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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

探しに来いと言われて二百年

初投稿となります。

二百年前に呪われた少女の物語──どうぞお楽しみください。

Ⅰ. 二百年前の夜 ― 呪いの始まり


焼け落ちる街を、幼い少女は駆けていた。

「父さま! 母さま! 兄さま!」

だが両親はすでに息絶え、炎の中にはひとりの人影が捕らえられていた。


魔族の掌が喉を締め上げる。

「……人間が深淵に足を踏み入れるとはな」

次の瞬間、首がねじ切られ、血が弧を描いた。


「いやぁあああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

少女は駆け寄り、その首を抱き上げる。

熱と血の重みが腕を濡らし、理解が追いつかないまま震える声をもらした。

「……ど、どこに……?」


魔族は狂気じみた微笑みを浮かべ、囁いた。

「……腕の中のそれは違うのか?」


少女は視線を落とした。

そこに抱いていたのは、血みどろの首。

鮮血に濡れた顔は、紛れもなく兄のものだった。


「ぁ……あぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーッ!!!」

絶叫が夜を切り裂き、暴走した魔力が炎を呑み込み、辺りを焦土へと変えていく。


魔族は前屈みに身を寄せ、唇に指を当てる。

「おもしろい……壊れるか、それとも残るか──楽しませてくれ」


全身を引き裂く痛みが少女を苛み、黒い紋様がその身を走る。

髪は銀に、瞳は鮮血のように赤へと変わっていった。


薄れゆく意識の中で、魔族の声だけが響いた。

「探しに来い……呪いを解けるのは、この私だけだ」


――こうして幼かった少女は、二十一歳の姿へと成長し、そのまま時が止まった存在となった。



Ⅱ. 二百年後 ― ギルドにて


細身の人影が人通りのない路地裏に立っていた。

男か女か判別のつかぬ体つき。

フードを深く被り、口元を覆面で覆っている。

腰には禍々しい紋様の刻まれた黒い長剣が揺れていた。


しばし無言で佇んだのち、人影は低くつぶやいた。

「……行くか」

鞘の中の剣が、くぐもった声で応じる。

「おう、メシ代稼ぐぞ!」


冒険者ギルドの扉を押し開けると、酒場のような喧噪が押し寄せた。

依頼掲示板を見ていたとき、若い冒険者が肩を掴む。


「おい新人、依頼はランク順だ!」


その瞬間、手甲がじゅうっと音を立て、黒く腐り崩れる。

「ぎゃあああ!」

場内に悲鳴が響いた。


鞘の中の剣が低く唸る。

「……気安くコイツに触るな」


ざわつくギルド内を進み、人影は受付嬢に依頼書を手渡した。


受付嬢はにこやかな笑みを崩さず、声を潜めて告げる。

「……最上位ランク、S級──《国砕きの黒剣》アッシュ様。確かにお預かりしました」


その言葉を耳にした者が震え声でつぶやく。

「……実在したのか……国を潰した、あの……」


人影──アッシュは小さく息を吐き、背を向ける。

黒剣からまた声が響いた。

「さぁ、また国ひとつ潰すか?」

「……ほんと、あんたってやつは」



Ⅲ. 食事処 ― 肉の取り合い


先ほどの長剣は竜の姿へと転じるや否や、さっそく注文をして肉を貪った。

その横では、いつの間にかフードと覆面を外したアッシュが腰掛け、同じように食事を始めていた。


「あ! ファンド! それ私の分!」

「肉は早い者勝ちだ! お前が遅いのが悪い!」


二人の名前が飛び交うやり取りに、周囲の客は思わず振り向いた。

だが彼女たちの目には、竜と並んで笑い合うアッシュの姿がどこか美青年のように映っていた。

実際には肉汁まみれで取り合っているだけなのに──女性客たちはうっとりとため息を漏らした。



Ⅳ. ラスト ― 二百年の孤独


食堂を出ると、街は昼の喧噪を失い、静けさに包まれていた。

アッシュは歩みを緩め、夜空を仰ぐ。


「……二百年か。王も国も替わった。村も街も面影はなく、人もみんな、老いて……消えてしまったな……」


声は夜に溶け、胸の奥に懐かしい痛みが蘇る。

──二百年の間に出会い、共に笑った者たち。

みな老いて去ったが……なかには、久しぶりに会いたいと思う“あいつ”もいる。

次に会えたら、どんな顔で笑うのだろうか。


そして、あの夜の魔族。

顔すら思い出せず、記憶は靄に包まれている。

その者を探すのは、砂漠で砂粒を拾うような途方もなさだった。


だが。

「探しに来い──呪いを解けるのは、この私だけだ」

その声だけは、今も鮮やかに耳に残っている。


ファンドが少しおちゃらけ混じりに言う。

「でもよ、お前さんは若作りに苦労せずに済んでんだ。悪くねぇだろ?」


アッシュは思わず小さく笑みをこぼした。

「若作りって……あんた、他にもっと言い方ないわけ?」


アッシュは拳を握り、歩を進めた。

懐かしき者に、もう一度会える日を願いながら。

だが歩む理由はただひとつ──

二百年前の夜に刻まれた呪いを解くために。


ここまで読んでくださり、ありがとうございました。

短編ですが、楽しんでいただけたなら嬉しいです。


『ファンド:おい、オレの出番少なくねーか?』

『アッシュ:……あんた、肉食べてただけじゃない』

『ファンド:そこが大事なんだろ! ……で、なんだ? ブクマとか感想とかくれるとオレの飯が増えるらしいぞ!』

『アッシュ:……読者をダシにしないの』


二人の旅は、まだ続いていきます。

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