われる、伝説の聖地ラ・シテ・デュ・ゼニスを目指す。そこは魔法と科学が融合した極点であり、このデスゲームの終着点だ。
「よし、全開で飛ばせ! ターゲットは空の彼方、神の箱庭だ!」
轟音と共に飛行艇が加速する。雲海を切り裂き、私たちはかつて誰も到達できなかった高度へと駆け上がる。 だが、その行く手を阻むように、空が不自然に歪み始めた。
『警告、警告。高エネルギー反応を正面に検知。これは……アンドレが展開した**【天空の絶対障壁】**です。王子様、力押しは推奨しません。現在の出力では、船ごと分子レベルで分解されますよ』
ジュージュが冷ややかに告げる。前方の空間には、巨大な六角形の魔力シールドが幾重にも重なり、空を完全に封鎖していた。
「力押しがダメなら、理を上書きするまでだ! セラフィーヌ、オレの手を握れ!」
「えっ、また!? ……もう、わかったわよ!」
彼女の柔らかな手が重なった瞬間、私の中に眠る「使徒の魔力」が爆発的に膨れ上がる。 計算? 効率? そんなものはアンドレにくれてやれ! 今、この瞬間の「熱」こそが、凍りついた物理法則を打ち破る唯一の鍵だ!
「刮目せよ! これが運命を切り拓く王の一撃! 【覇道開門・天空破斬】!!」
飛行艇の船首から、純白の光の刃が放たれた。 絶対に破壊不可能とされた神の障壁が、ガラス細工のように脆く砕け散る。光の破片が流星のように降り注ぐ中、ブレイブ・フェニックス号は加速を緩めず、その「先」へと突入した。
――視界が開ける。 雲を抜けた先に広がっていたのは、白亜の塔が立ち並び、重力を無視して水が流れる、美しくも狂った人工の楽園。
「あれが……ラ・シテ・デュ・ゼニス……」
セラフィーヌが息を呑む。 そこは、魔法によって「死」さえも克服したとされる、アンドレが夢見た「失敗のない世界」の雛形。
「フッ、なかなか趣味の良い庭園ではないか。だが、主の性格が歪んでいるのが玉に瑕だな」
私は不敵な笑みを浮かべ、眼下に広がる聖地を見据えた。 ここには、まだ見ぬ他の使徒たちが集っているはずだ。そして、創造主アンドレの「目」も。
『――事象確定。対象、ラ・シテ・デュ・ゼニスへの侵入に成功。……悠真、これ以上進めば、もう引き返せません。あなたの記憶は、この地の高密度魔力に晒されれば、さらに加速して消えていくでしょう』
(……望むところだ。記憶など、この胸の熱さに比べれば安い代償よ!)
「さあ、行こうか諸君! 宴の会場は整った! 絶望のシステムを上書きし、真の自由を叫ぶ時だ!」
私は飛行艇のデッキから、聖地の中心にそびえ立つ主塔「秘密の館」を指差した。 物語は、いよいよ核心へと突き進む。 フィリップという偽りの王が、真実の王へと至るための、血と光に彩られた第2章が今、幕を開けたのだ。
「全速前進! オレたちの未来に、予定調和の敗北など存在しない!」
蒼い外套が風に激しく鳴り響き、王の凱歌が聖地の空を震わせた。




