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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第二章 混乱が日常になるとき
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4 英雄の代替

「前に雛原舞が言ってた通りだよ。人類がまだ生き残れている理由は、Saliveが突然攻撃をやめたから。でも今、またSaliveの攻撃行動が確認された。誰にも、それがいつ止まるのか分からない。人々に残されたのは絶望だけ。そしてその絶望こそ、Saliveよりも恐ろしい存在なんだ。まるで疫病みたいに、人間を内側から壊していく。」


 蓮はそう説明した。


「だから、俺がその……希望になるってこと?でも……」


 俺が人類の希望だなんて、そんなの……。


「何を疑ってるのか分かるよ。あなたが人類の希望になれるのは――ゼロの存在があるから。」


「Zero?」


 その言葉は何度も耳にしたことがあった。けれど、誰もそれが何を意味するのか教えてくれなかった。


「Zeroはね、Saliveが現れた当初の“英雄”だった。……いや、英雄って言葉は彼には合わないかも。人前に出ることも、人を助けることもしなかった。でも当時、彼こそが唯一“英雄”と呼ぶにふさわしい存在だった。Saliveが出現したばかりの頃、彼は最初にSaliveを完全に消滅させた人間だった。Sprobeの適応者技術が発表された後でも、彼の力は他を圧倒していた。さらに一年後には、たった一人でSalv6を撃破したんだ。人々が彼を好もうが嫌おうが関係ない。Zeroこそが、人類に残された希望だった。性別すら知られていない。“Zero”という名前さえも、人々が勝手につけたあだ名にすぎない。それでも、Saliveの猛攻の中で、人々は隠れ家の中でZeroの活躍を見聞きすることだけを生きがいにしていたんだ。」


 長い説明を終えた後、蓮は俺の方へ向き直った。


「でもね、ZeroはSalv6を倒したあの日から、一度も姿を見せていないの。」


「じゃあ、俺は……Zeroの代わりってこと?」


「そう。Zeroはその後、Sprobe機関に加入すると発表して、初めて公の場に姿を現した。けど、長い沈黙が続いたせいで――“Zeroはもう力を失ったんじゃないか”“今のZeroは偽物だ”っていう噂が広まったの。そんな時に、あなたが現れた。機関の装置を使わずにSaliveの“権核”を直接吸収できる力を持つ人としてね。あなたが第二のZeroなのか、それとも本物のZeroなのか、誰にも分からない。でも、人々は溺れる者が藁を掴むように、あなたを“最後の英雄”として崇めはじめたんだ。」


 蓮の話を聞き終えた俺は、ようやく状況を理解した。これが良いことなのか悪いことなのかは分からない。けれど、この流れを自分の意思で変えることはできないと悟った。


 それでも、心の奥に小さな不安が残った。


「……じゃあ、俺はどうすればいい?」


 俺はいつものように、蓮に答えを求めた。


「どうすればいいか、じゃなくて――レイアはどうしたいの?」


 蓮は、俺が期待した“指示”をくれなかった。


「チュン、チュン。」


 足元に小鳥が数羽降り立った。以前、森で見たリスとは違い、鳥たちの考えはよく分からない。ただ“食べもの”という言葉だけが伝わってくるようだった。


 そのとき、蓮はどこからかパンを取り出し、小さくちぎって鳥たちの足元に撒いた。


「レイアも、あげてみる?」


 蓮はパンを一かけ俺に差し出した。俺はそれを受け取り、蓮の真似をして鳥に餌をやる。


 そして、俺がうつむいた瞬間――横から伸びた腕が、そっと俺を抱きしめた。


「ねぇ、レイア。こうして抱きしめるの、どれくらいぶりだろうね。」


 蓮の優しい声が、耳元で囁く。胸元から香る、懐かしい匂い。その温もりに包まれながら、過去の記憶がゆっくり蘇る。


「……半月くらいかな。」


「そう?わたしにはもっとずっと長く感じたよ。」


 蓮の腕の中のぬくもりが、心の奥まで染み込んでいく。何も考えたくなくなった。ただ、この瞬間が永遠に続けばいい――そう思った。


 そして、花との会話を思い出す。


「蓮、俺……お前のことが好きだ。」


 この感情が、きっと“好き”というものなんだ。


「うん。わたしも、レイアのこと好きだよ。」


 蓮は少しも驚かず、穏やかに答えた。そのまま続けて言う。


「でもね、“好き”にもいろんな種類があるんだよ。本当の意味を理解したときに――もう一度、わたしに告白して。」


 蓮の声は、春の風みたいにやわらかかった。眠くなんてないのに、彼女の腕の中で――俺は、ただ静かに、目を閉じた。


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