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崩れゆく世界で渇望している  作者: Altsaber
第二章 混乱が日常になるとき
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2 それでも、俺たちはまだ生きている

 廊下の突き当たり、階段を上がって二階へ。


 部屋番号をたどって二〇七号室を探すつもりだったが――どうやら、その必要はなさそうだった。


 少し離れた部屋の前に、黒髪の女性が椅子に腰かけていた。


 間違いなく、星月蓮だ。


 彼女の無事を確認した瞬間、胸の奥にこびりついていた焦燥が半分ほど消えた気がした。


「蓮。」


 近づいて声をかけると、ようやくこちらに気づいたようだ。


「あっ、レイアか。ごめんね、君が昏睡してた間、そばにいてあげられなくて。でも、無事でよかった。」


 蓮は無理に笑みを浮かべたが、その声には疲労がにじんでいた。


「他の人たちは?」


「……あまりいい状態とは言えないけど、幸い、全員生きてる。それもレイアのおかげだよ。」


 そう言いながら立ち上がった蓮は、ドアの小窓から室内を覗き込んだ。


 俺もその視線を追って覗き込むと、奥のベッドにひとりの女性が横たわっていた。


 全身に管が繋がれ、顔には透明なマスクがかけられている。


「花はね、あなたたちを助けに行くって言って聞かなくて……それに、残ったわずかな権能で私を守りながら救援を待ってくれたの。そのせいで内臓がかなり損傷したけど、なんとか命は取り留めた。……少なくとも一ヶ月は自由に動けないだろうけど。」


 蓮は窓の向こうを見つめたまま、淡々と語った。


 どうやら、最後にsalv4の防壁を破ってくれたのは花だったらしい。


 今、彼女はそこに横たわり、以前の明るさは微塵もなかった。


「詩玖は最後に残った権能をすべて使って、自分を氷で封印したの。攻撃を防ぐためにね。命に別状はないけど、権能を使い果たしたせいで自力では出られない。今は本部から対処班が来るのを待ってる。病院に空きがないから、地下に安置されてるわ。」


「雛原舞は直接本部に搬送されたから、詳細はまだわからない。」


「それから、ジンの怪我は軽かった。機関で権能を補充して、今はほとんど問題ないわ。」


 蓮は落ち着いた声で、みんなの状況を説明してくれた。


 ――少なくとも命は助かった。それだけでも十分だ。


 だが、俺が一番気がかりなのは舞だった。


 あの状況で無事でいられるとは思えない。


 それでも、祈るしかなかった。彼女が、まだ生きていることを。


「蓮、昼飯買ってきたぞ。」


 不意に、聞き覚えのある声が響いた。


 振り向くと、荒塚悠がこちらに歩いてきていた。手には三つの紙袋。


「なんだ、もう目ぇ覚めたのかよ。」


 俺に気づいた悠が、ぶつぶつと文句を言う。


「悠は一番軽傷だったの。最後にレイアとジンが生き延びられたのも、彼が後ろで援護してくれたおかげ。」


 蓮がさらっと補足する。


「ほら、これ。二人の昼飯。」


 悠は袋を二つ差し出した。俺が手を伸ばす前に、蓮がそれを受け取る。


「行こう、レイア。」


 蓮はそう言って、廊下の隅のテーブルへ向かうと、さっさと包みを開けて食べ始めた。


 目が覚めた時は空腹なんて感じなかったが、口に入れた瞬間に胃が動き出す。


 咀嚼するたび、ようやく生きている実感が湧いてきた。


 悠は向かいの椅子に腰を下ろし、手にした弁当をじっと見つめている。


 その視線の先には――花の部屋。


 俺が何気なく彼を見た時、悠は気づいたように弁当を軽く振って言った。


「これ、ジンの分だ。俺は外で食ってきた。」


「ふん。」


 蓮は鼻を鳴らすだけで、特に反応を見せなかった。


「おい、その“ふん”はなんだよ! 早く食えよ、冷めるぞ!」


 悠はすぐさま噛みついたが、蓮は完全にスルーした。


 周囲では看護師や医者が慌ただしく動き回っている。


 おそらく、Saliveの襲撃で負傷者があふれているのだろう。


 食事を終えたあと、俺たちはバージョン・ジンの病室へ向かった。


 彼は上半身裸のまま、腰に厚い包帯を巻き、真っ白な顔でベッドにもたれていた。


「おい、飯。」


 悠は病人相手でも遠慮しない声量で言った。


 ジンは黙って弁当を受け取り、脇に置く。食べる気配はない。


「温かいうちに食え。冷めるとマズいぞ。」


 珍しく悠がしつこく言う。


「わかってる。」


 ジンは淡々と返した。


 普段から口数は少ないが、今日の彼はとくに冷めて見えた。


「隊長の様子は?」


 突然、ジンが口を開いた。氷宮詩玖のことだ。


「命に別状はないわ。でも安全に救出するには、本部の“時間魔女”が来るのを待つしかない。今のSaliveの動向が不明だから、そう簡単に動かせないのよ。少なくとも半月はかかる。」


 蓮が答える。


「……そうか。」


 ジンはそれだけ言うと、窓の外を見つめたまま沈黙した。


「さて、もう行こうか。ゆっくり休んで。」


 蓮が立ち上がり、俺も軽く会釈して部屋を出た。


 だが悠だけは、その場に残った。


 ドアを出たところで、蓮が大きく伸びをして、俺に視線を向ける。


「これでお見舞いは終わり。次は、レイアの番だね。」


「俺の番?」


「ふふ……忙しくなるわよ。――我らが“小さな英雄”さん。」


 蓮は意味ありげに微笑んだ。


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