「………もっと、ちゃんと、」
「……っ」
瞼が重い。
目を開けるのが億劫である。
「ぃ……き……?」
なにか聞こえる。
「結」
誰かが、自分の名前を呼んでいる。
呼ばれたなら起きなくては、目を覚まさなければ、億劫だとしても、結はその二つの瞳を開ける。
「結、起きた?」
優しい声で、柔らかな表情で、結を覗き込む紬が目の前にいた。内緒話をするような小さな声で、紬は言葉を続ける。
「一緒に星を見よう」
「……ほ、……、し?」
「そう、星。夜空を一緒に見よう」
そう笑いながら話す紬はM2へ「それじゃあ、天井をガラスに変えてくれ」と、指示を出す。
『かしこまりました』
音はなかった。
聞こえてくるのは、紬の規則正しい鼓動だけ。どうやら結は、紬に抱えられているらしかった。ぼんやり天井を見上げていれば、何も変哲のない見慣れた天井がとんどんガラス張りに代わっていく。
周りを見れば、突然変わっていく天井に戸惑いを隠せない箱庭の住人たちがいた。紬のように天井を食い入るように見上げている。ずっと下を見ていた人間が、こぞって上を見ているのはなんだかおもしろくて結は「ふふ」と笑う。
「なにかおもしろいことでもあった?」
「なにもねぇよ」
「……そっか」
紬は目を細める。
眩しそうに細められた瞳に、結は気が付いてしまった。
そっと撃たれたはずの腹を触る。痛みは感じない。そして、触れている感触もない。抱きしめられているはずなのに、温度を感じない。あんなにも怖いぐらい熱くて、冷たかったのに、何一つとして感じられない。
「………なぁ」
「ん?」
「――――――骨が折れるくらい、今すぐ抱きしめろ」
「―――うん、わかった」
紬は、結の体を思いきり抱き締める。
「もっと、強く」
「うん」
「………もっと、ちゃんと、」
「――――、うん」
紬の肩越しに、天窓を見上げる。
黒色の上には、ぽっかり月が煌々と輝いていた。
大きくて、丸くて、薄黄色で、手を伸ばせば届きそうなのに、伸ばしてみても届くことない。行き場を失った手は、ぼたり、と、床へ落ちる。
紬の呼吸音が微かに聞こえる。その音を頼りに、結は呼吸を続ける。
何も知らない箱庭の住人が、遠くで歓声を上げている。霞む視界では、もう何が起きているのか結にはわからない。
それでも、わからないなりに、わかることがあった。
「あぁ、――――――ほしがきれい、だ」
「うん、――――――月も綺麗だね」
コテン。と、結の体から力が抜けた。
紬はわかっている。腕の中で確かに脈を打っていたのに、どくん、どくん、と一定のリズムで動いていた心臓が止まってしまった。その意味がわからないほど、紬は子どもでもない。わかっていても、それでも、結に言われた通りに紬は力いっぱいに、重たくて、少し軽くなった身体を抱きしめる。
あんなに見たかった星空だって、今この瞬間は自分でも驚くほどどうでもよかった。
ただただ―――涙の出ない自分自身に吐き気がした。




