3 悪夢?
食事を終えると、私は「テント」と呼ばれる円形の白い構造物へ案内された。今日の任務で疲れたため、私の事情は明日以降に回し、当面は予備テントで過ごすよう指示された。
彼らはここで眠るように言った。意味はよく分からないが、横になって動かなければよいらしい。
過去の記憶がない私は、なぜここにいるのかも、これからどうすべきかも皆目見当がつかない。ただ彼らの指示に従って行動するしかない。
しかし一つだけ不可解なことがある。彼らが話す言葉の単語を一切知らないのに、伝えたい意味は理解できる。そして私の思考が言葉になっても、彼らには通じるのだ。
この状況は、何も知らない私から見ても極めて不自然である。
「これからどうなる?」
誰も答えてはくれないが、その疑問は頭から離れず、次第に意識が薄れていく。
「グゥ……」
朦朧とする中、再び危険を示す唸り声が聞こえた。
体を動かそうとするが、鉛を詰められたように重い。まぶたを上げることさえ困難だ。
呼吸が苦しくなり、窒息感が全身を包む。
「グゥ……グゥ……」
気にすればするほど、唸り声は近づいてくる。獲物を弄ぶようにゆっくりと迫る。恐怖という異質な感覚が私を支配する。
どれほど時間が経ったか。ようやく体の自由を取り戻すと、急いで周囲を見回すが、生き物の気配はない。唸り声も幻だったかのように消えている。
何が起きたのか分からない。今も安全なのかどうかも分からない。それでも、この異様な恐怖感が私をテントから遠ざけている。
月明かりを頼りに、私は無目的に歩き続ける。
周囲は森に囲まれ、地面はでこぼこしている。それでも月の光を拾いながら、一歩ずつ進む。
「グッド……グッド……」
突然、尻尾が体と同じくらい大きな生物が肩に乗りかかってくる。
「私と『彼ら』が違う存在で、良い香りがすると言いたいのか?」
「グッド……」
謎の生物は飛び降り、私に付いてくるよう促す。
「少し待ってくれ」
月明かりの中では歩きにくい。それでも私の言葉を聞いた生物は速度を落とし、私に合わせてくれる。
「グッド」
最後に一つのテントの前で止まり、中に私と似た匂いの者がいると告げる。
テントに近づき、中の人物を確認しようとした時。
「誰か外にいるの?」
中から声がかかる。その瞬間、謎の生物は忽然と姿を消した。テントが開き、漆黒の長髪をなびかせた人物が現れる。
「レイアね。悪夢でも見たの?」
蓮が優しい声で問いかける。
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「おい、蓮今日はなんで寝坊してるんだよ!朝飯当番だろうが!」
騒がしい声が眠りを引き裂く。体を起こそうとした私を、腕に押し戻される。
「もう少し……寝かせて」
蓮の吐息が耳元で囁く。
彼女の胸元に顔を埋めるように抱きかかえられたまま、昨夜の記憶が蘇る。
「蓮!聞こえてるの!」
テントが乱暴に開け放たれ、桜髪の女性が飛び込んでくる。
「きゃあ!!! 不埒者!!」
鼓膜を裂く絶叫がテント内に響き渡った。